メインシナリオの裏側で その3
王子が来るらしい。
何しに来るのかと聞けば、視察とのこと。
王族が居るのは、東西南北ぐるりと守られた、真ん中。中央にお偉方はいらっしゃるのだ。そこは大都市で栄えており、城壁に結界もあり、滅多に魔物も現れない。平和だそうだ。
まぁ、城壁、結界、それに加えて四方の国がぐるりと守るようにあるのだから、そりゃあそうでしょうよ。一つの国が突破されたら、相当レベルの魔物だろう。
そのせいか、中央で育った者は、魔物を見た事がないのがほとんど。耳にするのと目にするのとでは、大違い。対処法を知らず、本当の恐ろしさを知らないというのは致命的だ。
魔物は居るし、人の手に負えない存在もあるだろう。何かあってからでは遅いのだ。
…という理由で、毎年各国の視察に、王家の誰かが来るそうだ。今年は此処、東の国。で、対応するのが我が家。で、年が近いからという理由で、俺が王子の案内役に。
で、今、目の前に居るのが、王子。
でも王子、ずっと下向いて震えて、全然顔見えない。何も言ってくれない。どうやら人見知りらしい。
従者の方々は居るが、なんか王子から距離取ってるし。
くれぐれも粗相のないようにと、祖母から念押しされたが、これはどうしたらいいんだろう。俺から声を掛けたらダメなんだっけか。助けを求めて、姉をちらと見るが、義父と一緒に挨拶と説明とで忙しそうだ。
跡取りとして、知っておかねばならない事が山とある。今回ばかりは、義父と行動しなければと姉は溜息を吐いていた。
あの一件以来、姉は何か吹っ切れたのか、全く義父を相手にしなくなった。
色々思い直したらしい義父が話しかけても、他人行儀だ。義父、ショックを受けた顔で放心していたな。あれが、自業自得というものなのだろう。でも返答があるだけでも、良しと思うべきだ。居ない者とされるよりかは、マシだと俺は思う。
それより王子だ。
一応、自己紹介は済ませてあるから、俺の事は認識してくれているだろう。視察なのだから、まずは見てもらわなくては。俺は近い村から案内する事にした。
それでいいですか、と王子と従者の方々に伺うと、頷いてくれた。一応聞いてくれている。良かった。
…注目されてるなぁ。
王子は相変わらず無言で、頷くだけだ。従者達も相変わらず、一定の距離を開けて付いてくる。
普通は、もう少し近くで守るものじゃないのか?あの距離ですぐ対応できるのか?
最初は首を捻っていた俺だが、流石に分かった。みんな王子に近付きたくないのだ。あんなあからさまに態度に出していて、よく不敬罪?に問われないな。
子供二人が先を歩き、その後ろを、ぞろぞろと大人達が並んで付いていく。変な光景だ。そりゃあ、注目もされる。
「…み、見られてる、……」
王子が喋った。もう喋らないのかと思ってた。
「ぼ、僕のかっこう、お、おかしい、のかな…」
小声だったが、俺にはよく聞こえた。オロオロとしている様は、なんか想像していた王族とは違った。もっとふんぞり返ってるものだと思っていたし、徒歩移動でなく、馬車で流し見する程度だと、勝手に思っていた。恰好も、いい仕立てのものだが、動きやすさを重視してるみたいだし。
なんだか王族っぽくないなぁ、と王子を眺めていると、ようやく目が合った。髪と同じ、金色だ。
とりあえず、笑顔!
姉には、アンタの笑顔は無駄に元気ね、と評されている。悪い意味ではないだろう、多分。
「俺は、かっこいいと思いますよ」
「っそっ、そ、そう、かな…?」
「う…じゃない、はい。あの、訊いてもいいですか?」
「な、何…?」
「何でみんな離れてるんですか?」
「……。それは、……」
「訊いてはいけない事でしたか?」
言い澱む王子に、やってしまったかと内心焦る。すると、王子が手を出してきた。
握れという事か?と反射的に握手。
ばぢいぃぃぃぃっっ!!!……と、物凄い音がした。手が痛い。
これ、静電気だ。寒い時とかによくやるアレ……、
「だ、大丈夫か?!」
「……えっ、」
「乾燥してるせいかな?あっそうだ!こうして地面に手ぇつけて!」
「えっ、」
「早く早く、またバチッってきた!こうしてな、地面に逃がすんだ。木でもいいんだって、マシになるらしい」
「……」
王子はポカンとしつつも、両手を地面につけている。うん、これでいいはず。なんで俺、こんなの知ってんだろ。多分、なんかの本で読んだんだろな。覚えててよかった。
「……僕の、」
「ん?」
「僕の、心配してくれたの、君が初めてだ…」
「いや、するよ。あんな凄い音したんだから。お互い痛いだろ」
「……僕の、属性は、雷だから、慣れてるんだ」
「慣れてても痛いものは痛いよ?」
王子の目が丸くなる。なんで驚く?痛いでしょうが。我慢するより放電に力を入れた方がいいと俺は思う。
それにしても、誰も来ないとは何事だ。目を向ければ、従者の方々は王子そっちのけで談笑していた。
いいのか、アレ。そんな目で王子を見れば、気付いて首を振った。
「いつもの、事だから…。きっと、君が痛がってこうなってると思ってるんだ。…ごめん、ね。僕、制御がうまくできなくて……」
「謝ることないよ。みんな最初はそうだしさ。ため込んじゃうより、パーっと外に出したら楽になるかもよ?」
「外に、出す?」
「うん。我慢は良くないっていうし、定期的に放電しながら、制御を覚えたらいいと思う」
「……」
「周りの人達を考えてるのは、いい事だし優しいと思う。でもずっと抱えてるのは、いつか疲れて動けなくなるから、止めといた方がいい」
「……?それって、」
「なんとなく、そう思っただけ」
そろそろいいかな。そう思って手を払って、王子の手を握る。
やっぱりバッチィィィッときた。でもさっきよりマシになったので、そのまま案内再開。
大地の力ってすごいなぁ。そう話しかけると、ようやく王子は笑ってくれた。




