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異世界に転生した事に気付きました。

 リア国の王都リラ、その中でもサンは活気ある商業都市だ。


 あらゆる店が立ち並ぶ中、魔法薬を主に扱うリーフ魔法薬店の三人目の子どもは女の子で名前はユーリ。


 ユーリは大人しくてよく眠る子どもだった。

 本人としては環境に満足しているので、何か特別に衝動的に訴える必要がないだけなのだが。

 ユーリの5歳上の姉ローザは拘りが強く要求が細く、2歳上の兄ラルフはヤンチャでよく動きよく泣くタイプであったらしい。

 その為、生まれてしばらくしてもお腹が空いた時にか細く泣くだけのユーリは心配されながら育った。

 手がかからない大人しいのは性格だろうと判断されたのは、発育が順調な事を確認された1歳位だとか。


 ユーリ本人に記憶はないものの、そんな風に思われていたんだと気付いたのは成長後の事だった。

 それはまだ先の事。


 現在、ユーリは3歳。

 大人しいけれど自立心が強いユーリは、庭で遊んでいた時に迷い込んだのか猫を見かけて追いかけた。

 メイドが見守っていたものの、珍しく急に走り出したユーリに気付くのが少し遅れた。

 そして庭は昨日降った雨で少し濡れていて、そのせいで草や石は滑り易くなっていた。


 猫は追いかけて来た幼児に驚いたのか逃げるように駆け出し、植え込みの角を曲がった。

 ユーリは珍しい猫の姿に夢中で追いかけて、同じように勢いよく角を曲がった。

 その先にあったのは運悪く階段だった。

 しかも石で出来ていて、雨の後で濡れていた。

 当然のようにユーリは階段の上で滑った。


 走って来た勢いはあったものの、身体は後ろに倒れたのでお尻を着いて滑るように階段を落ちた。

 幸い階段の段は三段と少なく、ユーリは痛みよりはショックに呆然とした。

 

落ちる、と思った瞬間に視界が真っ白になった。

 そして、その真っ白な視界から見た事の無い光景が頭に浮かんだ。

 長い階段、青い空、高い木々、人の叫び声。

 あぁ、そうだ。

 あの時、私は一番下の弟の睦月を庇うように変わりに階段から落ちた。

 頭から後ろに倒れるように、落ちて多分頭を強く打った。

 痛みは感じなかったと思う。

 前世、高校3年生でまだ17歳だった葉月の記憶。


 自分が転生したのだとユーリが自覚したのは、気絶して運ばれたのだろう自分の部屋、ベッドの上だった。


「異世界、転生?」

 まだ明るい部屋の中で目覚めたユーリはぽつりと呟いた。

「え? 悪くないかも」

 前世を惜しむのではなく、ユーリであるこれまでを振り返って思わず呟いた声は楽しそうだった。

「むしろ最高かも!」

 終わってしまった前世にはどうせ戻れない。

 何故か転生してしまったけど、ずっとうらやましかった末っ子という立場だ。

 妹を可愛がる姉と兄がいて、大事にしてくれる両親もいて、家は裕福で生活に何の心配もなく、家事に追われる事もない。


 ここは天国ですか! と、言いたくもなる位に恵まれた理想通りの環境。

 前世を惜しまないなんて薄情なのかもしれない。

 けれど、あのまま生きていたとして大学には行けずに店を手伝い家事育児に縛られるしかなかっただろうと思う。

 家族の事は嫌いではなかった。

 ただ、自分の時間とか自分の人生とか選べずに諦めながら生きていた。

 不幸だとは別に思ってなかった。

 家族仲も悪くはなかったし、衣食住の心配は一応なかったし、家事育児店の手伝いに追われる生活だったけど学校には友達もいたし。


 ただ、選択肢が、人生の選択肢が少なかっただけ。

 家族のサポートを中心に生きるしかなかった。

 弟妹は私が「好きでやっている」という顔で感謝もなかったし、何なら文句も平気で言っていた。

 家族だから遠慮なく言えるのだろうと気にしないようにしながらも、胸が痛む時もあった。

 両親も親戚も近所の人もお客さんも「良い子」だとほめてくれたし、「しっかりしている」と評価もしてくれた。

 でも、家の事をしないのは体調を崩していても難しかったし。

 手を抜けば家族に当たり前顔で指摘される。


 頼られている、と思うようにしていたけど。

 本当はずっと重かった。

 でも、その重石を下ろしたいと言う事すら許されない位に生活に余裕はなかった。


 家族や友達に会いたいとか、あのまま生きていたら、とか考えて惜しむには今の生活が快適過ぎた。


 本音を言ったら、前世家族に責められるだろうか。

 でも、もう戻れないし捨てたわけではないし。

 私一人が自由になってもいいよね?


 ベッドで横になったまま、ユーリは歪んだ笑みを浮かべた。

 何なのか分からないものが込み上げて喉が詰まり、目尻から一筋の涙が流れた。



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