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お兄様の魔法実習。

 トーリ先生の説教は、薬草の森の中にある湖の辺りに馬車が着くまで続いた。

 ラルフもユーリも神妙な顔で耐えて聞いていたので、馬車が止まる時には疲れ果てていた。

 それも馬車を降りる時に見えた外の景色に一気に気分が上がって回復したけど。

 湖は大きくて、ユーリが首をぐるっと回さないと端から端までが目に入らない位だった。湖面は青く輝いている。普通の水じゃないのかと思う位に美しくて、湖に駆け寄るとしゃがみ込んで見つめた。

「ユーリ様、マーサから離れないでくださいとお願いしましたよね」

 追いついたメイドのマーサに苦笑しながら怒られたものの気にならない。

「きれいっ! あ、おしゃかなしゃんっ!」

 キラキラ光るものが水の中で動き、よく見ると銀色の小魚だった。夢中になって湖を見つめるユーリをマーサは微笑ましい顔で見守った。


「さぁ、一休憩しましょうか」

 湖畔にふわりと厚手の布を広げて、その上に靴を脱いで

上がる。森の湖畔でピクニックなんて、絵本の世界のようだ。

 馬車からマーサがバスケットを下ろすと、お茶の準備をする。マグカップは割れないようにか金属性。携帯用だという前世の電気の変わりに魔石を使う魔導ポットでお湯を沸かして、金属で出来たティーポットで紅茶を入れた。

 前世ではキャンプもピクニックも家族で行った事などなかったし、学校の行事で行った山歩きはこんなにのんびりと楽しむものではなかった。家族で出かけたとしても、弟妹の世話に追われて楽しむ前に疲れるだけだっただろう。最後に家族で行った動物園と、死因になった事故を思い出してユーリは遠い目になった。


 一番下の弟、3歳の睦月を庇って死んだ事は後悔していない。ただ、家族は悲しむだろうか、と考えた時に思い浮かぶのは家庭内戦力が欠けた事に惜しむだけではないかという事だけだった。両親や弟妹が薄情だとか、家族仲が悪かったという話じゃなくて。家族が多いとその位、生活に手一杯なのだ。多分、世話係と家事をこなす長女が急にいなくなった事でその穴埋めで忙しく、悲しむ余裕なんてない気がする。むしろユーリの学費が浮いた分、助かるのではないだろうか。

 転生した今が前世に無かった位に幸せで、前世を振り返りも惜しみもしない自分が薄情なようで時折胸が罪悪感で痛むけど。家族もさして悲しみもしないだろうと思うと、少し胸が軽くなる気がした。一番下が3歳だし、赤子はいないから大丈夫だろう。それ以上、増えなければだけど。あり得そうで怖かったので、それ以上は考えるのを止めてお茶を楽しんだ。お茶菓子にクッキーやフィナンシェがあって美味しかった。


 一休憩した所で魔法実習に移る。遊んでいていいと言われたユーリもラルフの隣にちょこんと座った。目を輝かせて待つ子ども達に先生は苦笑しながら切り出した。

「魔法はどういうものなのか、前に説明しましたね? 空中には目には見えませんが、魔素という自然のエネルギーがあります。それを身体の中に取り込んだ上で、それを操作して思うような現象を起こす事が出来るのが魔法です。イメージで発現出来ると言われていますが、そこが難しい所です。魔素がどうなれば思う現象が起こせるのか、具体的に考えた上で変化させる必要があるからです。イメージや気合いのみでどうにかなる人もいれば、どうにも使えない人もいます。子どもの頃から練習すれば使える事が多いだろうと、国は魔法適性検査と学校を義務付けているんですよ」

 結局は自分なりのコツを掴むしかないらしい。

「ちぇんちぇいのまほう、みたい!」

 サ行がどうしても難しくて上手く発音出来ないのは気にしない事にして、ユーリはリクエストする。

「そうですね。見た方が早いでしょう」

 先生は座ったまま、土に手を伸ばした。ワクワクしながら見つめるとコポッと土が盛り上がった。その盛り上がった土はウゴウゴと動いて塊になり、それが何かの形になった。

「うちゃぎちゃん!」

 丸々として長い耳とクリクリの瞳を持つリアルなウサギの形をした茶色の塊は、ぴょんぴょんと辺りを飛び跳ねてから土に戻った。

「せんせい、すごいっ!」

「土で作る人形はゴーレムと言います。私は大きな物は作れないので、役には立たないんですけどね。でも、リアルな生き物を象ろうと思うと努力は必要なんですよ」

 興奮して憧れの目を向けるラルフに先生は苦笑する。

「土魔法は戦力として使うには中々難しくて。活用の仕方を努力しないと役立つ事も少ないのですが、何事も使い方次第です。ラルフ様の適性は火魔法なので、まずは火を出す所から初めましょうか」

 そう言って準備を始めた。ラルフとユーリも言われて手伝う。湖の周囲の木の下から落ちた枝と枯葉を広い集めて準備完了らしい。

「これに火をつけたら焚き火になりますね。火をつけるには小さくて構いません。そうですね、イメージするなら魔導ライターで火をつける感じでどうでしょうか。多少、大きな火が出てもここなら湖もありますし、土を被せれば消せるでしょうから気にせずやってみましょう」

 そう言いながらも、皆がラルフから距離を取る。

「じゅもんとかいりゃないの?」

「呪文は本人がイメージしやすい位のものなので、必ずしも必要ではないのです。もちろんイメージしやすければ真似してもいいのですが」

 先生の横に待機したユーリが聞くと説明された。そのやり取りが聞こえていたのか、真剣な目で枝と枯葉の小山を見つめていたラルフが振り返ってニッと笑う。

「ふぁいあー!」

 元気よく声を上げて、片手を勢い良く突き出したものの火は出なかった。

 悔しそうな顔をするものの、ラルフは何度もチャレンジする。最初の内は「がんばえ!」と応援していたユーリも、失敗する姿を妹に見られてるのは嫌だろうなと思うようになった。

 どうしようか少し考えて、マーサの方に静かに歩み寄った。

「さんぽしてきても、いい?」

 こそっと聞くと、一緒に行くと言われたので首を振る。

「まーさはみててあげて。このへんであしょんでるから」

 少し離れた所でプレッシャーを与えない作戦だ。大人には見守っていて欲しくても、格好つけたい妹に失敗を見られるのは焦るだろうから。焦ると上手くいくものもいかなくなるだろう。


 馬車の近くには御者兼護衛で付いて来てくれた庭師の若者も待機して、見守ってくれている。遠くには行かないし、湖畔は見晴らしも良く危険は無さそうだから大丈夫。了解も取れたので遊ぶ事にした。せっかく外に出かけられたのだからのんびりしようと決めたのだった。

 多分、兄は格好いい呪文だとかポーズとかに気を取られてイメージが薄いから上手く魔法が発動しないだけで大丈夫な気がした。

 枝の中には芋が入っているので、それが焼けるのをイメージすれば早いんじゃないかなと考えつつ。爽やかな季節と美しい自然、外の世界を満喫しようと思うユーリだった。







その内に、長子を亡くした日本の家族がどうなったのか書けたらいいなと思っています。

そこまで辿り着けるといいのですが。。

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