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村を離れて、小高い丘になってるところに寝転んで空を眺める。

透き通った蒼い空は、深く遠く。


「ねぇ、いろはお姉ちゃん」

「ん?」

「何かお話知ってる?」

「お話?昔話のことか?」

「うん」

「いくつか知ってるけど、それがどうしたんだ?」

「そのお話、聞かせてほしいの」

「いいけど、どうして」

「わたしね、たくさん、たくさんお話を聞いて、お星さまに届けてあげるの」

「ん?どういうことだ?」

「お星さまにお話を千個届けてあげると、願い事を叶えてくれるんだって」

「ほぅ。それで、リュウはどんなお願いをするんだ?」

「お父さんとお母さんに会いたいの」

「ふぅん…」


リュウが言ってるのは、千夜物語のことだろうな。

毎夜毎夜、星に物語を届けて、全てを満足させることが出来たら願いが叶うという"物語"。

会いたいという親は、戦乱ではぐれたのか、もしかしたら…。


「ねぇ、どんなお話?」

「ん?そうだな…。じゃあ、千個のお話を星に届けた女の子の話は知ってるか?」

「わたし以外にもいたの?」

「ああ。千個のお話を届けた女の子の話…」



広い野原に、一人、女の子がいました。

女の子の名前はリュウ。



「あはは。わたしと同じ名前だ~」

「ふふ、そうだな」



リュウは、今日も星たちとお話しします。


「むかしむかし、あるところに。おじいさんとおばあさんが住んでいました」


リュウのお話は、いつも夜に始まって朝に終わります。

そして、一日にひとつずつ、星たちを喜ばせていきました。


「…めでたしめでたし」


今日は九百九十九個目の星が、キラキラと輝きました。

リュウはニッコリと笑うと、そっと目を瞑ります。


「リュウ。今日もありがとう。また、お話を聞かせてね」

「うん。また夜に」


太陽の光が世界を照らし始め、星たちは静かに消えていきます。

リュウもそのまま草に抱かれて、しばらく眠ります。


「お母さん…」


夢に出てきたのは、リュウのお母さん。

ずっと昔、リュウがまだ小さな赤ちゃんだった頃、優しく抱いてくれたお母さんです。

夢の中のお母さんは、昔と同じように、リュウをギュッと抱き締めてくれました。


「お母さん…!」


ハッとして目を開けると、もうそこにお母さんはいませんでした。

リュウは、自分が泣いていることに気がつきました。

お母さんにもう一度会いたい。

お母さんに、もう一度抱き締めてもらいたい。

それが、リュウの願いでした。



「リュウ…。わたしと同じ…」

「…そうだな」



また夜が来ました。

星たちと一緒にお話が出来る夜を、リュウは楽しみにしていました。


「お星さま。今日もお話、してあげるね」


星たちはキラキラと光って応えます。

リュウはそっと野原に寝転んで話し始めます。


「月と太陽のお話。月と太陽はとても仲良し。いつも一緒にいました」


今日は月と太陽のお話でした。

星たちは耳を澄ませてリュウのお話を聞き、ときどきカラカラと笑ったり、シクシクと泣いたり、ホッと安心したりしました。


「…だから、月と太陽はいつもみんなを見守っているのですよ。おしまい」


リュウが話し終えると、千個目の星がキラキラと輝きました。

でも、今日は少し様子が違いました。

星たちはゆっくりと空の真ん中に集まり、そして、ひとつの小さな光の球となると、リュウの目の前まで下りてきたのです。

光の球は話します。


「リュウ、ありがとう。毎晩、僕たちを楽しませてくれて。お礼に願い事を叶えてあげるよ」


リュウは驚きましたが、すぐにひとつの願い事が思い浮かびました。


「わたしね、お母さんに会いたいの」

「えっ…」


今度は星たちが驚きました。

でも、リュウのお願いを聞かないわけにもいきません。


「お母さんに会いたい…。それでいいの…?」

「うん」

「そう…。じゃあ、叶えてあげる。目を瞑って」

「うん」


リュウは言われた通りに目を瞑ります。

光の球は、リュウの周りを回って空へと舞い上がりました。


「わぁ~」


リュウは、何かフワフワしたかんじがしました。

まるで空を飛んでいるような。


「目を開けていいよ」


星たちに言われるまま、リュウは目を開けました。

すると、目の前にはお母さんがいました。

お母さんだけでなく、お父さんもお兄ちゃんもいました。

みんなはリュウを抱き締め、頭を撫でてくれました。

リュウは、なぜだか泣いていました。

みんなの顔がぼやけるくらい、泣いていました。

でも、今までの涙とは違います。

それは、とてもとても温かい涙でした。


「ありがとう、リュウ。…さようなら」


ふと、リュウは振り返りました。

ちょうど、星たちが空に帰っていくのが見えました。


「ありがとう、お星さま。本当にありがとう」


リュウは、手を振って星たちを見送りました。

何度も、何度も、ありがとうと言いながら。

…次の日、広い野原を通った旅人が、季節外れの白星草の花に囲まれて眠っている小さな女の子を見つけました。

その女の子の寝顔はとても安らかで、まるで家族を想う"リュウ"のようでした。


「おしまい」

「リュウ…良かったね…」

「…ああ」

「リュウ…リュウ…」


リュウは、女の子の名前を何度も呼んで、泣いていた。

そっと抱き締めてやると、堰を切ったように涙が溢れてきて。


「うっ…うえぇ…いろはお姉ちゃぁん…」


女の子が家族に会えたことに対する涙なのか、それとも…。

リュウの涙は温かくて、そして、哀しかった。

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