10
目が覚めると、寒さがこたえた。
どうやら、布団からだいぶ離れているらしい。
重たい身体を引きずって這い戻り、掛け布団を上げてみると…明日香がいた。
私を押しのけて寝るなんて…。
「おい、明日香。どけろ」
言ってみるが、動く気配はない。
まだ寝ぼけてるのだろうか。
『明日香。もうちょっと向こうに行ってくれ』
今度は、ちゃんと向こうに行ってくれた。
はぁ…いつの間に潜り込んでたんだろ…。
まだ夜明けは遠いみたいだ。
もう一眠り…しようか…。
目が覚めた。
今度は布団の中。
ついでに、夜も明けたみたいだ。
「あ、姉ちゃん。起こしちゃった?」
「いや」
「そ。おはよ」
「おはよう」
望と響はすでにいない。
というか、布団もない。
「いいお天気だから、布団、干してるの」
「そうか。でも、昼を過ぎたらすぐに取り込んだ方がいいな」
「え?なんで?」
「昼過ぎになったら分かる」
「それじゃ遅いでしょ?」
「まあ、そうだな。とにかく、昼過ぎまでには取り込んでおけ」
「…分かった」
「ほら、明日香も起きろ。布団を干せないだろ」
軽く叩いてやると、明日香は欠伸をして、大きく伸びをする。
私も布団を抜け出し、適当に畳んで持ち上げる。
「あ、私が干すから、姉ちゃんは朝ごはん食べてきなよ」
「自分の布団くらい自分で干す。なんでもかんでも風華任せには出来ないからな」
「でも…」
「でも、じゃない。…それに、夜は風華に任せっきりになるからな」
「…うん。そうだね」
風華に案内され、布団を干しているところに行く。
…まあ、洗濯物を干すところなんだけど。
でも、今日は綺麗に洗われた衛士たちの服が、ずらっと並んでいた。
「わぁ…すごいな…」
「えぇ~、どういう意味で?」
「ん?」
ふと、声をした方を見てみる。
「よっ!紅葉!元気だった?」
「空!」
「手伝いに来たよ」
「そんなこと言って。サボりに来た、の間違いでしょ?」
「あれ?バレてた?」
「もう…」
「それにしても、ここの衛士たちは何を着てるの?洗濯物、こんなに溜めてさ」
「二週に一回、みんなで洗うんだ」
「えぇっ!そんなことしてるの!?毎日洗いなよ!」
「…だって、面倒くさいじゃないか」
「そんなんじゃダメ!毎日洗いなさい!」
「…約束は出来ない」
小突かれた。
「毎日やること!いいね!」
「………」
「返事は?」
「はい…」
これが、毎朝の洗濯の時間が定められた原因の一部始終だ。
布団を干して、厨房へ。
空はもう食べてきた、とのことで、私と風華だけで向かう。
「空姉ちゃんったら、まだ夜が明けないうちから来てたんだよ?そんなに収穫作業が嫌なのかな…」
「風華はどうなんだ?」
「私?私はね~、結構好きだったよ。採れたてのデガナ、美味しいしね~」
「それが目的か」
「え?あ…あはは、そんなわけないじゃない…」
そんなわけ、あるんだな。
まあ、採れたての野菜というものは、どれも最高に美味しいものだ。
特に夏野菜ともなると…な。
「も、もう!なんか、私が食いしん坊みたいじゃない!」
「自分が口を滑らせたんだろ?」
「う…」
「たくさん食べるということは、悪いことではない。むしろ、歓迎されるべきことだ。だから、遠慮せずにたくさん食べるといい」
「…うん」
「認めたな」
「…え?………。あぁーっ!姉ちゃん!」
「ふふ、ホント、風華って面白いよな」
「もう!」
顔を真っ赤にさせる風華。
…でも、食べることは悪いことではない。
しっかり食べて、しっかり遊んで、しっかり寝る。
成長期には必要不可欠なことだ。
そんなことを言うと、また怒るだろうから、心の内にしまっておこう。
「朝ごはん、頼む」
「私もお願いします~」
厨房に着いて、早速注文してみるが、衛士は包丁を熱心に砥いでいるらしく、全くこちらに気付いていないようだった。
「命を磨く。いい心がけだな」
「あっ!隊長!風華さん!すみません!すぐ作ります!」
「あぁ、そんなに急がなくてもいいから」
「わわっ!」
と、砥石を落としてしまった。
「あっつぅ…」
「大丈夫ですか!?」
足に直撃したらしい。
少し血が出ていた。
「ジッとしていてくださいね…」
風華が何か集中するようなそぶりを見せると、その足の傷はどんどん癒えていった。
「え…?何なんですか…?これは…」
「これは応急手当だから、あとでちゃんと医療室に来てもらいます」
「あ…はい」
「じゃあ、朝ごはん、よろしくお願いしますね」
「はっ!」
そして、何事もなかったようにテキパキと働く。
「なんだったんだ?今のは」
「術式のひとつだよ。『手当』っていうの」
「ふぅん…。傷が癒えていたみたいだけど?」
「あくまで一時的なものだよ。傷を騙してるだけだから、放っておくとまた傷口が開いてくるの」
「そうか」
何かよく分からないけど、そういうことらしい。
「治癒は、もっと集中力がいるし、再生ともなると、術者はもちろん、対象者にも負担をかけちゃうんだよね…」
「なんだそれは?」
「手当のさらに上位の術式だよ。いざというときにしか使っちゃいけないって書いてあった」
「なら、今は使うべきではないな」
「うん」
今日の朝ごはんは、何かの魚を焼いたもの。
適度な味付けだな。
焦げ目も上手く付いてて、視覚的にも楽しめるものだった。
「ご馳走様」
「ご馳走様でした!」
「あ、はいっ!お粗末さまでした!」
「砥石、もう落とすなよ」
「はっ…」
「医療室、ちゃんと来てね?」
「はっ!」
「じゃあな」
「また後で~」
厨房を後にした。
風華は何か薬の調合をするとか言って、そのまま医療室に向かってしまった。
何もすることがない私は、見回りも兼ねて、グルッと外周を回っていた。
「あ、お母さん!」
「ん?望か。どうした」
「お散歩?」
「そんなところだ」
「じゃあ、望も一緒に行く!」
「そうか。じゃあ一緒に行こうか」
「うん!」
望は明日香を連れていた。
やはり、狼同士は気が合うのだろうか?
「お母さん、夜、明日香と何話してたの?なんか、変な言葉が聞こえたの」
「聞いてたのか?」
「うん。眠たくて、よく聞こえなかったけど」
「明日香がオレの布団で寝てたから、どいてくれって言ってたんだ。な、明日香」
「ワゥ!」
「ふぅん。お母さん、明日香と喋れるんだね!」
「まあな」
「すごいね!」
「でも、このこと、誰にも話すなよ?」
「なんで?」
「あれは、秘密の言葉なんだ。だから、誰にも言っちゃいけないんだ」
「じゃあ、望は…?望、聞いちゃったよ…?」
「望は賢い子だから、誰にも喋らない。オレはそう信じてるから、大丈夫」
「うん!誰にも言わないよ!」
「えらいな、望は」
「えへへ」
頭を撫でてやると、なんとも可愛い笑顔をこちらに向けてくれる。
…いつか話さないといけないな。
少なくとも、風華には。
約束だしな。
まあ、その時はその時だ。
今、心配しても、どうなるわけでもないからな。
今は、望を撫でてやることに専念しよう。
可愛い笑顔のためにも。
ついに、ナンバリングも二桁突入です。
次は三桁ですね(ぇ
食べ物に関しての話題が多いのは、自分が食べることが好きだからです。
あと、寝ること。
昔、食べたくても食べられないときがあったからでしょうか。
食べ物を残すなんて、そんな恐ろしいこと、考えられません。
お腹が破裂しそうでも、嫌いなものがあっても、無理矢理押し込みます。
後にどうなるかなんて考えません。
とにかく、食事中は、残さないことだけを考えてますね。