第29話 富貴利達
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魚安家と殿坂家がいろいろやっている頃。荒場木に緊急速報が広がった。
荒場木領主が急逝した速報だった。動画やテレビのニュースで流れ、多くの人が知り、荒場木は大きく揺れて、さすがの康も驚いた。
暗殺され、犯人が捕まっていないことがニュースで分かった。
荒場木は領主を失ったが、新領主就任のニュースも流れ、混乱が広がることはなく、人々は安心した。
しかし領主の娘の南花は殿坂家に囚われており、そのことを知っている者達は新領主が分からないので気になっていた。
人々はニュースに注目し、新領主が発表されて姿を見せた。
新領主は若い美女。背中に届くほどの長い黒髪でイカのエンペラのような白い帽子をかぶっていた。
両手に白い手袋、青紫のハイレグ競泳水着姿でゲソのような白くて長いスカート、裸足にピンクのハイヒールを履いていた。
彼女の名前は海帝 烏賊美。急逝した領主の娘で南花の義姉であり、そんな女性が領主になったので荒場木は騒然となった。
発表などが終わり、疲れた烏賊美は夏戸第一基地にある領主の部屋で椅子に座っていた。
「ごめんなさい、南花ちゃん。私が領主になってしまって」
彼女は領主になったことを悲しんでいた。
烏賊美は側室の娘で南花と仲よく生活していた。しかし、正室の娘の南花は活発で品がなく、領主になる気がないので父と側近達は嫌っていた。
彼女が捕まっていなくなったのは父と側近達には好都合で烏賊美が正統な後継者になった。
「南花ちゃん。今どこにいるの」
義妹の心配をしている。側近達は父を暗殺した犯人は捜しているが、南花は政敵になるかもしれないので捜していない。
烏賊美が命令しても形だけで真剣に捜さないだろう。領主になった彼女はそれが分かっており、やるべき仕事がたくさんあるので、私情で動くことができない。
義妹の心配をしている新領主の部屋に一匹のクモヒトデが隠れていて彼女を見ている。
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元船堂家の洋館。康の命令で星奈は夏戸第一基地にクモヒトデを送り、情報収集をし、康と一緒に烏賊美を見ていた。
「義妹思いの義姉だ。私達とは違うな」
ゴスロリ男の娘は兄のことを思いだして笑った。義姉妹と違う実の兄弟で仲が悪く、争いになった。
「春也がどうしようもなかったのです」
康の兄でも主が嫌っていて反逆者なので星奈は春也のことを嫌っていた。
「そうだね。ありがとう、星奈」
お互い邪魔と思っていたので殺したことを後悔していない。
烏賊美と南花は性格がよく、実の姉妹ではないので友達のような感じだった。
「南花が殿坂家に囚われていることを新領主に伝えよう。南花を助ける名目で殿坂家を攻撃することができる」
康は殿坂家を滅ぼして、鮟鱇田を統一しようと考えている。
評判がよくない康は最初信じてもらえなかったが、調べたことを報告すると、新領主は討伐命令を出した。
烏賊美は口を出さず、ゴスロリ男の娘にすべて任せたので明日、殿坂家を攻めることにした。
南花は縦長の大きな水槽の中におり、うるさかったので冷凍され、氷の中で生きている。
烏賊美の名前はイカスミです。
「美女能力者のお腹にある別空間で特訓をして強くなった中途半端な能力者」と「非正規団員の小事件集」も連載中です。




