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「注目、注目~」
「何回当たりになった?」
「わたしは一回だけだったの」
「へぇ~、すごいね」
「えへへ、そうかな」
「注目だってば!」
「はぁい」「分かったよ」
「ぅおっほん!では、結果を発表する」
「………」
「今回、武勲章を獲得した者がいる。それは紅葉だ」
「おぉ~」「やったね」
「紅葉、前へ」
子供たちの横から回って前へ出る。
すると、頭ひとつ分くらい低い和正がなぜか得意げに胸を張っていて。
「武勲章を渡せるのは、みんなの主導者だけなんだぜ」
「あぁ、なるほどな」
「和正が一番年上だってだけでしょ」
「そうだよ」
「う、五月蝿い!とにかく、武勲章の授与だ」
後ろの大きな石の上に置いてあった何かを取って、こちらに振り向く。
その何かは、石で作った勲章だった。
「武勲章、授与」
「はい、拍手!」
「おめでと~」「結構久しぶりだよね」
盛大な拍手と例の双子による草笛の演奏の中、武勲章を受け取った。
よく見ると石には精密な細工がしてあり、今日の日付まで彫ってあった。
「前は遙だったからな」
「ほぅ。遙もやったのか」
「うん。すごかったんだぜ」
「ふぅん。見てみたかったな」
「また今度な。今日は遙は家出してるって聞いたから誘えなかったんだ」
「そうか。それは残念だ」
後ろの方に立っているハルをチラリと見る。
ハルは何かを聞くように首を傾げて。
「よし。じゃあ、武勲章受章者から話がある」
「え?」
「そういうしきたりなんだよ。なんでもいいから話すんだ」
「あー、そうだな…」
なんか、前にもこんな風に話を振られたような記憶がある。
あれは美希からだったな。
さて、何を話したものか…。
「あー、本日、この栄誉ある章を受けられたことを大変誇りに思います。今回のことを励みとして、更なる高みを目指してゆく所存であります」
「何を言ってるのか分かんない」
「あー、まあ、そうだな。武勲章を貰って嬉しい。これからも更に良くなるように頑張る、ということだ」
「おぉ~」「私も頑張るよ!」
「よし。これで授与式も終わりだ。最後にもう一度確認するけど、みんな、怪我はないな」
「ないよ」「大丈夫」
「うん。それじゃあ、解散!また明日、思いっきり遊ぼうぜ!」
「「「おぉーっ!」」」
そして、太陽も沈みかけた赤い世界の中、家路へと就く。
ピカピカに磨かれた勲章は、夕日を反射して輝いていた。
家に帰ると屋根にカイトが泊まっていて、一所懸命に羽根繕いをしていた。
「夜の遅めって言ったのに」
「む?あぁ、お帰り」
「ただいま」「ただいま~」
「なんかおっきい鳥がいる~」
「ありゃ?タルニアにくっついてた不死鳥じゃないのか?」
「ん?ふむ。なるほどな。しかし、桐華をあまり困らせてやるなよ」
「分かった分かった」
「ハルお兄ちゃん、この鳥と知り合いなの?」
「まあね。って、そういえばリュウは、こいつが喋っててもあまり驚かないんだな」
「うん。ずっと前に見たことがあるの。この鳥じゃないけど…」
「私には、我が主から貰ったカイトという名がある。出来ればそちらで呼んでほしいのだが」
「気に入ってるんだな」
「我が主に貰った、一番最初の贈り物だ。気に入らないわけがないだろう」
「まあ、そうだな。それで、なんでこんなに早くに来たんだ?」
「望がな。早く返事が欲しいからと、届くのは明日の朝だと何度言っても急かすのでな」
「向こうに着くまでそんなに時間が掛かるのか?」
「いや、十分ほどだが、そうでも言っておかないと寝ないだろう」
「あぁ…」
それはありえるかもしれない。
美希や香具夜がいるとはいえ、望はあれで結構頑固だから、夜が遅くなると言えば手紙が到着するまで起きているだろうな。
そうなれば、響や祐輔、夏月なんかも起きてる可能性も出てくるわけで。
「手紙って?」
「あぁ、そういえば、リュウには言うのを忘れてたな。まあ、夕飯を食べながら話すよ」
「うん」
望とリュウか。
見ず知らずの二人が手紙を交わすとは、なんだか面白くなりそうだ。
チビたち三人は夕飯も早々に切り上げて、手紙を描くのに一所懸命になっていた。
私たちはそれを眺めながら少し雑談。
「あ、そうだ」
「何?」
「何か足りないと思ったらさぁ、男っ気がないのよ」
「はぁ?なんだ、それは」
「六人も集まってさ、男の人が一人もいないんだよ」
「…そんなに男が好きなら、旅団に戻ればいいじゃないか。あっちは男の方が多いだろ」
「ち、違うよ!そんなんじゃなくて!なんというか、華がないというか」
「…普通は逆だけどな」
「ん?」
「まあいいじゃないか。女三人の中になんて、男も入ってきにくいだろ」
「そうかもしれないけどさ。…あ、そうか。いつもなら利家がいるんだね」
「兄ちゃんは政務で忙しいから。なかなか帰ってこれないんだよ。たぶん」
「たぶんって…」
「そういえば、兄ちゃんって全然気にしないよね、男とか女とか。姉ちゃん以外は」
「ん?ん?今、なんか聞き捨てならないことが」
「…風華」
「いいじゃない、別に」
「何?すっごく気になるなぁ。情報屋として」
「兄ちゃんは、姉ちゃんのことを女性としてみてるってこと」
「………」
「ほぅほぅ。二人は恋仲ってこと?」
「違うよ。もう結婚してるんだ」
「えっ、じゃあ、紅葉ってば皇后さまってこと?」
「そうなるね」
「はぁ~、こりゃすごい情報だ。紅葉が結婚。色気も何もない紅葉が」
「う、五月蝿い!もういいだろ!この話は終わりだ!」
「うん?照れてる?可愛いなぁ」
「五月蝿い!オレはもう寝る!」
「手紙、書かないの?」
「あ…そうだった」
「愛しの利家陛下にも書きなよ~」
「お前は黙ってろ!」
遙を一度睨み、チビたちのところへ行く。
チビたちは気付いてないのか、黙々と手紙を描き続けて。
私も筆と紙を取り、手紙を描いていく。
利家宛にも一通書くかな。
…ニヤニヤする二人に、描き損じらしい丸められた紙くずを投げておいた。