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メインシナリオの裏側で  ー乙女ゲームの世界に転生したとは知らずに普通に人生を頑張る話ー  作者: 原田 和


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メインシナリオの裏側の、裏側2




……変わった子。

僕は赤銅色の髪を持つ少年を眺めた。魔力を使い過ぎて、今はスヤスヤ眠っている。

倒れた時は心臓が止まるかと思った。本当に大丈夫なのかと、何度も呼吸を確認して、安堵する。さっきからその繰り返しだ。

此処は彼の部屋らしい。何処よりも一番安全だからと、彼のお姉さんに言われて、一緒に居させてもらっている。信用できない大人達に囲まれるより、眠っていても彼の側の方が、よっぽど安心だ。


 「……」


ぎゅうと手を握る。

思えばこの子はずっと、こうしてくれていた。不安で怖くて、周りも見れない僕を勇気づけるように。大丈夫だと教えてくれるように。

敬語だったのも、最初だけだ。僕が王族だと分かっているだろうに、畏れる素振りもなくて。あの笑顔は、作りモノじゃなかった。まるで友達に話すように自然で、驚いた。

僕は、知っていた。

僕はきっと、此処で始末されると。

僕には二人の兄が居る。継承権は普通に行くと、一番上の兄。けれど、この国は実力がある者が選ばれる。生まれた順番は関係無い。互いに切磋琢磨して、成長できればいいけれど。実際はそんな優しいものじゃないし、僕にとっては苦痛そのもの。味方が居ないあの場所は、常に危険と隣合わせだ。母が亡くなった後、それがより顕著になった。

使用人は、知らない顔ばかり。何をやっても上二人と比べられて、できないと責められ、嗤われる。出される食事に、毒が盛られている時もあった。僕は、死を願われる程、疎ましい存在でしかないんだ。

王である父は、助けてはくれない。周りは敵だらけ。味方は、居ない。

僕は、どうやって自分を守るか、必死に考えた。そして、自分を常に帯電させようと思いついた。こうして誰も、近付けなくさせればいい。制御もまともにできない、出来損ないの落ちこぼれ。そう思わせたら、向こうも気にしなくなるんじゃないかって。

でも僕は、生きているだけで厄介者だった。


 「ごめん、ごめんなさい」


僕はもう、疲れてた。

まだ大丈夫って、自分に言い聞かせて。周りに何を言われてもされても、大丈夫って誤魔化していた。

でも本当は、全然大丈夫じゃなかった。やっと終われる。此処へ来た時、怖かったけど、安堵もあった。やっと僕は楽になれるんだって、それしか考えてなかった。

邪香まで使うなんて、思わなかったんだ。他の人達が巻き込まれるなんて。


 「ごめんなさっ……っ」


この子が必死になって戦ってるのを見て、自分の甘さを思い知った。僕は、卑怯者だ。

こうしてこの子に守られて、無事で、生きて、


 「…なんで泣いてんの…」


 「っ!?…おき、おきた、」


 「……どっか痛い?」


どうしてこの子は、人の心配ばかりするのだろう。こんなになるまで、戦い続けて。


 「いっ、いたくて、くるしい」


 「……」


 「つらくて、しんどくて、でも、いっ、いえなくて、どうしたらいいか、わからないっ」


弱い自分が、情けなくて嫌いだ。こんな事言っても、困らせるだけだと分かってるのに。

返事は無い。また、情けないと軽蔑されるのかな。


 「…ホント辛い時って……わかんないよなー…何したらいいかなんて考えられないし…」


自分で精一杯だよな、とぼんやり顔のまま、頭を撫でてくる。赤銅色の目は、侮蔑もなく優しかった。


 「たすけてって、簡単に言えないもんな。すごく、頑張ったんな、えらいよ」


 「え、らい?」


 「ん、すごいよ。いっぱいがんばった。だから、今度は、いっぱい休もう」


すごい。えらい。

まさかそんな事言われるなんて思わなくて、ポカンとしてしまう。

ベッドを叩いて、手招きしてくる。


 「ねよう。たくさん寝て、ごはん食べて、運動して、また寝よう」


 「え、……」


 「たくさん寝てごはん食べて運動してまた寝よう」


繰り返された。よくよく見ると、半目だ。多分寝ぼけてる。

それでもべしべしとベッドを叩き続けるので、急いで潜り込むと、満足そうに頷いた。


 「がんばったじぶんに、ごほうび」


 「……う、ん」


 「ん、……」


やっぱり、すぐに寝入ってしまった。起きたら、忘れてるんだろうと思う。でも、


 「…ぼく、がんばってたよ」


周りが信用できなくて、怖くて必死に。…自分の事しか考えられなかったけど、それでも。


 「きみの言う通り、僕なりに、がんばってた」


それを君は、認めてくれた。

僕はずっと誰かに、助けて欲しかった。僕を認めて欲しかった。

母が居なくなってから、ぽっかり空いたままだった所が、埋まった気がする。

そっと手を伸ばして、丸い頬を撫でた。起きる気配はない。


 「……やっと、みつけた…、ぼくの、………」










二人分の寝息が聞こえる。

私はそっと息を吐くと、弟の部屋をしっかり閉める。護衛に割く人員が無いのは、改めて怒りしか湧かない。おのれ、あの馬鹿従者どもめ。

中央にて、継承争いが起こっているとは聞いていたが、まさか我が領地で暗殺を企てるとは。成功していれば、私達に責任を押し付けて、領地も奪うつもりだったに違いない。裏に居るのは、北か南か……。

此処東の国は、肥沃な土地、豊富な水源、豊かな緑が自慢だ。その分魔物も多いが、その辺りは他の国も同じ。となると、有力なのは北の国だ。あそこは極寒の地で、痩せた土地が多いと聞くし。


 「…考えても仕方ないわね」


まだ、私は子供。できる事なんて限られている。できる事…そう、私の弟を魔物の群れの中に置き去りにした態度だけでかいクソ従者共を完膚なきまでに叩きのめす事…ぐらいだ。

意識を失う前に、邪香について自白してくれて良かった。起こすの、面倒だし。あのまま両手足を折って、魔物の巣に投げ捨てても良かったのに、現領主が止めるものだから、中途半端に生かした状態にしてしまった。

でも仕方ないわ。弟の方が何倍も恐ろしかったに違いないのだから、生きているだけでも感謝して欲しいくらいだ。

周囲に何重にも結界を張る。まだ油断はできないし、王子と共に来た者は信用できない。

…第三王子も、中央では苦労していたのだろう。挨拶をした時、必要以上に怯えていたから。大人達が守るように側に居ても、ひとり。そんな暗い目をしていた。以前の私も、あんな目をしていたのだろうか。

気絶した弟から、頑として離れなかった王子の姿が過る。


 「あの子、人たらしな所があるのよね…」


全力で褒めてくる、満面笑顔の弟から逃れるのは、中々難しい。多分王子もやられる。

弟は嘘が下手だ。だから、出てくる言葉は全て本音。貴族としては少々問題なのだが……これ程耳に心地いい賛辞は、他に無い。

それを聞く為に、腕を磨き続けていると言っても過言ではないのだ。

……でもまさか、褒められ鼓舞され続けた王子が、とんでもない執着を弟に向けるとは思っていなかったわ。





 「僕と一緒に来て!僕の専属になってください!」


 「え、やだよ。それより、帰ってもちゃんと運動するんだぞ?」


 「……」




弟は全く気付いてないのよね…。




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