前世一般人が転生に気付いた所で何も変わらない。
階段から落ちた事で前世に気付いてから3日経った。
自分が何者かに変わってしまうんじゃないかと少し不安だったのだけど。
ユーリとして生きて来た記憶もあり、そこに前世を思い出した所で変わりはなかった。
3歳という成長途中の年齢で、急に話せたり身体能力が向上するという事もなく。
元々のユーリも大人しい性格だったので、元の性格とそこまで変わるわけでもない。
猫を追いかけてしまうような行動は珍しい位だ。
前世からの動物好きで、飼えなかっただけに余計に拘りがあったのかもしれない。
この世界には普通に犬や猫もいる。
魔物みたいな怖い生き物もいるみたいだけど、ファンタジーな生き物がいるかもと思うとワクワクする。
普通の犬や猫でもいいから今世は飼えたらいいなと思うし、色んな生き物と触れ合えたらいいなという子どもらしい希望もある。
3日前のように家族に心配されないように無茶しないようにしようとは思うけれど。
階段から落ちて前世に気付いた後、自分の前世に対する割り切りに薄情さと惜しむほどの人生でもなかったという実感に心が苦しくなっている中。
部屋の外で誰かが走って来るバタバタとした足音がしたと思ったら、部屋のドアかバーンと開いた。
誰かと確認するまでもなく、寝ているユーリに飛びついて来たのは兄のラルフだった。
「ゆーり、かいだんからおちたって! だいじょうぶ!? あ、ないてる! いたいの?」
普段はヤンチャな5歳なのに、自分の方が痛そうな顔で労わってくれる姿に心がくすぐったくなって笑った。
「ラルフ! 家の中は走ったらダメだと言ったでしょ! ユーリ、大丈夫? どこか痛い所はない?」
「店から魔法薬は持って来たよ。痛いのならすぐに飲むかい?」
「ユーリ、ラルフに怪我させられてない? まったく、病人に飛びつくなんて」
「お嬢様! 痛い所はありませんか? 私が付いていながら申し訳ありません」
弟のラルフに続いて、母、父、姉のローザ、メイドのマーサに次々と心配の声をかけられた。
ユーリが気を失った後、ベッドに運んでから皆を呼んで来てくれたのだろう。
急いで駆け付けてくれた家族に胸がいっぱいになり、ユーリは笑みを浮かべる。
それにホッとした顔をしてくれる家族。
前世ではそこまで気にしてもらえる事はなかったなとも思った。そんな余裕がなかったのだから仕方はないのだけど。
でも、今を大事にしようと切り替えられた。3歳児の頭が柔軟なのもあったかもしれない。
という事で、前世を思い出そうが直後には割り切りと切り替えが出来て何の支障もなかった。
そもそもが大人に世話される生活、前世は何も特筆すべき事なき一般人。知識も大してない幼児の生活には何の変わりもなかった。せいぜいが前世を思い出した事で今世の有難みが身にしみる位。
感謝して家族を大事に謙虚に生きよう、と思うようになった。
そんな大人しいユーリを心配して、増々家族は構う。前世で自分が理想としていた「妹」になっている事にユーリは気付かない。我儘を言わない、聞き分けがいい、何かしたら喜んでくれて当たり前扱いをしない。そんな幼児を気遣い過ぎなのではないかと心配しつつも、大事に思う両親と姉と兄。メイドにも気遣いする幼児は可愛がられて育つ事になる。
本人は、妹になれて良かった! と日々を楽しむのだった。




