メインシナリオの裏側で その15
俺の目の前に立つは、第三王子。
彼は跪くと、そっと俺の手を取り、唇を落とした。
「……僕と、結婚してください」
甘い笑顔。見る者全員を、魅了するような破壊力。
それを惜しげもなく、俺に向けてくる。俺は、優しく微笑み、
「断る」
……
………
……………
時の流れはあっという間だ。楽しければ、尚更。
色々あったし、大変な時もあったけど、充実した学園生活だったんじゃないかな。
俺は今日、卒業する。
姉と、南のお姉さんは一足先に卒業。今は家に帰って、跡継ぎとして学び続けているとか。
「姉上に見合い話が来てるんだってよ」
「あ、それ姉さんも。どんな人かな」
「まー俺は、姉上を任せられる気概ある奴なら、いいかなって思う。姉上次第だけどな」
「姉さんが安心して、背中預けられる人だといいんだけどなぁ」
「お前はどーすんだよ」
暴れん坊の問いに、俺はそうなんだよなぁと呟く。
勿論、姉の助けにはなりたい。けども、見合いがうまくいって結婚、となれば俺はお邪魔虫だ。流石に、新婚夫婦の間に割って入る真似はしたくない。姉の幸せ最優先だ。
学園で交流して、視野はそれなりに広がったけど……まだ足りない気もするし。
「……色んなトコ見て回りたい、と思ってる。実際に触れて見聞きして……自分の視野を広げたいんだ」
「旅か。いいんじゃね?……なら、俺んトコ来るか?」
「それもいいな。でも先立つモノがだな……」
「仕事なら紹介してやれるぞ。働きながら見て回ればいいし、寝泊りは俺の家にすりゃ、宿代いらず。俺も手合わせできるし」
ニヤリとワイルドに笑う暴れん坊。相変わらず、手合わせ好きだな。
でも魅力的なお誘いだ。俺はまだ一度も働いた事が無いから、経験値が足りない。自分の分くらいは自分で稼ぎたいが、仕事を見付けるのが一番大変だろう。ここは御厚意に甘えさせてもらって、
「それなら、俺の所でもいいよね?丁度人手が欲しいと思ってたし、君なら父さんも喜んで迎え入れてくれるよ。母さんも会いたがってるんだ」
そっと両肩に手を置いて、にっこり笑うはフリル。
確か、卒業したら商売を始めるとか言ってたな。実家では今、その準備で猫の手も借りたい状態らしい。
可愛いもの好きが高じて、店を出すまでになるとは思わなかったよ。店名は、妹さんの名前だ。
「そんなに人手足りないのか?俺は完全素人だから、役に立てるとは思えないけど」
「俺の独りよがりにならないよう、客観的意見が欲しいんだ。どうしても熱が入って暴走気味になるから、冷静に意見くれる人が欲しくて。俺は君がいい」
センスない俺の意見を取り入れても、足を引っ張りかねないと思うけど。でも友達の力にはなりたい。切迫状況を考えると、先にフリルのトコで、落ち着いたら暴れん坊の所にお邪魔するようになるかな。
それでいい?と暴れん坊を窺う。
「……仕方ねーな。その代わり、絶対来いよ。ついでにお前も来い、ゴーレムと戦わせろ」
「はいはい、俺はついでね。暴れん坊な君に、簡単に壊されないものを作ろうかな。あ、最低三年は手伝ってね」
「年単位だったの?!」
「当たり前じゃない。商売は軌道に乗せるまでが大変なんだから。最初は物珍しさもあって手に取ってくれるだろうけど、そこから固定客にするには時間が掛かるよ」
「センスあるし、物もいいからすぐ付くと思うけどなぁ…」
フリルがオシャレじゃなかった日って、無かったよ?全然隙無くカッコよかったよ?
思ったままを言えば、ふわりと笑って礼を言ってくる。周りが沸いた。
今では慣れたか麻痺したか、美形二人と居ても視線気にならなくなった。だから忘れがちになるが、注目されてるんだよな。
会話もしっかり聞かれてたようで、私絶対行くと盛り上がる女子達。いい宣伝になったと思っておこう。
「なら、俺のトコも三年。不公平だからな」
「何処で張り合ってんだ。でも流石に三年もお世話になる訳には、」
「いいっての。部屋なら余ってんだ、変な遠慮すんな」
「……それなら、私の所も三年、でどうかしら…」
氷姫。彼女は領地に戻って、改善改革に力を注ぐと聞いた。弟さんと共に。
弟さん、生きてたんだよ。生かされたって言った方が正しいのかな。まだ改善の余地あり、と判断されて……屋敷の離れに幽閉状態だとか…。
それはともかく、何で俺?俺嫌われてるよね?
「……貴方の力を借りたいの。私では、少し難しくて……」
鋭い青が向けられる。
「……、……弟と、話して欲しいの…。報告では……あの子、ずっと怯えたままで、何も手を付けようとしないらしいの。このまま放っておく訳にはいかないし……。でも私が行くと、あの子泣き叫んで気絶してしまうから」
トラウマ植え付けられとる……。
何を見てしまったかは、詳しくは訊かないけども。責任重大じゃないか。俺、何の知識もないのに。話相手なら、こう……優しくケアできる方がいいんじゃなかろうか。
彼女の周りに居る陰さん達なら、その辺りも詳しそうだが。
「……私に関わる人達全員に、拒否反応が出るみたいで……距離を取って指示するしか、今の所無いの。ちゃんと聞いてくれてるのは、いいのだけど。何を考えているのかまでは分からないから……間に立ってくれると助かるわ。勿論、貴方に手を出すような真似は……一切、させないから」
にこ……と、笑ったんだと思う。
でも怖い。内容もそうだけど、とても鋭利な刃物を首元に当てられた気分だ。思わずフリルと暴れん坊に助けを求めるが、アルカイックスマイルを向けられただけだった。それはどう捉えたらいい。諦めろという事か。
困った。今日までまともに話してこなかったし、存在隠すのに必死だったし。
「……お、王子も一緒なら……」
元婚約者も巻き込もう。俺よりは彼女を知っているだろうし、彼女も俺だけよりはいいんじゃなかろうか。ただ、あっちは王族だから都合がつくかどうかだ。
氷姫は笑みを深めた。
「…それなら、大丈夫。彼には許可を貰っているから。良かったわ、詳しい予定は彼に聞いて。それじゃあ」
「あ、はい」
許可??
首を傾げつつ、氷姫を見送る。
「これは、組まれたかな」
「だろ。多分、北からだな」
「だよねぇ。彼女の弟がどういう状況なのか、によるけど」
美形二人が訳知り顔で話しているが、とりあえず……王子に聞かなきゃなぁ。多分、寮に居る筈だ。
「悪い、予定立てるの後でいい?」
「構わないよ。片付けもあるし、とりあえず解散だね」
……という事があり、俺は王子の広い寮にお邪魔して、やけに真剣な王子に跪かれ、今に至る。
目の前には、俺の手を掴んだまま、なんでェェェ??!と叫ぶ王子が居る。
なんでと言いたいのはこっちだ。
「俺は男だぞ」
「知ってるよ!!だから何?!男だろうが女だろうが君が君なら僕は構わないよ!!同性でも結婚できるよ?!」
「知ってるよ、それは。うるさいからそんな叫ぶな。大体何で俺なんだ」
「ごめんね?!……冗談とかじゃ、ないからね。僕は、」
「それも分かってる。からかいでこんな事言う奴じゃないって。だから断っただろ」
「断られた理由は?!言っておくけど勘違いとか思い込みとか言わないでね。自分の想いが分からない程、子供じゃない」
それは真剣な顔で分かってたけどね。
王子とは普通に一緒に居ただけで、取り立てて何もしていない。俺だって友情と恋愛の区別ぐらいついている。王子には友情はあるが、他の気持ちは無い。それが答えだ。
王子の気持ちとはズレがある。だから、俺は応えられないのだ。
それを正直に告げると、王子は押し黙ってしまった。普通にしてればカッコいいんだから、俺に拘らず周りを見たらいい。素敵な人は必ず居るから。
「君はさ、努力家で優しくて、友達思いのいい奴だ。自慢の友達。……君自身を見てくれる人は、必ず居るよ。もっと相応しい人が見つかる筈だ」
「……いやだ」
鋭い金色と合った。
「絶対、いやだ。君以上の人なんて居るもんか。今も、そうじゃないか。……普通は告白されたら引くよ。僕も君以外の同性だったら引く。なのに、こうして向き合って茶化さずに聞いてくれて、僕と真剣に向き合ってくれてる。そんな人どこ探しても居ないよ!!」
………居ると思うけどなぁぁぁ…。もっと頑張れよ、決めつけは良くないよ。
てか、引くものなのか。告白自体は驚いたけど、別に嫌悪は無かったし。人の真剣な気持ちを茶化すのは、いかんでしょ。俺がそれやられたら、間違いなくソイツ嫌いになるね。
「……ん?」
茶化した方が、王子の為には良かった……のか?
「態と茶化して嫌われようとか、考えてるだろ」
俺そんな分かりやすい?
「君の答えがそれだったなら、別の方法で君を手に入れてたよ。僕の気持ちを分かってくれるまで、誰も知らない場所で、」
「怖いわ。本気で嫌いになりそうだわ」
「ごめんね?忘れて。あの場所は即行で破壊するから」
マジであるのか。
この堂々たる証拠隠滅発言……。こいつ、俺が何言っても諦めなさそうだな。ずっと手ぇ離してくれないし。
「諦めた方が楽な時もあるぞ」
「僕、諦め悪いんだ。君からいい返事聞くまで待てる」
「……気が変わらなかったら?」
「一生独り身を貫くかな」
これだよ。罪悪感で胃がやられるやつだよ。
「……。……この先どうなるかは、俺も分からない」
「うん、」
「…本当に俺がいいって言うなら、」
「君がいい。変わらない」
「時間が欲しい。考えさせて、頼むから。いつ答えられるかは、ホント分からんけど」
「いい。それでいい、今は。これからも、僕は君に好きって言い続けるから。だから忘れないで、僕が君を大事に想ってるってこと」
王子の顔は、本当に真剣で。
ずっと離されなかった手は、少し震えていた。




