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魔王と送る日常

「とにかく、こんな出会いをした相手と結婚するなんてあり得ません。魔王であってもあなたには戦う意志がなく、見境なく人を襲う訳ではない事も理解しました。ですがそれだけです。女性にアプローチしたいと思うなら、正式な手順を踏む事をお勧めします。現れ方一つ間違えると、どれだけ求愛しても聞き入れてもらえないと理解したほうがいいのではありませんか?」


 きっぱり言うと、バルキスは背中を丸めて溜め息をつき、しばし黙る。


「分かったよ。一旦出直す」


 バルキスはベッドから下りると窓に向かい、窓枠に手をかけて飛び乗ったかと思うと、ビシッと私に向けて指を突きつけ振り向いた。


「でも諦めないからな!」


「人に指を向けない」


 冷静に突っ込みを入れると、バルキスは「……冷たい……」と悲しそうな表情をしたあと、窓から身を躍らせた。


「あっ……」


 相手は魔族だし羽もあるから大丈夫と思っていても、私はつい心配になって窓に駆け寄る。冷たくあしらわれたからといって、飛び降り自殺を図られては堪らない。


 窓の外を見ると、敷地内に王宮の建物が見える中、バルキスが大きな羽を広げて滑空していくのが見えた。


 自分を困らせる魔王だというのに、私はその姿を見て思わず溜め息をつく。


「あんなに自由に飛べたら、気持ちいいでしょうね」


 呟いたあと景色を見ると、薔薇窓が割れた大聖堂が見えて今度は別の溜め息をつく。


「……どうしたらいいのかしら」


 私はぼんやりと光る月を見て、激しい疲れを覚えて溜め息をついた。




**




 その後、バルキスは昼夜問わず私の行く先に現れては、花やジュエリーなど、見境のないプレゼント攻撃をはじめた。


 どうやら吸血鬼という種は、物体を透過できるらしい。


 王宮の廊下を歩いていると、いきなり壁からニュッと頭を出して「よう!」と挨拶をしてくるので心臓に悪い。


 現れ方を学習しろと言ったのに、バルキスはまったく学ばない。


 私の側にいる侍女たちは、悪趣味な登場を見るたびに悲鳴を上げる。


 そのたびにバルキスがちょっと嬉しそうな反応をするので、腹を立てた私はもれなく彼を灰化させていた。


 ガーネット様にも相談したけれど、こう言われてしまった。


『あそこまで再生能力の強い魔族は見た事がない。私やアリシアの力でも致命傷を与えられないなら、様子をみるしかない』


 尊敬する彼女に言われては私にできる事はなく、いきなり騒がしくなった日々を受け入れるしかできなくなった。




**




 バルキスが私にちょっかいをかけているのを見て面白くないと思っているのは、いずれ私の婿に……と周囲から言われている宰相の息子エリックだ。


 エリックとお茶を飲んでいた時、彼が心配そうに尋ねてくる。


「アリシア様、お望みなら護衛をつけましょうか?」


「いいえ、必要ありません」


「どうしてですか?」


「必要を感じないからです。考えてもみてください。ガーネット様より聖女としての適性が高いと言われている私ですら、彼に致命傷を与える事ができません。魔に最も有効な力を持つ私とガーネット様が『どうにもできない』と思っているのですから、騎士や魔術師が護衛についてもお話しにならないでしょう。むしろ彼の不興を買えば、余計な犠牲が出てしまいます」


 そこまで言った時、突然バルキスの声がした。


「よく分かってるな」


 今回はどこから現れるのか……と警戒していたら、まさかの天井から逆さまに彼の頭が生えてきた。


「ぎゃっ!」


 エリックは悲鳴を上げ、椅子に座ったまま飛び上がる。素晴らしい体のバネね。


 私は表情を変えないまま、バルキスの頭に向けて光の球を飛ばす。


 ゴシャアッと彼の頭が灰化したあと、バルキスは「ひっど!」と悪態をつきながら頭を復活させる。節操のない頭だ。


 彼は天井から逆さまに全身を現したあと、クルンと空中で回転して足を下に向ける。


「アリシア様、お下がりください!」


 エリックは立ち上がると私の前で剣を構える。


(勇ましいのはいいですが、あなたさっき、悲鳴を上げて飛び上がっていましたよね?)


 私はこちらに背を向け、若干震えているエリックに突っ込みをいれる。あら、寝癖発見。

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