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メインシナリオの裏側の、裏側3




いつから、なんて覚えていない。

物心ついた時から、かわいいものが好きだった。フワフワで、キラキラしてて。それらを身に纏って、頬を染めて笑う女の子たちは、とても眩しく見えた。

それと同時に、作るのも好きだった。母が刺繍をしている時は、必ず隣に座って、飽きずに手元を眺めていたっけ。

妹ができた時は嬉しかった。本物のお姫様に負けないくらい、可愛くしてあげるんだ。そう決めて、拙いながらも色々手作りして、プレゼントした。勉強や鍛錬もそれなりに楽しいけど、堂々とかわいいものを作れる方が、楽しいし嬉しかった。

父も母も、そんな俺に気付いていただろうけど、否定もせず、優しく見守ってくれていた。妹は喜んでくれて。

でも、嫌でも分かってしまう。外との交流が増えるにつれて、他の子と自分は違うと。

自然と取り繕う事を覚えた。外でかわいいものの話はしない。そうしないと、俺だけでなく、父と母、妹も侮られてしまう。

家族と居る時だけ、俺は存分に楽しんだ。勿論、跡取りとしての勉強も怠りはしなかった。好きにさせてくれる分、俺も応えなくては。そう思い、頑張っていた。のに、


 『それは、女の子がするものですよ』


 『貴方は跡取りなんですから、そんなおままごとはおやめください』


 『こんな下らないものを作るより、やるべき事があるでしょう』


家の中では楽しめると思っていたけれど、誰もが好意的に見ているのではないのだと知った。

家族がいない時。俺が一人の時。決まってそう言われた。家庭教師として来た、女に。

両親はいいと言ってくれているのに、なんで。


 『旦那様と奥様はお優しいですから、口にしないだけです。内心は困り果てていらっしゃる。ですから私が代わりに申し上げているのです』


 『時間はもっと有意義に使うものです。いいですか、貴方の為に言っているのですよ』


事ある毎にそう言われ、隠れて作っていたものを目の前で捨てられた。

何度も何度も否定され、俺は何もできなくなった。跡取りとしての勉強だけを、淡々とこなしていく。つまらなかった。

反対に、女の顔は満足気になった。ほら、ご両親も喜んでいる。私の言った通りでしょう?と笑い、俺の『好き』を嗤う。俺が優秀になればなる程、そいつの顔は優越感に満ちていく。私が正しく育ててやったと、言わんばかりに。…気分が悪かった。

それは、妹も感じ取っていたらしく、気分転換も必要だと、無邪気を装ってよく連れ出してくれていた。兄としては情けない気もするけれど、妹の気遣いは嬉しかった。妹が居てくれたから、俺は『好き』を捨てないで居れたのだ。

それが気に入らなかったのだ。あの女は、そう言った。

折角、正しい道に戻してあげているのに、小娘が邪魔をする。何も分からない子供が、生意気にも口を出す。挙句、親に言ってやると癇癪を起こす。

だから黙らせたのだと、歪んだ笑みを貼り付けて女は俺を見た。


 『貴方が悪いんですよ。私は何度も何度も、言いましたよね?そんなモノに現を抜かしていたら、不出来で愚かな人間になると。なのに意思が弱い貴方は、楽な方を取ってしまった。だから貴方のせいですよ。お嬢様がこうなったのは、貴方が悪いせいです』


俺は、動かない妹を抱き締めながら呆然としていた。女の呪詛のような言葉が、耳について離れない。

俺が悪い、俺がさっさと諦めて、捨てさえしていれば。

両親は、そんな筈はないと慰め、時には叱るように否定してくれたけれど、俺は自分を責めずにはいられなかった。俺さえ居なければ、妹は今も此処で、幸せに笑っていた筈なのだ。

俺は妹の面影を探して、妹の格好をするようになった。中途半端な俺より、妹の方が両親も喜ぶと思ったから。…でも、違う。どうしても、妹になれない。

父も、母も、悲しそうにわたしを見る。なりきれていないからだ。わたしは、どうしたらいいんだろう。






赤銅色の髪、同色の丸い目。少し小柄な少年は、一言で言えば変わっていた。

今まで、私を見た子達はみんな同じ反応だ。腫れ物に触るかのような。どうせこの子もそうだろうと、思っていたのだが…、裏切られた。いい意味で。

この子は、私がどんな格好をしてても普通に受け入れてくれるのだろう。そういうものだと、当たり前のように。どうして、なんでと直球をぶつけることもない。大人しく、静かに話を聞いてくれる。

いつもはぐらかされて、こっちが謝って終わっていたけど、私は誰かにただ、聞いてほしかったのだ。それだけだったんだなと、気付いた。

不思議な子だ。まるで妹の気持ちが分かるように、淡々と話す。もしかして、本当に妹なのでは。そう考えてしまったのは、悲しそうに、困ったような顔で謝られた時。

この子が謝る事ではない。なのに、まるで大切な人を慈しむかのようだった。


 「…父様、あの子は…妹に似てませんか?」


 「え?……うーん、まあ、はっきりとした言い方は、似ているかもしれないね」


そうだ。妹は好き嫌いがはっきりした子だった。

似合わないとズバリと切られたが、思えば妹も同じ事言うに決まっている。自分でも気付いていたのだし。


 「なにか、言われたのかい?」


 「…ええ。わたし……いえ、俺は、俺でいいと。足りないのは、好きを貫く覚悟だと、怒られてしまいました」


 「……、…面白い子だね」


 「はい、とても」


父が、泣きそうになっていた。でも気付かないフリをして、俺は笑った。

こんなにも、心配かけていた。想ってくれていた。ずっと気付けなかったなんて、馬鹿だなと思う。


 「また、会いたいです。あの子の発想は面白いですから」


心配させた分、たくさん返していかないと。勿論、妹に似た、あの子にも。










 「……っお願いします。弟さんを、僕に!」


 「あげません」


 「まだ最後まで言ってないよ?!」


 「言わなくてもいい。あげません」


 「どうしたらくれますか?!」


 「あげません。自分の身も守れないようなひよっこに、私の大事な弟を渡す訳にはいかない」


お姉さんの意思は強固だ。僕は内心歯を食いしばる。

ここで僕の嫌いな『王族』を振りかざせば、断言できる。逆効果だと。そうなればあの子は一生手に入らないのだ。

でも、どうしても焦ってしまう。だってあの子の性格上、誰にだって手を差し伸べる。そして我が事のように気遣って寄り添ってくれるのだ。そんなもん、惚れてしまうだろうが。

こうして離れてる間にも、何処かの誰かとあの子が……!


 「……分かりました。なら僕は、弟さんに相応しい男になります!!」


 「そういうことじゃないのよ」


 「まずは周りの敵を一掃!!命狙われ続ける状況を打破します!僕を狙っても無意味と思い知らせ全て黙らせる!!」


 「それはしといた方がいいわね。あげないけど」


お姉さんの返しにブレがない…。

あの子を手に入れるには、お姉さんの鉄壁を超えなくてはならないようだ。

これは、負けられない戦いだ。僕とお姉さんは、笑ってない目でフフフフと笑い合った。





両方とも馬車の中で会話してます

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