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魔王の独白

「俺は魔界の七人の魔王の一人、吸血鬼の王バルキス。それに楯突くというのか?」


「な……っ」


 バルキスは不敵な笑みを浮かべて自己紹介し、エリックは動揺する。


 気に食わない男から怖れられてバルキスはふふんと笑っていたけれど、私が真顔のままなのを見てつまらなさそうに唇を尖らせる。


「あんまり驚いてないか」


「吸血鬼の王とは聞きました」


「では、どうする?」


 尋ねられ、私は肩をすくめた。


「どうしようもありません。あなたは滅しても滅しても、ゴキブリのように湧いて出てきます」


「ひどい」


「この国から去ってもらいたくても、私たちに講じられる手段はありません。加えて、基本的に民に危害を加える様子もありませんし……」


「確かに、人間に危害を加えるつもりはない」


 私の言葉を聞き、バルキスは「よく分かっているな」と言いたげに頷く。


「ですから、ただ邪魔なだけの存在はとりあえず無視する事にしました」


「邪魔……」


 バルキスはぞんざいに扱われて傷ついた顔をしたけれど、それも無視する。


「私はあなたの事を、人が話していても平気で入ってくる蟻ぐらいに捉えています」


「蟻……」


 度重なる虫発言にとうとうバルキスは落ち込んだのか、空中に浮かんでいた体がスーッと下がり、足が床に着くかと思うと、床を透過して階下に沈み込んでいった。


(階下にいる者が気の毒だわ)


 まだ床に残っていた髪を掴んで引き上げようかと思ったけれど、透過状態にある彼を掴めるかは謎だ。


「ということでエリック。私はこのように自衛できますのでご心配なく」


「はあ……」


 彼に向かって手を向けてきっぱり言い切ると、エリックは生返事をして頷いたのだった。




**




 愛しい女が転生し、成人するまで三百年待っていたというのに、顔を合わせれば滅され、色気もクソもない。


 アリシアにやり込められるたび悲しくて堪らないが、彼女から見れば俺はただの人間の敵なのだろう。


 だが人間に危害を加えるつもりはない事は、理解してもらえたみたいだ。


 冷たくあしらわれているのは本意ではないが、全力で敵視されて攻撃されていないだけまだマシだ。


 そうなれば〝昔〟の二の舞を演じてしまう。


 好きな女に存在を否定され、俺のせいで苦しめる事を思えば、今の状況なんて可愛いもんだ。


 次元の狭間にいる俺は、手元にポウッと光を生み出し、その中に現在のアリシアを映す。


 どうやら人間界では夜らしく、アリシアは寝台で健やかに眠っていた。


「……可愛い寝顔だな」


 俺は微笑んでアリシアの寝顔を飽きる事なく見る。


 彼女の側で言ったなら、間違いなく滅されているだろうが。


 俺はアリシアが眠っている時間、は次元の狭間で魔界にいる臣下と連絡をとっている。


 世襲制で魔王になった訳だが、一応仕事はきちんとこなしている。


 秘書官からは念話でネチネチとお小言をもらったが、人間界に比べてのんびりと時が流れている魔界の仕事など二の次だ。


 人間界でアリシアの様子を見ながら、片手間でこなすぐらいで丁度いい。


 次元の狭間のぬるい闇に包まれ、俺は欠伸をする。


 魔族は食事も睡眠も不要と言っていいが、大人しくしていればそれだけエネルギーの消費を抑えられ、睡眠に似た効果を得られる。


「……灰化して瞬時に再生するのも、エネルギーを使うんだよなぁ……」


 俺は欠伸混じりに呟き、アリシアの寝顔を見て微笑んだ。






 いつもなら眠りに就くと夢も見ないものだが、俺はこの三百年間〝彼女〟の夢を頻繁に見ていた。


 ずっと夢の世界にいたいと願っていたのに、俺はフッと意識を浮上させる。


 次元の狭間から人間界を覗き見すると、もう日が昇っていて、そろそろ活動時かと思った俺はズルリと体を人間界に出して伸びをする。


 空を飛び、まず愛しいアリシアの部屋を覗いてみると、彼女の姿はすでに寝室にはなかった。

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