表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/578

107

手を引かれるまま、広場まで行く。

そこでは大きな鍋でおでんを作っていて。


「あ、団長。ちょうどいいところに」

「ん?」

「みんなに箸を配ってください」

「ん」


大量の箸を受け取った桐華は、しばらくジッと考えると


「集合~。チビども、集まれ~」

「団長さん、どうしたの?」「お昼ごはん~」

「ここに箸がある。一人二膳ずつ取っていって、箸を持ってない人に渡してくるんだ。それで、一番多く配って来た子には、豪華賞品、このお姉ちゃんの一日独占権を与えよう」

「オ、オレか?」

「当たり前じゃん。じゃあ、始め!」

「頑張る~」「俺!俺が優勝するからな!」


桐華は素早く箸を子供たちに渡していって。

子供たちも、あっと言う間に散ってしまった。


「はぁ…。なんでオレを景品にするんだ…」

「紅葉ってさぁ、なんか子供ウケ良さそうだから」

「なんだそれは…」

「桐華!次!」

「はいよ~」

「団長さん、早く~」

「む。思ったより忙しいな…」

「ちょっと団長!なんて横着の仕方ですか!」

「今真剣なの!話し掛けないで!」


箸を四本渡すだけの作業に、何を真剣になることがあるんだろうか。

でもまあ、桐華が真剣だって言うなら真剣なんだろう。


「何してるの?」

「オレの争奪戦だ」

「…何それ」

「そのままの意味だけど」


風華はわけが分からないという風に首を傾げて、箸を渡す作業に没頭する桐華を見る。

…汗までかいて、ホントに必死だな。


「…あのね、姉ちゃん」

「ん?どうした?」

「私、朝みたいに、葛葉と上手く付き合えないことがある。葛葉を哀しませるようなことをしてしまうことがある」

「うん」

「そんなとき、助けてくれる?私だけじゃ、どうしようもないとき」

「…頼まれるまでもないよ。それに、それはみんなにも言えることだ。みんな、何も言わなくても風華を支えてくれる」

「…うん」

「誰も一人では生きていけない。互いに支えあって生きているんだ。だから、みんなが風華を支えているように、風華もみんなを支えてくれ」

「うん。分かってる」


頭をそっと撫でると、ニッコリと笑ってくれた。

そうだな。

風華はこの笑ってる顔が一番だ。


「ふぇ~。やっと終わった~」

「自分で配って回った方が楽だったんじゃないか?」

「んー、どうだろ。あんまり変わんないんじゃない?」

「いや、オレに聞くなよ…」

「配ってきた!」「ねぇ、結果は~?」

「はぁい。ちょっと待ってね~」

「まだぁ?」「早く~」

「んー、よし。はい、結果発表するよ~。集まれ~」

「誰かな」「俺だって!」

「よし。じゃあ、見事にお姉ちゃんを獲得した栄えある一位の子は…」

「………」

「リュウだ!」

「やった!」


集まった子供たちの真ん中くらいにいた女の子が飛び跳ねる。

見たところ、光と同じくらいだろうか。

リュウは、桐華のところまで出て行って。


「はい。じゃあ、リュウにはお姉ちゃんを進呈しま~す」

「えへへ、ありがと!」

「大事に使ってね」

「うん!」

「大事に使ってねって…」

「いいなぁ」「絶対、俺だと思ったのに…」

「今日はリュウのお姉ちゃんだけど、いつもはみんなのお姉ちゃんだからね。喧嘩はなしよ」

「はぁい」「分かってるよ!」

「よし。じゃあ、お昼ごはんだ。準備、出来てるよね?」

「バッチリですよ。さあ、みんな座って座って~」

「お姉ちゃん、こっち~」

「ん?ああ。分かった」

「ふふ、リュウはとっても良い子だよ。じゃあ頑張ってね、姉ちゃん」

「ああ」


リュウに手を引かれ、みんなからは少し離れたところに座る。

子供らしい、ちょっとした独占欲なのかな。


「お姉ちゃんの名前は?」

「紅葉だ」

「いろは…。いろはお姉ちゃん」

「ああ」

「わたしね、いろはお姉ちゃんと仲良しになりたくて、一所懸命頑張ったの」

「そうか。よく頑張ったな」

「えへへ」


ゆっくり頭を撫でると、嬉しそうに抱きついてくる。

オレと仲良くなりたいから頑張った、か。

可愛いことを言ってくれる。


「早速、仲睦まじいようで。はい、おでんだよ」

「ありがとう。ほら、リュウも」

「遙お姉ちゃん、ありがと」

「どういたしまして。…紅葉、ごめんね。団長には厳重に注意しとくよ」

「いや、いいよ。あいつなりに、オレがヤゥトに馴染めるように考えてくれたんだと思う」

「そんな難しいこと、考えてないと思うよ~」

「まあ、そうかもな」

「ふふふ。じゃあ、ごゆるりと~」


そして、リュウの頭を軽く撫でると、遙は賑やかな広場の真ん中の方へ戻っていった。


「いろはお姉ちゃん、おでん食べよ」

「ああ、そうだな」

「わたしね、卵が好きなの」

「そうか。オレは大根かな」

「大根はね、茶色くなるまでしっかりしゅましてあるのが美味しいの。でも、まだあんまり茶色くないのも、結構美味しいの」

「ほぅ、なかなか渋いことを言うな」

「えへへ。桐華お姉ちゃんが言ってたの」

「…なるほどな」

「いろはお姉ちゃんは、銀狼さん?」

「ああ。リュウは?」

「わたしは、赤龍なの」

「そうか。赤龍か」


頬や手の甲にある赤い鱗に大きな翼。

そして、燃えるような"紅蓮の瞳"。

どうあっても見紛うことはないくらいの赤龍っぷりだった。


「"紅蓮の瞳"リュウだな」

「うん!いろはお姉ちゃんも知ってたんだ!」

「まあな。"紅蓮の瞳"は、綺麗で優しい龍だ。リュウみたいにな」

「えへへ」

「そして、家族想いで心の強い龍だ。リュウもそうか?」

「うん!」

「そうか。それなら良かった」


"守る強さ"を持つ龍。

ふふ、リュウもそうなんだろうな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ