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オルレイ戦記  作者: 宅間晋作
旅立ち編
3/34

生まれて初めてのわがままを

 熱い。

 体が熱い。

 体を動かす事も思考もままならない。


「ここは?」


 少女が目を覚ますと柔らかいベットの上だった。


「わ……たし?」


 手がある。

 体が熱いが意識はハッキリとしている。

 なんならむしろ精神的にも安心感を覚えていた。


「はぁ団長も物好きだぜ?」


 するといきなり扉が開いて髭の生えた男が頭を掻きながら少女の部屋に現れる。


「ひっ!?」


 怖い。

 男を見た途端に少女の中に恐怖が生まれた。

 父や母、兄に姉から与えられた暴力と暴言の数々。

 そして先ほどメイドに裏切られた記憶がフラッシュバックする。


「うぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 少女はベットから抜け出して開いた扉からに向かって全身を振り絞って逃げる。


「おい!? 待てって!?」


 男が驚いた声を上げたが少女はそれを無視した。

 何故なら少女の認識は自身を傷つけて否定し裏切る物であると少女の価値観として既に形成してしまっているからだ。


「嫌だ! 嫌だ! もうあんな目に遭うのは嫌だ!」


 顔を横に振り、人に対する恐怖を叫びながら少女は逃げる。


「おうお嬢ちゃん目覚め!?」


「なんだなんだ? 目ぇ覚めたのかよ?」


「う……あっ」


 すると目の前に灰のフードを纏った集団が現れた。

 その数は多すぎてわからない。


「い、嫌! いやぁぁぁ!」


 目の前の光景が悍ましすぎて少女は頭を抱えて発狂する。


「オメェら見回りしてこい。 ガキにこんな数の大人はちときついだろう」


 すると茶髪と髭が目立つ四十代くらいの男が目の前の男達に号令をかける。


「「「はーい」」」


 すると男達は部屋から出て行き場には少女と四十代の男だけが残った。


「う……あ」


 怖い。

 目の前の男は背中に武器を背負い、額には切り傷が目立っていてとても怖く感じた。


「悪りぃな悪い奴らじゃあねぇんだ。 女はウチじゃ少ないからなぁ。 ……リーゼとロテナがいりゃあ、お前も少し落ち着いただろうが」


「うっ」


 まだ怖い。

 少女は目の前の男に警戒して睨み続ける。

 大人は裏切る。

 そして自身を否定する。

 その警戒を少女は続けようとしたが意識が遠くなるのを感じる。


「おい!?」


 男が声をかけて来たが少女は返事をする事が出来ずにそのまま意識を手放した。





「ここは?」


 光を感じて目を開けるとベットの上だった。


「起きたか」


「ひっ!?」


 声をかけられた方を見ると黒髪に犬耳が生えている女性が目に映った。


「おはよう。 いきなりで悪いが私はロテナ・プリジス。 灰の放狼団という傭兵の団長をしている」


「うっ」


 まだ大人を信じきれず少女は女性を睨む。


「いきなりで悪い。 だが一つ言っておく私達は君の味方だ」


「み……かた?」


 言われている意味がわからず少女は首を傾げる。


「……はぁ。 本当に劣悪な環境にいたんだな。 ふざけやがって」


 ロテナが少女に向かって何か言っているが少女には意味が分からなかった。


「まぁいい。 君、名前は?」


「名前って何?」


「っ!?」


 少女はただ自分なりの発言しただけなのだがどうやらロテナにとっては驚きだったらしく表情が驚愕に染まる。


「な、なんだと!? 子供に名前をつけない親がいるかぁぁぁぁぁ!!」


 すると目の前のロテナから魔力が溢れ出て部屋の空気を振動させた。


「ひっ!?」


 少女はロテナの怒りと魔力に当てられて恐怖のあまり全身が硬直した。


「……ふぅすまない。 君に怒っているわけじゃないんだ。 ただ君の境遇に勝手に私が怒っているだけなんだ」


 息を整えてロテナが少女に声を掛ける。


「なぁよければウチと一緒に旅をしないか? 行く場所があれば断ってもいいんだが」


「……分かった。 一緒に旅する」


 少女はロテナの態度を見て信頼してみようと思った。

 自身ではなく自分の為に怒ってくれたロテナを信じてみようと思う。


「言いたい事があればなんでも言ってくれ」


「じゃあ。 ……一つお願いがあります」


「なんだ?」


 生まれて初めてのわがままを言う事にした。


「名前を……下さい」


 そう言って声を震わせて、涙を流しながら少女は頭を下げた。


「じゃあオルレイ・プリジス。 今日から君はオルレイと呼ぼう」


「あっ」


 名前で呼ばれた。

 蔑みの言葉ではなく少女を否オルレイと言う個人を呼んでくれる事にオルレイは涙と声を震わせる。


「うっ、ううう」


 涙が溢れて止まらない。


「大丈夫。 ここは暖かい場所だ。 誰もオルレイを否定しない」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 生まれて初めてオルレイは恐怖ではなく安堵の涙を流した。


 


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