第3話 最期のメロンゼリー
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その日の夜。哨戒を終えた康は婚約者がいる洋館へいった。彼は婚約者の広い部屋におり席に着いて食事をしていた。
「おいしい」
バルサミコ酢と黒トリュフのソースがかかっているアンキモのソテーをナイフとフォークで食べている。一皿の量が少なくておいしいので、かなりおかわりをしていた。
「ふふ」
一緒のテーブルで食事をしている若い美女はおいしそうに食べている康を見て微笑んでおり赤ワインを飲み、とろけて赤くなっていた。
背中に届くほどの長いオレンジのポニーテールで黄緑の瞳。美しい両手は白い長手袋をしていても美しく、白いドレス姿で乳房は特大メロンのように豊満だった。肉付きがいい美脚の裸足で白いハイヒールを履いていた。
「こうして食事ができるのはうれしいわ、康」
「私もだよ、豊希」
若い女性との食事が楽しく、嫌なことを忘れるほど屈託のない笑みを浮かべた。
彼女の名前は甘瓜 豊希。魚安家に劣るが甘瓜家の当主で康の婚約者だ。甘瓜家は戦力が少ない分、メロンなどの作物が豊富で財力があり魚安家は財力、甘瓜家は戦力を得るための政略結婚で二人は婚約することになった。
二人の仲は良好で仕事を終えた康は甘瓜家の洋館へいき彼女と話し食事をすることが多い。嫌な相手ばかりの実家に帰ることが少なく婚約者の家は彼にとって癒しのマイホームだった。
「デザートをもってきて」
食事をすることが多いので料理を食べ終えた康を見て豊希は使用人を呼ぶ。使用人はドアを開けて入り、テーブルに近づく。
使用人が持ってきたデザートはふたつのメロンで二人の前に置いた。使用人は食器を片づけて部屋から出た。
「これか」
ゴスロリ男の娘は喜び、メロンを半分にするように開けた。中には果肉がなく冷たい黄緑のゼリーが入っていた。
「このゼリーは最高のデザートだ」
スプーンを持ってゼリーをすくおうとすると凄まじい弾力があり、スプーンを弾いた。ゆっくり力をいれるとすくうことができ、ゼリーを食べた。
「おいしい」
スプーンですくうのが難しい弾力なので、かむのが大変だが口の中の熱で溶け、ゼリーの味が広がる。
「メロン果汁とハチミツの優しい甘さが口の中で広がる」
ゼリーはくりぬいたメロンの果肉を液状にし、ハチミツを混ぜ冷やしてゼリーにしたものなので、さっぱりとした甘さは口とお腹に優しく、最高のデザートだった。
「私のも分けてあげる。はい、あーん」
豊希は自分のゼリーをすくい康の口もとに近づけ、慈愛に満ちた表情で口を開けた。何回もやっているので彼はゼリーを食べた。
「あまい」
とても甘く感じ、彼の表情はとろけた。
「もっとどうぞ」
康の表情を見て彼女は興奮し、ゼリーを与える。
「おいしかった。ごちそうさま」
自分と彼女のデザートを完食し満足した。
「最期の食事は終わったな」
「だれだ!?」
食事の余韻をぶち壊すような声がし二人は驚き立ちあがって警戒する。勢いよくドアが開き、多くの団員が入り、豊希を素早く捕えて康から離した。
「無礼者!! はなしなさい!!」
甘瓜家の団員達なので彼女は命令するが、だれも従わない。
「もうあんたに従わないよ」
先ほどの声の男が現れた。黒髪のパンチパーマ、バイクのライトのような両目の若い男性で青い特攻服姿、トゲつきの黒いブーツを履いていた。背中にはバイクのハンドルのような剣が二本ある。
「無頼党鮟鱇田支部のリーダー ボーゾースト」
知っている男なので康は睨んだ。彼は各地に支部がある無頼党という殺し屋ギルドのリーダーだ。
「なぜ、ここに無頼党の殺し屋が!? どういうことですか、あなた達!?」
豊希は殺し屋がいることに驚き、罪人のように扱っている団員達を責めて喚く。団員達はなにもいわないのでボーゾーストが説明する。
「先ほど春也様が父親を殺して魚安家の当主になったんだよ。甘瓜家との婚約もなくなり弟が邪魔だから、このおれに仕事を頼んだので、ここにきた」
「そんな!!」
「そこまで愚かとは」
殺し屋の話を聞いて豊希は驚き、康は呆れていた。兄は父を殺して当主になり次期当主の弟に殺し屋を送った。
「ここの団員達は利口だぜ。おれの話をすぐ理解して中に入れてくれた。みんな、ゴスロリ野郎におぼれている女に仕えるのをやめて、春也様につくそうだ」
ボーゾーストは悪い笑みを浮かべた。豊希は有能な美女で人望などがあるが康と付き合ってから評判が落ち、部下達は裏切り、殺し屋を中に入れて新たな当主に媚びを売ろうとしていた。
「そういうことで、お前には死んでもらうぜ」
背中の二本の剣を持ち、刃を舐めて笑った。
「貴様ごときが私の命をとれると思うな」
康はスカートの中に手を入れ、剣を出して構えた。
「宝剣 フルンチングのさびにしてやる」
敵だらけの絶望的な状況でも逃げずに闘う。
「康!! がんばって!!」
戦闘が苦手な彼女では団員達を振りほどくことはできず婚約者の応援しかできない。
「いくぜ!!」
殺し屋はゴスロリ男の娘に向かっていき二本の剣を振る。康はかわして剣で攻撃する。二人は素早い動きでかわして攻撃しており当たらないが康の方が押されている。
「どうした、どうした!!」
「くっ!!」
次期当主を殺すための殺し屋ギルドのリーダーなので余裕があり剣で嬲るように攻撃し楽しんでいる。
「パッシング!!」
「わっ!!」
両目を光らせて康の目を封じ、動きが止まったところを斬った。なんとかかわし服の胸部だけが切れ、彼の胸が露出した。美少女のようでも細い男の体つきで、きれいな肌をしており色気がある。
「気持ち悪い男の体だ」
「おのれ!!」
好みじゃないのでボーゾーストは興奮せず蔑み、康は悔しそうに睨む。
「遊びは終わりだ。死ね!!」
黒い煙を吐き、浴びた瞬間、康は爆発した。体は消しとび、首だけになり床に落ちた。
「康!!」
首だけになった康を見て豊希は驚いた。
「やったぜ!! これで邪魔者は消えて春也様は安泰だ!!」
次期当主を殺し春也から莫大な褒美がもらえるのでボーゾーストは狂喜している。康が死んで春也と敵対しなくなったので甘瓜家の団員達は喜び、豊希は康の首を見ている。
「けど、この程度の相手じゃ、おれがやる必要はなかったな」
余裕で終わったのはいいことだが、ボーゾーストは少し拍子抜けしていた。
「なに終わった気でいるの?」
動けない豊希は冷たい目でボーゾーストと団員達を見て、気味が悪い笑みを浮かべた。
「婚約者が死んだショックでおかしくなったのか? 康が死んだから、もう終わりだ。お前の処遇は春也様が決める」
彼女を殺す命令はなく、いくらむかつく態度でも殺すことはしない。康との仲がよく春也に協力する気がなさそうなので禍根を残さないように彼女も殺される可能性がある。
「だれが死んだのですか?」
「だれって」
豊希の表情が不気味で冷や汗をかき、おぞましい気配があり少し怖くなった。
「なんだ、あれは!?」
団員達は恐怖でどよめき、ボーゾーストは不安になり見ると康の首が浮かんでいて笑っていた。
「く、首が浮いてる!!」
さすがの殺し屋ギルドのリーダーも驚いてしまった。
豊希の名前はメロンでボーゾーストの名前は暴走とエキゾーストです。
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