少女と雪
しんしんと雪が積もる。
雪道を歩いて少女は倒れる。
ボロボロの灰色の長い髪に黄金の瞳を宿していた。
少女に自我や意識はなく、ただ生きたいと言う思いから力を込めて体を起こしてよたよたと歩き始める。
だが全身に力が入らずまたその場で崩れ落ちるように倒れた。
「……っあ」
声も出ない。
それもそのはずだ。
少女は五歳ぐらいの年齢であり、まともな環境で育っていない事は一目見たら分かるだろう。
自身がどんな生き方、意識、思考を持って暮らしていたのか少女の記憶も意識も曖昧になり、今にも死を迎えそうになっていた。
「大丈夫?」
すると声が掛けられた。
その声の主を見ようと少女は力なく上を見る。
「捨てられちゃったのね? 保護しましょう」
「ああ」
「おいこんなガキを引き取るのかよ!」
女性はとても綺麗でピンク色の髪に青い瞳をしており腰に剣を帯刀し、左腕がなかった。
大柄の男は髭を生やして大剣を背中に背負っている。
二人の声に七歳くらいの黒髪に青い瞳をした少年はイラつきながら少女を見る。
「どうしたの?」
「あっ! ロテナ! 聞いて女の子が倒れているの!」
「捨てられたのね。 かわいそうに」
とても綺麗で透き通った声。
ロテナと呼ばれた狼の獣人の女性が少女の元に駆け寄って手を頬に触れた。
「私達が次の戦の為にここを通っていなかったら君を見つける事が出来なかっただろう。 おいで我々は君の味方だ」
そう言いながらロテナは少女を抱き上げてマントに包ませた。
「……あ」
力なくロテナの顔を見て少女は安堵し右目から一筋の涙を流して意識を手放した。
「なんでこんな雪山に子供を捨ててんだ?」
「口減しだろう」
大柄の男は少女を見ながら呟く。
大柄の男の言葉にロテナは言葉を返してそのまま歩き出した。
「行こう家族達。 死を恐れぬ同胞達よ」
ロテナが背後を振り向くと灰色のフードを被った集団がいる。
男も女も老人も子供もいる。
剣、槍、弓、杖、銃、斧など様々な武器を携えて戦意を体から滾らせている。
彼らは三百名からなる傭兵団であり、ジッテルド大陸にある四つの国の一つヴァレスト帝国に名を轟かせる傭兵団だ。
「行こう我らの戦場へ」
彼らは歩く。
戦を求めて。