表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/578

114

「光、起きなさい。お昼ごはんだよ」

「むぅ…」

「そういえば、朝から寝てたのか?」

「ううん。朝ごはん食べて、葛葉とリュウが行く直前に」

「ふぅん」

「二人、呼んでこようか?」

「あ、いや、いいよ。それより、お昼ごはんの準備、しとこ」

「分かった」

「オレは光を起こしてから行くよ」

「うん。よろしく」


そう言って、風華も部屋を出る。

さて、光だな。

縁側でも一番日の当たる場所で、気持ち良さそうに眠っている。

起こすのは可哀想なかんじもするけど…。


「やっほ~。いろはねぇ、昼ごはん?」

「オレは昼ごはんじゃない」

「もう…。今からお昼なの?」

「ああ」

「じゃあ、ボクも一緒に食べていい?」

「それは風華に聞け」

「いろはねぇが答えてくれたっていいじゃない」

「オレは光を起こさないといけないからな」

「いいかダメか答えるだけじゃない」

「今は、光を起こすことが最優先だ」

「むぅ…。なんで一言答えるくらい出来ないのさ!」

「だから、風華に聞けと言ってるだろ。こうやって無駄な受け答えをしてる間に聞きに行けるじゃないか」

「ふんだ。いろはねぇのバカ!」

「バカで結構。バカだからお前への返答は出来ない」

「むぅ~!もういいよ!風華に聞きに行く!」

「行ってらっしゃい」

「ふんだ!」


そして何か悪態をつきながら、桜は表へと回っていった。

…よし、光だな。


「紅葉ぁ…。遙が…遙が見つかんないよぉ…」

「そうか」

「うっ…うぅ…。きっと、ぼくのこと、嫌いになったんだぁ…」

「そうか」

「紅葉ぁ…。紅葉なら分かるでしょ…?遙の匂い…」

「オレには地面を嗅ぎ回る趣味はない」

「そんなぁ…」

「そのうち帰ってくるから泣くな。宿営地に戻ってお茶でも飲んでこい」

「うん…。分かった…」


涙を袖で拭きながら、桐華は帰っていく。

まさか、オレの鼻を頼ってくるなんてな。

まあいいけど。

…周りに人の気配はないな。

よし、光を…


「望から伝書を預かってきているのだが」

「あぁもう!さっきから何なんだ、お前らは!」

「いやしかし、今がちょうどいい頃合いだと思ったんだがな」

「まったく…。それで、なんだ」

「だから、伝書だと言っているだろう。脚に結わえてある。自分では取れないのでな。お前が取ってくれないか」

「ん?これは…」

「我が主は、誰にもこれを秘匿しておきたかったようだ。私も、中身を絶対に見るなと釘を刺されたのだが」

「これは絵手紙だ。ほら、見てみろ」

「む。見てもいいのか?」

「喋らなければ分からないだろ」

「そうかもしれんが…」

「まあ、見てみろって」

「ふむ…。なんとも愛らしい絵だな」

「ふふ、そうだな。この絵からすると…城でかくれんぼをやったのか?」

「ああ。昨日、灯が主催してな。街の子供たちや衛士の半数が参加する、大々的なものだった」

「ほぅ。楽しそうだな。でも、灯が主催って…」

「かくれんぼが終わったあと、美希と香具夜にこってりと絞られたようだ」

「やっぱりな…」

「どうする、返信は。また取りにこようか」

「ああ。そうしてもらえると有難い。光や葛葉も書きたいだろうし」

「そうだな。では、夕方くらいでいいか?」

「いや、夜の遅めで頼めるか?今日の分も書きたいから」

「ふむ。楽しみにしていることがあるのだな」

「ああ。向こうがかくれんぼなら、こっちは追手だ」

「ほぅ。追手。ふふ、それは楽しみだな。では…夜だったな」

「ああ。よろしく」

「うむ。それでは、早く昼ごはんの席へ向かうといい」

「いや、光を起こさないと…」

「もう、起きてるよ」

「え、あ、あれ?」

「ふふふ。では、また夜に」

「うん。またね、カイト」


光が手を振ると、カイトも何回か翼をはためかせて火の粉を散らす。

そして、そのままフワリと浮かび上がると、城の方角へと飛んでいった。


「それじゃあ、昼ごはんだな」

「うん!」


光の手を掴んで立ち上がらせる。

少し癖になっていたところを手で鋤いて、ついでに頭を撫でてやると、ニッコリと笑顔を見せてくれて。

角…。

角が気持ち良いってルウェが言ってたよな…。


「えへへ。お母さん、くすぐったいよ」

「くすぐったいのか?」

「うん。くすぐったい」

「ふぅん。ルウェは気持ち良いって言ってたけど」

「気持ち良いよ。なんかね、頭を、撫でてもらってるときに、なんとなく、似てるの」

「こうか?」

「えへへ。うん」


角を掴んだり頭を撫でたり、光の表情を見ながらいろいろ試してみる。

すると、喉のところに手を当てると、少し嫌な顔をした。


「ここ、嫌か?」

「ううん…。お母さんならいいよ…」

「あっ…そうか…。ここが逆鱗なんだな…」

「うん…」

「…ごめんな」


光を引き寄せて、ギュッと抱き締める。

光は、胸に額を擦り付けてきて。

まだ肩が震えていたので、そっと背中を叩いて気分を落ち着かせる。

…響にも言われていたのに迂闊だった。

逆鱗は、なるべく触ってほしくないもの。

大切なもの。


「逆鱗はね…」

「ん?」

「逆鱗はね、わたしとか、リュウみたいな、鱗のある龍にとって、とっても大切なものなの」

「ああ。響にも聞いた」

「でも、大切な人には、触られてもいいなって、思うの。触ってほしいなって、思うの。さっきは、いきなりで、びっくりしたけど、わたし、いつかは、お母さんに、触ってほしいなって、思ってたの」

「…そうか」

「うん。だから、触っても、いいよ」

「でも、ごめんな」

「ううん。いいの」

「…ありがとう」

「うん」


改めて、そっと光の喉に触れる。

ここが逆鱗…。

光はクルクルと喉を鳴らして、また笑顔を見せてくれた。

…ごめんな、光。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ