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「この巾着餅、美味しいね」

「…オレは饅頭とか団子だと思ってたんだがな」

「いいじゃん。お昼のおでん、ちょっと貰ってきたんだよ」

「だから、なんでおでんを貰ってくるんだよ」

「そりゃ…ちょうど作ってたから」

「………」

「あはは、大丈夫だってぇ。この巾着餅、美味しいからさぁ」

「そういう問題じゃない!」

「まあまあ、抑えて抑えて。遙、ちょっと」

「はい、なんでしょうか」

「うおっ!いたの!?」

「じゃあ、なんで呼んだんですか…」

「ちょっと呼びたかっただけ」


遙は呆れた顔で桐華を見て。

大きくため息をつくと、手に持っていた風呂敷を置く。


「…お茶菓子、ここに置いときますので」

「おっ、ありがとね~」

「いえ。間抜けな団長を支えるのも、私たちの役目ですから」

「いやぁ、照れるなぁ」

「喜べるようなことは言ってないぞ」

「ありゃりゃ」

「では。ごゆるりと」

「うん」


一度深くお辞儀をすると、部屋を出ていった。

遙も大変だな。

こんな団長を支えないといけないなんて。

その桐華は、早速風呂敷を開けている。


「わは~、みたらし団子だよ~」

「ほぅ」

「それじゃ、冷茶を淹れて…」

「ふぅん。冷茶でも結構香りが立つんだな」

「特注だかんね」

「相変わらず、お茶が好きなんだな」

「お茶は良いよ~。落ち着くからね」

「じゃあ、お前はもっとお茶を飲むべきだ。落ち着きがないから」

「うーん。あんまり飲みすぎると、すぐに厠に行きたくなるから」

「ほぅ。お前でも厠に行くんだな」

「旅の途中は無理だけどね。その辺の草むらでやるしかないよ」

「…まあ、お茶のお陰かもしれないな」

「ん?何が?」

「さあな」

「えぇ~」


桐華が天真爛漫でいられるのは、な。

ていうか、もうちょっと怒ってもいいようなものだけど。

…桐華はいつ怒るのかな。


「そんなにジッと見つめられたら照れるなぁ」

「じゃあ見ない」

「ヤだよぉ。見て見て~」

「ジーッ…」

「あはは。やっぱり恥ずかしいなぁ」

「………。それで、何しに来たんだ?」

「んー?なんだっけ?」

「………」

「えっとぉ…」

「…風華の話じゃないのか」

「あぁ、そうだった」

「それで?」

「うん。風華ちゃんがね、葛葉のことで悩んでるから、どうしてあげたらいいのかなって」

「別にどうしなくてもいいじゃないか」

「えぇ~」

「助けが必要なときは、風華から言ってくるだろ。自分自身で抱え込むようなら、そのときは叱らないといけないけど」

「うーん…」

「それに、風華の周りにはたくさんの人がいる。私たちだけじゃないんだから」

「…そだね」


桐華はニッと笑うと、お茶をすする。

みたらし団子に手を伸ばして、ひとつ、口に入れる。


「美味しいよ。紅葉も食べなよ」

「ああ。そうだな」


私もひとつ貰う。

…うん。

タレの辛さと団子の甘さが絶妙だな。


「どこのみたらし団子なんだ」

「ヤクゥルかなぁ」

「ほぅ。美味いもんだな」

「うん」

「しかし、なんで二本しか入ってないんだ」

「さあ?」

「四本くらいは入れられるのに…」

「遙じゃない?食べ過ぎるとお昼ごはんが食べられないからね」

「ふぅん」

「はぁ~。お茶が美味しい」

「そういや、昨日の盗賊はどうしたんだ」

「あぁ、あの盗賊。すぐに逮捕してユールオの警察署に突き出してきたよ」

「そうか」

「見つけたなら、ラズイン旅団で処理してくれたらいいのにねぇ」

「まあいいじゃないか。旅団天照が一番強いんだから」

「クノだっているじゃない。如月も」

「お前のところは、クノや如月と互角以上の者だけでも十人はいるじゃないか。お前含めて」

「やだなぁ。ぼくは全然だよ~」

「いつもうちの戦闘班を半分ほど伸していくのは誰だったかな」

「遙」

「平然と嘘をつくな」

「だってさぁ、城壁をよじ登ってたら、お前は誰だーっ!なんて聞いてくるんだよ?」

「それが普通の反応だ。ていうか、他のやつらと一緒に普通に正面から入ってこい。それに、前王のときはみんな気が立っていたんだ」

「なんで?」

「何度も極刑をギリギリ免れたやつがよく言うよ」

「あぁ、あのおっさんね。くふふ。ちょっと珍しい食べ物をチラつかせるだけで簡単に釣れるんだもん。魚釣りより面白かったよ~」

「はぁ…。こっちはどれだけヒヤヒヤしたと思ってるんだ。それに、毎回毎回戦闘班を伸さないと入ってこれないのか」

「あはは。全種族最強の銀狼がよく言うよ」

「それはただの迷信だろ」

「そんなことないよ。うちに伝わるある伝説によると…。ある月夜の晩、一人の銀狼の少女が武装した兵士二十人に囲まれてたんだって。でも、次の瞬間、立ってたのは赤い目のその少女だけだったって」

「………」

「ほらぁ。小さい女の子でもこんななんだよ?やっぱり銀狼が最強なんじゃない?」

「そうか」

「うんうん」

「でも、頼むから普通に正面から入ってきてくれ」

「検討しとく」

「はぁ…」


またオレが抑えにいかないといけないんだろうな…。

あのときだって、夜に乗じて侵入を試みた桐華を抑えつけたところを天照のやつらに見つかっただけであって…。

ていうか、こいつは小さい頃から傍迷惑なやつだったな…。


「はぁ~。やっぱり紅葉は強いねぇ~。目が見えないのに、熟練の兵士を二十人も完膚なきまでに叩きのめすなんてねぇ」

「……!お前!伝説とか言っておいて!」

「やだなぁ。いくらぼくでも、紅葉との初めての逢瀬のことは忘れないよ~」

「お、逢瀬なんて、変な言い方をするな!」

「あのときは楽しかったなぁ。全く敵わなかったんだもん。一撃も当たんないんだから」

「お前は振りが大きくて、隙も多いからな」

「初戦、目が見えないのに、即座に分析して対応するんだから、末恐ろしいよねぇ」

「本人に対して直接言うことじゃないだろ」

「いいじゃない。幼馴染みとして素直に尊敬するよ」


こいつにはよく驚かされる。

恥ずかしげもなく、こういうことを軽く言ってしまったり、態度に示したり出来るから。

桐華はニコニコと笑って、お茶をすする。

…オレはお前のそういうところを尊敬するよ。

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