お客様に絡まれました。
少し長くなりました。
途中で切るよりはいいかなと思いまして☆
何か騒がしい様子に意識が浮上して、裏庭でうたた寝をしていたなと思い出す。
薄っすらと目を開けて、温かな枕になってくれているアヒルに手を伸ばす。お腹の羽毛は温かくフワフワだ。顔を埋め直して手でフワフワをモフモフする。
アヒルはそんなユーリに気付くと、まだ寝ていなさいと言うかのように顔を顔に寄せて優しくスリスリした。再び寝落ちしそうになったユーリだったが、大きな声に起こされた。
「あー! またねようとしてる! ユーリ、おきてっ!」
「ラルフ様、ダメですよ。奥様がおっしゃっていたでしょう? 寝せてあげてください」
「ん? ユーリをねせろなんていわれてないけど? いいから! あそぼうぜ! カイルもあそびたいって!」
兄とマーサのやり取りが聞こえて来て、寝起きの頭が徐々に可動して何が起きたのか分かった。
子ども部屋にいなければ突撃されないと思って裏庭まで来たけど。逆に探してここまで来た、という事らしい。
更に客人とユーリを会わせないようにという通告は覚えてないどころか分かっていなかったのだろう。何故か客人を連れて来てしまったようだ。
昨日、紙風船に客人が少し興味を示したとは言っていたけど遊べはしなかったらしいのに。何でその客人と外に出て来て、更にユーリに紹介をしようとしているのか。
紙風船に興味を持ったなら、遊べる系統で他のものもと思って昨日は紙飛行機を教えてあげた。ちなみに、風船も飛行機も言葉がこの世界にあるのか分からないので、紙風船をボール、紙飛行機を鳥だと言って教えた。
もしかして、教えた折紙が原因なのだろうか。でも、わざわざ会いに行こうと思うものか。妹という存在に興味を持たれたのだとしたら、良い意味なら平和に遊べばいいけど。悪い意味でなら、面倒な事になりそうな気がする。
マーサもシンも、客人にユーリを会わせないように母が言っていたとはこの状況で兄には言えないだろう。ユーリを抱えて逃げ出すのも失礼になる。
大人が何も出来ないなら、ユーリが何とかするしかなさそうだ。
仕方がないから何とか誤魔化して部屋に戻ろう。
そう決めると、うーんと言いながら伸びをしてゆっくりと上体を起こした。
胸元に乗っていた雛が落ちそうになったので抱き留めてあげる。胸元の雛は嬉しそうにピィと鳴いて、足に乗っていた雛達は抗議するようにピィピィと鳴く。鳴いてる雛達を順番に撫でて宥めるのは通常仕様だった。
アヒル達には人間の都合は関係ないのだろう。もしくはわざと見せつけているのかもしれない。チラッと兄と客人を見ては、フフンという顔する雛もいた。
「お! ユーリ、やっとおきた! あそぼうぜっ。トリをつくってきたからきょうそうしよっ!」
兄の動機は予想通りだった。プラス、どう扱ったらいいか分からない客人の相手を分散させようという算段だろう。確かに子ども同士とはいえ、何度か会った事があるだけの相手と楽しく遊ぶのは難しいだろう。
大人は何故か自分達が子どもだった頃を忘れて、子ども同士なら仲良く遊べると放置しがちだが。実際は相性が悪いと地獄の空気になる。
子どもも人間で、子ども同士にも人間関係は発生するという事を忘れないで欲しい。子どもの立場になると特にそう思う。
さて、客人の様子はどうかなと雛を撫でながらさり気なく視線を向ける。兄と同じ5歳男児は身長も体型も兄と似たようなものだった。
見目は、黄金の髪と新緑の瞳をしていた。ゴージャスな色合いだなと思うけど、この世界ではどうなのかは分からない。
兄も白金の髪とルビーの瞳だし。母も兄と同じ色合い。父は白銀の髪に海のような深い青の瞳。姉も父と同じ色合いだ。ユーリだけは瞳の色が家族にないものだが、そういう事もあるのだろうと思って気にもしてなかった。
ユーリは前世でもあまり自分や他人の容貌に興味がなかった。どう付き合うか、どういう立ち回りをするかの方が大事だった。家の洋食屋には色々な人がお客様で来ていたので、人は外見よりも中身だと知った事もあるかもしれない。見た目で知る事が出来る情報は確かに多いけど、内面とか相性とかは話してみないと分からない事もまた多いのだ。だから転生に気付いても、容貌を気にするよりもどう過ごすのかに気を取られていた。どういう人なのか分からないのでまずは観察をと思ったのだ。
眠いふりをして外見の後に、さり気なく顔を見て表情を読もうとした。観察されるのを気付かれないように目を合わせないつもりだった。けど、向こうもこちらを観察していたのか目が合った。その瞬間、暗く感情が見えない目にはっきりとした嫌悪が浮かんだ。その後、怒りに変わるのが見ていて分かる。
「……きもちわるい」
ボソッとした言葉は聞き取り辛く、けれどユーリにはその悪意が感じられた。
「カイル? どうかしたか?」
鈍感な兄は空気が読めなかったらしく、普通に話しかけていた。
「めのいろ、なんともおもわないのか? へんだろ。くろいめなんて、まるでマゾクだ……」
「マゾク? ちがうぞ? ユーリはちゃんとおれのいもうとだ」
悪意と偏見の塊のような発言に対して、兄は普通に返していた。マゾクは、魔族の事なんだろう。絵本の話では悪役だけど、交流がないだけで種族が違う人間だそうだ。外見も牙があったり、翼があるものもいるという。基本的に人間と違うのだ。
目が黒いと魔族という事もない。それにユーリの目は一見すると黒にも見えるが、近くで見れば濃紺だ。濃い青色、という事で父と姉と同じ青系だし。目は魔力の性質が出易いので、両親とは全然違う色になる事もあるらしい。いきなり難癖をつけられたら普通の幼児は泣く所かもしれないが、ユーリは色々知っていたので動揺する事はなかった。面倒な事になったなとか、どうやって逃げようかなと考えてはいたけど。
「ユーリ様の瞳は濃い青色ですわ。黒だったとしても魔族ではございません。そろそろオヤツの時間なので、お部屋に戻りましょうか?」
言い返すのはおかしいし、どうしようかと考えていたらマーサがそう言ってくれた。
「あい!」
屈んで腕を伸ばしてくれたマーサに、愛らしい声でわざと応えた。抱っこされて退場すればいい。
シンがいない所を見ると母に知らせに走っているのかもしれない。
シレッと退場しようとしたユーリだったが、予想外の事が起こった。
「グワッ!」「ピィィィ!」
ユーリの枕になっていたアヒルが起き上がり、囲んでいた雛達と一緒に声を上げて臨戦態勢に入った事だ。
「ガァちゃん?」
ユーリが声をかけるとアヒルは振り返り、まかせろと言わんばかりに「ガァ」と優しく鳴いた。そういう事じゃなかったのだが、何をする気なのか。
「わぁぁぁ! なにすんだよ、やめろよぉぉ!」
アヒル達は客人の5歳男児に突撃して行って突き回した。グワグワ、ピィピィと声を上げて襲いかかる。クチバシは固いので結構痛いのだけど大丈夫だろうか。加減はしていると思うけど。
「え? ちょ、カイルはおきゃくさんだぞ? やめてあげて。てっ! なんでオレまでつつくんだよぉ! やめろよぉぉ!」
アヒルに襲われる兄と客人を放置するわけにいかず、ユーリを抱いたままマーサはオロオロして。戻って来たシンが必死にアヒル達を止めて。最後はユーリがアヒル達を宥める羽目になった。
愛されていそうなのは嬉しくはあったけど、アヒルを使役して襲わせたようで笑えない。
アヒルに襲われた男児二人は号泣していた。これはどうしたものか、呆然とするしかないユーリだった。
アヒルさんが活躍してくれるのは予想外でした。
鳥も意外と情が深いので、うちの子をイジメたらキレるのは仕方がないかなと。




