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昼ごはんが思ったより長引いてしまい、集合場所まで走るはめになった。
葛葉が昼寝のために家に残ったから、まだ速く走られたけど。
ていうか、光もリュウも飛んでいるから、走ってるのは私だけか…。
「ここなの」
「ごめんね。待った?」
「ううん…って」
「よぅ。オレも混ぜてもらえるか?」
「銀色のお姉ちゃんだ!」
「ん?銀色?」
「うん。銀色」
「いろはお姉ちゃんなの!」
「銀色のいろはお姉ちゃん?」
「銀色はいらないぞ」
「分かった~」
「それで、紅葉も参加するんだよな!」
「ああ」
「うちの追手は厳しいけど、泣いちゃダメだぜ」
「望むところだ」
「よ~し。全員集合!」
隊長格の男の子が声を掛けると、いろんなところから子供が出てきた。
草むらや窪地、さらには隠れ蓑や迷彩服を使ってる子供もいた。
「…かくれんぼも兼ねているのか?」
「甘いな。これは生き残り合戦だ。生き残るためには手段を選んでられない」
「ほぅ」
「よし、集まったな。じゃあ、分かってると思うけど、新入りがいるからな。注意事項を説明しておく。まずひとつ。怪我をしない、させない。楽しく遊ぶための最重要条件だ。分かってるな」
「うん」「いいから次に行けよ」「まだ~?」
「ぅおっほん!」
咳払いをして、手を挙げる。
そして、相槌や野次がなくなったところで話の続きを始めた。
「次は、この追手の規則についてだが…」
「前の条件を守ればなんでもあり。ただし、村に入るのは禁止」
「行動可能範囲は村の鐘が聞こえる場所、だろ?」
「俺の台詞を取るな!」
「言うのが遅いんだよ。それを先に言えば、俺たちも言わなかったよ」
「そーそー」
「うぐぐ…。もういい!当たりを決める!」
そう言って双子らしい兄妹を睨みながら、懐からたくさんの紐を取り出す。
「先が赤色になってる紐を引いたやつが当たりだ。当たりは十人。さあ、引け!」
「あ。白だ」「私は黄色だったよ」「緑~」
「なんで色を統一しないんだ…」
「い、いいだろ!いろんな色がある方が綺麗だって言ってたし…」
「誰が?」
「……!な、なんでもないよ!」
「ふぅん…」
なんでもないわけはないんだろうけど。
さて、誰なのかな。
チラチラ見てる先は…。
…ふぅむ。
なるほど。
「は、早く引けよ!」
「むぅ…。和正、乱暴なの」
「う、うるさい!」
「あ。いろんな色が付いてるの」
「よ…」
「……?よ?」
「よ…良くないことが起こる前触れかもな!」
「もう!和正なんて嫌いなの!」
「あぅ…」
…まだまだ子供だな。
それにしても、和正って名前だったのか。
他の子の名前も分かればいいけど…。
「紅葉も引けよ…」
「あの紐、どうやってリュウに引かせたんだ?」
「なっ!何の話か分からないな…」
「嘘をつけ。リュウに引かせる直前、懐の内側で何かやってるのが見えたぞ」
「……!」
「でも、リュウがどれを引くか分からないのに、的確にあの紐を引かせていたな。何か仕掛けがあるのか?」
「ひ、秘密だ…」
「ねぇ、いろはお姉ちゃんは何色だった?」
「オレは今からだな。どれどれ…」
どの紐にしようかと、ゆっくり手を伸ばす。
すると和正は、さっきと同じ動作を今度は目の前でやってみせる。
「ふむ。なるほどな」
懐の中で紐の束を変えていたのか。
しかし、また大掛かりだな。
リュウに虹色の紐を引かせるためだけに、あれだけの紐を準備するとは。
さて。
じゃあ、これにしようかな。
和正がニヤリとした瞬間、一気に手を後ろに引く。
「よし。紅葉が当たり…」
「ほら。オレも虹色だ」
「わぁ~。一緒なの!」
「え?あれ?」
「どうしたんだ。和正」
「あ、赤い紐は…?」
「赤い紐?寝ぼけているのか?」
「そうだよ!どう見ても虹色じゃない!」
「うっ…。リュウ…」
「次がつかえてるぞ。早く回れ」
「お、おぅ…」
首を傾げながら次へ向かう。
…私が"赤い紐の束"から素直に引くわけがないだろ。
「ほら。リュウ。返すよ」
「え?いろはお姉ちゃんのでしょ?」
「まあまあ。持っとけ」
「…うん」
私が当たりをやってもつまらないだろうからな。
それにしても、狩りなんて久しぶりだな。
じっくり楽しませてもらうぞ。
決まった十人の当たりの中には光の姿もあった。
「頑張ってね、光」
「うん。リュウも、頑張ってね」
「えへへ。分かってる」
「注目~」
「当たりの説明だろ?早く済ませろよ~」
「そうだそうだ」
「そこの双子、五月蝿い!」
「ほいほ~い」「和正の方が五月蝿いけどね」
「ぅおっほん!じゃあ、当たりの説明だけど、当たりは絶対にこの腕輪を付けること。腕輪をしてない当たりに触られても交代しなくていいぞ」
「分かってるから早く!」
「万一、腕輪の大きさが合わない場合は、ここに置いておくから取りにくること」
「分かってるって!」
「………。じゃあ、俺の合図で始める」
「いよっ!待ってました!」「真打ち!」
…こいつらは、そんな言葉をどこで覚えてくるんだ。
「三、二、一…」
「「始め!」」
「あっ!俺の台詞!」
「とう!」
目の前にいた子が、早速攻撃を仕掛けてくる。
横に一歩動いてそれを避け、次の一歩で一気に開始地点から離れる。
「こら!双子!待て!」
「へへ~んだ。バカ和正~」
「悔しかったら、捕まえてみなよ。当たりでしょ~?」
「お前らのせいだ!」
いきなり半数以上が交代したようだな。
たしかに激戦らしい。
「お母さん、捕まえた!」
「甘いな」
「あにゃっ!?」
後ろから突っ込んできた光をかわし、押さえつける。
さすが白龍といったところだな。
接近してきた速度は相当だった。
「あうぅ…。痛いよぉ…」
「あっ。すまない…。つい癖で…。大丈夫か?」
「うん。大丈夫だよ」
「そうか。良かった」
「えへへ」
光の頭を撫でてやる。
でも、抱きつこうとしたのはきちんと避けておくけど。
「あぅ…」
「それは、当たりじゃなくなるまでお預けだな」
「むぅ…」
「じゃあな。頑張れよ」
「うん!」
軽く手を振って、素早くその場を離れる。
さあ、狩りの始まりだ。
…でも、さっきみたいなことにならないように気をつけないとな。