お兄様と一緒に勉強します。
家庭教師の先生が来たのは、兄に勉強するという事に慣れさせる為なのかもしれない。その位に勉強時間そのものは短い。
姉も学校に行く平日の9時〜12時。
それも、間に2回程お茶とオヤツが出て来るのだ。時間が短い上にものすごく甘い。
この世界は前世と同じで、1週間は7日。
ただ休日は日曜日にあたる「闇」の1日だけ。
闇光火水木風土、が1週間の呼び方だ。魔法属性を元としていて、前世とも似ているから覚えやすいと思う。
1日は24時間なのは時計があるから分かるし、1年は12ヶ月なのもカレンダーがあるから知る事も出来る。
幼児なのでまだ知らない事も多かったユーリがこの一週間で習った事の一部だ。
何を知らないのかすら分からない位、この世界をユーリは知らなかった。転生に気付く前は普通の幼児だったので何も知らなくても問題はなかったし。何せまだほとんど家の中にいて、外に出て遊べるのは庭だけだ。遊び相手は家族とメイドなので、家庭教師の先生が久しぶりに会った知らない人だ。たまに家に客は来るけど、ユーリが紹介される事は滅多に無かった。姉の友人には極稀に顔を合わせる事もあるが少し愛でられた後は邪魔にならないようにしていた。友人と遊んだり話したりしたいのに、弟や妹の世話をする羽目になるのは気の毒だから。転生に気付く前からユーリは空気の読める子だった。控えめなのは生まれ持った気質なのかもしれない。
控えめだと言っても人見知りではなく愛想は良いので心配はされておらず。家庭教師の先生として紹介されたトーリの事も興味津々に見つめていた上に、兄と一緒に勉強したいと主張して通った位だ。
元々、両親はそろそろ学ぶにもいい頃合いだと思っていたらしい。ただ、兄と同じように先生に習うのではなくメイドのマーサか母が教えるつもりだったのだとか。
兄の勉強も基礎的部分は一これまでも家人に教えられていたらしい。じっとしているのが苦手な兄に言う事を聞かせる事が出来るのが母位だからだと思う。メイドや執事では厳しくするのも難しいから。
子ども部屋でメイドのマーサに付きっ切りで愛でられながら世話をされて育ったユーリは、そんな兄の教育事情などそれまで知る機会もなかったが。家庭教師の先生が来た事で見聞きした話から知る事も増えた。幼児が質問出来るはずもないので、見聞きした情報を合わせて状況を推察するしか出来ないのだけど。
ちなみに、先生は住み込みだ。日曜日にあたる闇の日はお休み。平日は午前の授業以外は基本的に自由ではあるけど、家側の望みに応じて手伝いや兄の遊び相手をするという事になっているらしい。
トーリ先生は商家の5男で、家が継げないので自立する為の道を探していたとか。兄の家庭教師から、そのまま家人として雇うという話もあるらしい。優しくて良い人そうなので是非そのまま居着いてもらいたい所だ。
そんな先生の授業にはユーリも参加させてもらえるようになったのは、勉強に乗り気ではない兄のやる気を出させる為ではないかと思う。妹に「すごい!」「かっこいい!」とかほめられるのには弱いのを見抜かれている気がする。単純、ではなく素直なのは美点。真っ直ぐ育って欲しい。
そして、そろそろユーリにも勉強をと考えていたのと「にいちゃといっしょにべんきょ、したい」と言ったからだろう。先生が男性なのでメイドのマーサも同室の上、ユーリの世話も焼いてくれる。先生のサポートをする意味もあるのだろう。兄が落ち着かない様子になると、お茶の用意をしてくれたりする。
そんな勉強会は始まっ3週間。少しだけ慣れた所だ。まずは文字の書き方からだった。この世界では紙は普通に普及しているようだ。ただ、鉛筆はなくてペンにインクをつけて書く。書き慣れるにはコツが必要なようだ。
文字は前世のアルファベットを崩したもののような感じで、最初はミミズが這っているように見えた。けど、文字の一覧を見ながら書き取りしていく内に何となく覚える事は出来た。幼児の頭が柔軟なのが大きいのかもしれない。書く方はまだ無理だけど。
書く方がまだなのは慣れないペンと、小さな身体のせいだった。手が小さい上に身体の感覚は前世の記憶では補えず上手く動かなかった。力加減も、力を入れると紙は破れるし、弱過ぎると綺麗な線は書けない。
先生は子ども心が分かるのか、最初から文字を書かせようとせず。丸、曲線、三角、四角、と順に書かせて。図形の組み合わせが絵になると言い。自由に書いて楽しむ所から始めた。筆記具に慣れてから文字を書かせる気だろう。勉強を始めて少し経つが、ユーリはまだ落書きしか出来ていない。思い通りに線を描くのが難しいからだ。兄は先生に言われた単語を書く、というゲームのような書き取りをしている。
正解すると先生にもユーリにも誉められるので意外と楽しそうだ。飽きるのも早いけど。
「つかれた」と主張し始めた兄の横で、早く文字がか書けるようになりたいとユーリは張り切るのだった。




