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「ねぇねぇ!あそこにしよ!」


と言って、桜が入っていったのは大衆食堂だった。


「いらっしゃい!なんにします?」

「ボクはね~…えっと~」

「私は、このキツネ蕎麦で」

「オレは日替わり」

「えっとね、ボクは焼き魚定食~」

「キツネ蕎麦に日替わり、あと焼き魚定食だね」

「はい」

「了解っ!」


お昼時より少し早いからか、客は少なかった。

ていうか、その客…知った顔なんだけど…。


「あれ、隊長じゃないか?」

「シーッ!今は隊長じゃないだろ!」

「あ…そうか…。改めて…あれ、紅葉さんじゃないか?」

「いや、どうだろう…。紅葉さんがこんな店に来るわけないし…」

「こんな店で悪かったな!」

「あ!オヤジ!違うって!」


何をしてるんだか…。

厨房に言えば昼ごはんは作ってくれるんだけど、こういうところで食べるやつらもいるんだな。

みんなの、いつもと違う一面を見た気がする。


「衛士さんもここに来るんだね」

「まあ、そうなんだろうな」

「え?姉ちゃん、知らなかったの?」

「まあな…あんまり外に出ることもなかったから…」

「ふぅん」

「おなか空いた~」

「もうちょっと待ってくれよ、嬢ちゃん。そこのやつらの、後回しにしてるから」

「えぇっ!そりゃないよ!」

「うぅ~」


机に突っ伏す。

無意味に足をバタバタさせてみるが、結局体力を浪費するだけだと気付いたらしい。

グッタリとして、そのまま動かなくなった。


「ところで、風華は何を買ったんだ?」

「えっと…お薬の材料と、新しい本だよ」

「何の本なんだ?」

「お料理の本」

「料理、作るのか?」

「あ…うん…ちょっと、今度やってみようかと思って…」

「ふぅん…。まあ、厨房のやつらにも教わるといい」

「うん、そうだよね」

「嬢ちゃん、お待たせ。焼き魚定食だったね」

「やった!いただきます!」

「どうぞ」


早速がっつく桜。

そんな急いで食べることはないだろうに…。


「それにしても、料理の本か~。いいねぇ。お姉さんに何か作ってあげるのかぃ?」

「そうですね。姉ちゃんにも何か作ってあげようかな」

「ははっ!美味しい料理、作ってやりな!」

「はい!」

「じゃあ、お姉さん方はもうちょっと待っててくれよ」

「ああ。急がないから、ゆっくりでいいぞ」

「ふふ、そんなわけにはいきませんで。衛士長さんを待たせたとありゃあ、末代までの恥だ!」

「なんだ、知ってたのか」

「お噂はかねがね…ってやつでさぁ。いや~、噂と実際で見るのとでは雲泥の差ってやつだね!思ってたよりずっと美人さんだ!」

「な…何を…」

「ははっ、姉ちゃん、照れてる~」

「もう!からかうんじゃない!」

「オヤジ~、こっちも早く頼むよ~…」

「お前らは一番後だ!ここで屯ってる暇があったら、城の警備に戻りな!」

「えぇ~…隊長とはえらい違いだぁ…」

「そんなこと言って、衛士長さんに苦労かけてんじゃないだろうな!」

「えぇ…そんなこと…ないですよね、隊長?」

「さあな」

「そ、そんな…酷いです~…」

「あははははっ、面白いね~」

「食事は楽しく!これが一番でさぁ!」

「そうだな」

「俺たちは、いつになったらその楽しい食事にありつけるんだぁ…?」


みんなで笑った。

…いや、食べることに夢中になってた桜だけは、みんなが笑ってるのを見て首を傾げるばかりだった。

それがまた面白くて。



ふむ…。

なかなかに美味しかったな。

桜に何個かおかずを取られてしまったが、まあいいだろう。

夕飯のとき、覚えておけよ…。


「ご馳走様」

「ご馳走様でした」「ご馳走様~」

「毎度!」

「いくらだ?」

「三人で八百円でさぁ」

「ほぅ…安いんだな」

「安いだけがうちの取柄なんでね」

「そんなことないぞ。美味しかった」

「美味しかったよ~」

「へへ、ありがとうございやす」

「じゃあ、四百円出すね」

「いや、いい。オレが出すから」

「ダメだって!」

「せっかくお姉さんがおごるって言ってくれてるんだ。甘えとくのが、妹の役目ってもんだよ」

「オヤジ、なかなかいいこと言うな」

「それでもダメなの!」

「あ、そうだ。今度、お姉さんに料理を振舞ってやるんだろ?それの代金を今払ってもらう、って考えればいいんだ。いい案だろ?」

「でも…」

「なっ。姉妹同士だろ?遠慮すんなって。じゃ、衛士長さん。八百円な」

「ああ」


八百円をオヤジに渡す。


「はい、ちょうどね!毎度あり!」

「また来るね~」

「お、ありがとな。嬢ちゃん」

「うん。じゃあね~」


店を後にする。

桜は、人ごみに紛れて見えなくなるまで、外まで見送ってくれたオヤジに手を振っていた。


「ごめん…姉ちゃん…」

「謝られるようなことは、何もしてない」

「そうだよ、風華」

「桜は、やっぱりもうちょっと遠慮を覚えた方がいいな」

「えぇ~…」

「ね、絶対、埋め合わせはするから」

「そんなことをしてもらいたくて金を出したわけじゃない」

「分かってるけど…」

「なら、そんなこと言ってくれるな」

「………」

「もう言わないな?」

「…うん」

「よろしい」


頭を軽く撫でてやると、風華は何か複雑な笑顔を見せた。


「あ!いろはねぇ!あれ欲しい!」

「お前は…。ほら、小遣いやるから、自分で欲しいものを買って来い」

「やった!じゃあ、行ってくるね!」

「オレたちは帰るから。桜も夕飯には帰って来いよ」

「分かってる!」


そう言って、桜はどこかへ走り去っていった。


「あ、風華はもういいのか?帰るなんて言っちゃったけど」

「うん。もう粗方買ったから」

「そうか。じゃ、帰るか」

「うん」


昼になって、いよいよ騒がしくなってきた市場を出て、帰路に就く。

風華は、まだ気にしてるみたいだったが、口に出さなかっただけ良しとしよう。

それにしても、オヤジ、私たちを姉妹って言ってたな。

…ふふっ、姉妹かぁ。

最近会ってないけど、あいつら元気にしてるのかな…。

また逢えるといいな…。

自分も、こんな太っ腹な姉貴が欲しいです。

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