裏庭で飼える事になりました。
馬車で熟睡していたユーリは家に着いた時も起きなかったらしい。
馬車まで迎えに来た母は、ぐっすり眠る子ども達のヒザの上にアヒルの雛達が陣取って寝ている姿に悶絶していたとか。
子ども+小動物、は確かに無敵の可愛さだと思う。自分の事だと実感は沸かないのだが、ともかく庭で飼う事が決まった。
という話を、ユーリはベッドの上でマーサから聞いた。馬車からは寝たまま運ばれて、雛達の羽とかフンとかで少し汚れていた服も着替えさせてくれてから寝せたようだ。気付いたらベッドに寝ていて、服も寝間着に変わっていたから長い夢を見たのかと驚いたけど。夢じゃなくてよかった。
起きた時にはもう夕方だった。帰って来てから30分程経っているのらしい。マーサも一息吐いた所だったとか。アヒル親子がどうしてるか聞いてみると、シンが庭に連れて行って住む場所を整えてくれているとの事だった。
夕飯までまだ時間があったので、アヒル親子に会いに行きたいと主張して連れて行ってもらう事にした。片手がガッシリとマーサに繋がれているのは迷子防止の為なのか、今日の事で信用を失くしたからなのか。大事にされているのは分かるので大人しく繋がれておいた。
庭とは言っても、ユーリが遊んでいた建物の表側ではなく裏庭に連れて行かれた。初めて足を踏み入れる場所がある事にビックリした。3歳児の用がある範囲しか連れ出さないので、考えてみたら知らない場所があるのは当然なんだなと納得もする。
裏庭には畑と温室があった。家も広い洋館だなと思ってはいたが、庭はその倍以上はあるかもしれない。畑では家で食べる野菜と薬草も育てているらしい。温室はデリケートな薬草などを育てているそうだ。家が魔法薬店を営んでいるとは知ってはいたが、薬草を育てているのは知らなかった。
遊ぶなら裏庭の方が楽しそうだと密かに思う。下手に言うと渋い顔をされそうだが、アヒル親子という良い口実もあるし。3歳児とはいえ、もう3歳だ。歩けるし転ばないように用心も出来る。外とは言っても庭だから大丈夫なはずだ。と、大人達が聞いたら困った顔をするだろう事を考えていた。まだ端から見たら危なっかしい、しっかりしているとは言えないだろう。人は自分が一番分からないものなのかもしれない。
温室の近くには納屋があり、その側でシンが何やら作業しているのが見えた。その周りにはアヒル親子もいる。
「なにちゅくってるの?」
何を作っているのか、気になって聞くとアヒル親子が住む小屋だと言われた。とりあえず今日中に出来る簡単なものを作って、後日ちゃんとしたものを作るそうだ。
アヒル親子が住む場所を作る、という事はこれからずっと一緒にいられるはずだ。そう思うと単純に嬉しくて、へへっと笑う。
「まだ小屋が出来るには時間がかかるから、アヒル達と遊ぶといいさ。親のアヒルは怪我をしていたので手当てしたんだが、意外とやられていたから付き添ってあげるといいかもな」
そう言われて見ると、ピィピィと元気そうに鳴く雛達とは逆に親アヒルは丸くなって静かにしている。
「治療の時に少し暴れたから余計に元気が無いんだろうけど。意外と酷かったから横にいて守ってあげるといいんじゃないか」
確かに怪我や病気の時は心細いものだ。作業を見られるのが急かされるみたいで嫌なだけかもしれないが、それもそうだなと付き添う事にする。
所々、包帯を巻かれた親アヒルは痛々しく見えた。丸まって寝ている横にユーリは静かに座って見つめる。撫でたい気持ちを抑えながら、そっと見守った。雛達がピィピィと元気に鳴きながら寄って来る。雛なのに意外と寝ないものだなと思いつつ、撫でようと手を伸ばしても避けられる。追いかけっこのように楽しんでいるのか、そこまで気を許してくれてないのか判断はつかない。けど、しつこくすると嫌われるのは確実なので諦める。
にしても、これだけうるさいと親アヒルは気になって眠れないんじゃないだろうか。病気や怪我の回復には睡眠が大事だと思う。前世は体調が悪くても静かに眠れない環境だった事を思い出して眉を顰めた。
雛達を引き離しても逆に親アヒルは心配するだろうし。何とか雛達を静かに出来ないものか。考えて、無理だなと苦笑する。変わりに小さな声で歌う事にした。
「⋯⋯ねむりぇ よいこよぉ」
メロディは通じるものがあるかもしれない。前世、弟や妹の寝かしつけで使って意外に効果があった歌だった。最初に噛んでしまって気が削がれたものの、シンやマーサに聞こえない位の囁き声で優しく歌う。
目を閉じて、思い出しながらゆったりと優しい気持ちを込めて。良く眠って、早く治って元気になるような祈りも込めて。
気付くと雛達は思い思いに寛いだ格好で寝息を立てていた。ユーリ本人も眠ってしまった為に気付く事はなかった。
シンと話しながら少し離れた場所で見守っていたマーサは寝ているユーリに気付いて苦笑した。
草の上、親アヒルに寄り添い寝転んだユーリを取り囲むように雛達が寝ている姿は絵本の挿し絵のようだった。後でマーサが可愛い光景だったかを熱心に語り、見られなかった母が悔しがった事もユーリは知らない。ただ満足そうな顔で眠っていた。
土日はちょっと更新出来ないかもしれません。
現状、ストック無しでリアルタイム更新をしています。
次の話は、日本に残された家族の話になるんじゃないかと思います☆




