家庭教師の先生が家に来ました!
家庭教師の先生が来ると決まった兄のお祝い会から1週間。今日はこれから初めて先生が家に来る。
ラルフは渋い顔で来客室のソファに座っている。ユーリはその横でニコニコだ。母は微笑みながらお茶の準備をメイドのマーサとしている。ローザは自室、父は執務室にいる。ローザが学校でないのは今日が休日だから。
家族が勢出で出迎えられても先生は居心地悪いだろうから、確かにこの位でいいと思う。ユーリも本来はいる必要はないのだが、先生に会いたいとお願いして同席させてもらった。ユーリがいるなら、ラルフが逃げ出さないだろうと思ったのもあるのか許された。
家庭教師の先生は若い男性らしい。ヤンチャなラルフにはお兄さん的な先生の方が適役だと思われたのらしい。そして裕福な家庭では、子どもに下手な異性を近付けるのを避けるという事でもあるとか。
まぁ、確かにキレイなお姉さん、カッコいいお兄さんは子どもの初恋泥棒になりがちだから分かる。でも、3歳児のユーリにまでクギを刺して来たのにはビックリした。まだそういうお年頃でもないのに。それとも異世界では初恋は早いのだろうか。
約束の時間、10時丁度位に先生はメイドに案内されて来客室に入って来た。二十代前半、という感じがするのだけどどうだろう。機会があったら年齢を聞いてみようとユーリはワクワク顔で見つめた。
面接は既に両親が済ませていて、今日は顔合わせだ。
一応決定はしているものの相性もあるからだろう。ラルフの勉強に対する苦手感を理解出来て、興味を引き出す努力が出来れば尚良し。学校前に先生から習うという事に慣れる事が出来るだけでもいいかもしれない。
ラルフは上から無理矢理押し付けるのに反発するタイプだと思うので、そこを上手くやれる人ならいいなと考えながらユーリは先生を見つめた。
背丈は父より少し低いかもしれないけど、前世日本人の平均位かなと感じる。スタイルはスラッとしていて、整った優しげな面立ちに眼鏡をかけている。眼鏡のせいか文系に見えるけど神経質な感じはしない。薄茶色の髪と瞳に柔和な印象を受ける。
「はじめまして。ラルフ様の家庭教師に参りましたトーリと申します。よろしくお願いします」
母に促されて、ラルフの正面ソファに腰かけた先生は優しげな笑みを浮かべながら小さな子ども相手にも丁寧な挨拶をしてくれた。かといって、押し付けがましい感じもしない。優しいお兄さん、という感じは好感が持てる。
ラルフはどうだろうと、チラッと横を見るとまだ勉強に抵抗があるのか不貞腐れてはいるものの一応頷いてはいた。反発心が起こるような相手ではないのは分かる。
母はそんな兄の葛藤を見透かすような目をしつつ、ニコニコと見守っていた。見守っている体で受け入れる事しか許さない圧を感じるけど。私も兄の返事を促す為に期待のこもった目で見つめた。
「⋯⋯よろしく」
不貞腐れた顔で目を合わす事もなく何とか挨拶した。妥協するだけ偉いと思うけど下手にほめたり注意したりすれば拗れるのは分かる。ので、変わりにユーリも挨拶する事にした。
「にいちゃのいもーとの、ゆーりですっ!」
「ユーリ様もよろしくお願いします」
「あいっ!」
先生はにこやかに返してくれた。
子どもに優しい人なのだと思う。この先生なら、授業を隣で聞く事も許してくれそうだ。
期待に輝く目で先生を見つめるユーリとは反対に、ラルフは母と打ち合わせの話し合いをする間ふくれ面のままだった。
怒ったり暴れたりしないだけ偉い。
2歳上の兄をナチュラルに上から目線で妹が評価している事をその場にいる誰も気付かなかっただろう。
そうして、先生が決まったのだった。




