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「………」
「ん?どうした、明日香」
「どうしたの?」
「あ、いや、明日香が…」
「明日香、どうしたの?」
「…そうだな。望、あそこ、見てみろ」
「……?」
指し示した場所に向かって、恐る恐る歩いていく望。
明日香もそのあとに続く。
「………」
「………」
ゴクリと唾を飲む音が聞こえそうなくらい、緊張している。
そして、意を決したのか、軽く頷く。
「ええぃ!」
「ひゃぅ!」
「!?」
「どうだ。望」
そこにいたのは、小さな女の子。
見たところ…龍か。
「おい、お前、ここで何してるんだ?」
「あ…あの…」
「ねぇねぇ、お名前は?」
「え…あ…ひ、光…」
「光!」
「な、なんですか…?」
「行こっ!」
「え…ど、どこに…?」
なんて質問は聞こえてないようだ。
望は光の手を引き、どこかに行ってしまった。
「大変だな。光も」
「ワゥ」
「ん?お前は行かないのか?」
その場に座って、何を言ってるのか分からないという風に首を傾げる。
『お前は行かないのか?』
「………」
『そうか』
どうやら私についてきてくれるらしい。
『でも、まあ、もう何もないと思うけどな』
「………」
『ふふ、そうかもしれん』
のんびりと散歩を楽しむことにしようか。
外周を二周ほどしてきて、戻ってくる。
まだ昼ごはんには早いな…。
「響!光!次、あっち行ってみよ!」
「待ってよ~」
「はぁ…はぁ…」
城内を探索でもしてるのだろうか。
先頭を走る望、それに追いつこうとする響、そして、すでに息を切らせている光が脇を通り過ぎていく。
「光」
「……?」
「飛んでみせてやれよ」
「でも…」
「二人とも負けん気が強いからな。もしかしたら追いついてくるかもしれないだろ?」
「あ…うん…そうかも…」
「ほら、行け」
光は、その場で何回か羽ばたいて宙に舞い、一気に加速して飛び去っていった。
「あぁ!先頭は望なんだから!」
「二人とも待ってよ~」
その名に恥じぬ速度。
…白龍は"光"
明るく照らすだけでなく、その速さは他の追随を許さない。
「待ってよ~」
響は…黒龍のはずなんだけどな…。
"水"を司る、とかいう噂は嘘だったのかな…?
「あぁっ!いろはねぇ!こんなところにいたの!?」
「ん?どうしたんだ、桜」
「ずっと探してたんだよ!」
「何か約束でもしてたか?」
「してないけど。でも、今日は買い物に連れて行ってもらおうって思って」
「ついこの前、行ったじゃないか」
「今日届いたって手紙が来たの!」
「何が」
「行ったら分かるよ!」
「あ、おい、待てって」
桜は強引に私の手を引っ張るが、それを一旦振りほどく。
「は~や~く~!」
「待てって。この格好じゃダメだ」
「いいじゃない!その格好で!」
「衛士の格好で市場に行くときは、取締りのときだけだ。ちょっと待ってろ。上から羽織るだけだから」
「早くしてよね!」
「分かった分かった」
急いで部屋に戻り、羽織を取ってくる。
「早く早く!」
何をそんなに急いでるんだろうか…。
「あ、姉ちゃん、どこ行くの?」
「知らん。桜に聞いてくれ」
「市場!」
「えっ、私も行く!」
「じゃあ、早くして!」
「あ…うん…」
風華は、桜の勢いに気圧されたみたいだった。
珍しいこともあるものだ。
市場へ着くと、桜は真っ先に装飾品を売っている店に向かった。
「ねぇねぇ!」
「ほらよ」
「わぁ!ありがと!」
「どういたしまして」
桜が何かを受け取る。
綺麗な袋の中に入ってるみたいだけど…。
「はい、いろはねぇ」
「…え?オレにくれるのか?」
「うん。そのために注文してたんだもん」
「…ありがとう」
「いいのいいの。ね、開けてみてよ!」
「ああ、そうだな」
この袋自体も、相当な手の込んだ作りなんだけどな。
紐を解いて開けてみると、中には…。
「腕輪…?」
「うん!」
中には、銀色の…というか、銀だな…。
銀の腕輪が入っていた。
表面には綺麗な細工がしてあって。
「どう?綺麗でしょ!」
「ああ…でも、これ、高いんじゃないのか…?」
「鉱石自体は嬢ちゃんが持ってきたからな。加工代だけだから、ほとんどかからなかったよ」
「そうなのか?」
「うん!ねぇねぇ、それ、付けてみてよ!」
「そうだな」
腕輪をはめてみる。
…ぴったりだな。
「ぴったりだね!」
「ああ」
「それはよかった」
「ありがと!おじさん!」
「いや。礼には及ばんさ。これが仕事だからな」
「でも、ありがと!」
「ふふ、また来てくれよ」
「うん!」
装飾屋に別れを告げ、店を出た。
外に出ると、別行動を取っていた風華がいた。
「あ、終わった?」
「ああ。風華は?」
「私も終わったよ。お昼、食べていかない?」
「そうだな…。帰ったら遅くなるか…」
「やった!外食だ!」
「それ聞いたら、厨房のやつら、がっかりするぞ?」
「あぅ…みんなが作ってくれる料理も美味しいよ!」
「後で直接言ってやれ」
「分かった!」
「じゃあ、どこにする?」
「露店で買ってもいいんだが」
「えぇ~。お店がいい~」
「高くつくでしょ」
「いや、まあいいだろ。どのみちオレのおごりだ」
「ダメだって、姉ちゃん!」
「年長者の言うことには素直に従っとくもんだ。な、桜?」
「そうだよ!風華!」
「それでもダメ!私、半分出すから」
風華が強情なことはもう分かってる。
どうしても引き下がらないだろうな。
…このままではいつまで経っても昼ごはんにありつけない。
「分かったよ…。風華の好きなようにすればいい」
「うん」
「じゃあ、行こ!」
「分かったから引っ張るなって!」
「あ、ちょっと、待ってよ!」
風華の制止の声も、もはや桜には聞こえてないみたいだ。
外食。
たしかに、普段とは違う、何か魅力的な響きがある。
まあ、どちらにせよ、楽しんで食べるというのは、とても大切なことだ。
風華や桜たちが来てから、それを痛感するようになったな。
ということで、皆さんもごはんは出来るだけ大勢で楽しんで食べましょう。