メインシナリオの裏側で その14
「死刑で」
「待って?」
迫力ある笑顔でギロチンを告げる王子を、俺は止めた。
目の前には青褪めた美少女。見張っている双子の妹に、一瞬だが怯えた表情を向けた。それより鼻、どうした。痛そうなので、とりあえずハンカチを渡す。使ってないやつだよ。
「え、あ、い、いえ、」
「いいから」
何があったのか、随分大人しい。俺にすら怯えている。
「で、どういう事。何がどうしてこうなったの」
双子の兄が挙手したので、説明していただく。
「発端はあの倉庫裏手にあった、石碑です。彼女の動きが怪しかったので、妹と探ってたら……そこには魔族が封じられていました。知っての通り、俺達は光属性なので、なんとなく分かるんです。空気が重くて、禍々しい感じで。放っておいたら駄目だと感じたので、二人で浄化して、もう大丈夫なんですが」
妹さんも挙手したので、促す。
「貴方が呼び出されたのは、魔族には体が必要だったからだと思います。彼女は憑りつかせようとしてました」
「何で俺?」
「許容量じゃないかな、と。魔族に憑かれると、通常ならすぐ正気を失います。でも……」
珍しく、妹さんが言い淀んだので、大丈夫と頷く。
それでも迷いながら、妹さんは口を開いた。
「魔力量と、許容量があってないんです……」
「んん?俺の?」
「はい……。えーと、鍛錬を続けていく内に、兄も私もその、相手の魔力量とか分かるようになりまして……。普段は見ないようにしてるんですが、最初はコントロールが不充分だったといいますか」
「見る気はないけど、見える状態だったんだね?」
王子の問い掛けに、申し訳なさそうに頷く双子。
曰く、魔力量と許容量は比例している。魔法を行使するには、魔素が必要不可欠。魔力が高ければ高いほど、魔素許容量も多くなる。学園の人間、ほぼ全てがそうなのだが、ただ俺だけ違ったという。
俺の魔力量は、常人並。けれど、許容量はそれを遥かに超えているという。
「というと?」
「憑りつかれても、正気を保てる可能性があるんじゃ、ないかなーと……」
あぁ成程。双子が分かるなら、彼女も見えてるかも。
だから魔王とか言われたのかな。俺が明確な悪意を持って魔族と取引したら、周りに影響与えられるだろうし。少しずつ狂わせて、混乱させて、争いを起こす。
しないけどね、そんな事。
「……つまり弟を利用して、貴女は注目されたかったわけ?貴女も光属性だもの、浄化できるわよね」
そうか、分からない場合もあるか。自覚してなかったら、何かあってもまさか自分のせいとか思わないし。
「大勢の人が居る前で、元凶を突き止めて倒せば、君は一躍有名になれるね。今以上に」
姉と王子、怒ってるな。殺気がバシバシと……。あ、質量高いと思ってたら、俺以外みんな怒ってた。
どうしたものかな。俺自身は無事だし、未遂だし。彼女に対して怒りはないんだよな。ただ、
「なんでこんな事したのか、聞いていい?」
下を向いて、だんまりの彼女の前に座る。鼻を押さえたままだけど、結構鋭い目で睨まれた。ちょっと前の怯え、どうした。
「……私、は、愛されたいだけ、たくさんの人に、愛されて幸せになりたいだけっっ!それの何がいけないのよ!!」
双子の妹さんが動いたので、とりあえず止める。
「何で、邪魔するのよ、アンタが、アンタが居るから、アンタさえ居なきゃ、」
後ろの殺気が膨れ上がってる。振り返りたくないなぁ……。
「……頑張ったのに…、私なりに頑張ったよ!!頑張ったのに何で認めてくれないのっ?!何で馬鹿にすんの??!なんで、なんで、何で私が笑われなくちゃいけないの?!」
笑ってないね、寧ろみんな怒ってるね。
混乱してるピンク頭の彼女は、今にも泣き出しそうだが、辛うじて耐えている。感情の決壊寸前な感じだ。……多分、今までもこうして、我慢してたんだろうなぁ。泣きたくなるたびに、泣くもんかって歯を食いしばって。ちらと視線を上げれば、妹さんの複雑そうな表情。
一度思いっきり泣いたほうが、スッキリするんじゃないかな。我慢ばかりは良くないよ。
「ハンカチ持ってる?」
「どうぞ。使ってないです」
妹さんから受け取って、そのまま押し付けるように渡す。
触られるのは、嫌だろうけど。俺はピンク頭を撫でた。
「頑張ったな。その頑張りは、スゴイわ」
「何してんの?!!」
うるさいぞ王子。
「愛されたいって思うのは、誰にでもある感情だ。悪くないよ、だーれも、悪くない」
「――、」
「でも、求めすぎても疲れるだけだぞ。誰でも同じくらい、返してくれる訳無いからさ」
「……っアンタに、なにが分かるのよ……っ」
「分かるよ。今の君、昔の俺だから」
俺の場合は、親だけどね。
両親は俺に興味がなかった。それに気付くまで、色々頑張ってたけど。結局最後までほったらかしだったんだよなぁ。
「疲れて何もする気なくなって。その内、心も溶けてなくなる感じになるから、まだ気力ある時に考え直した方がいいと思う」
「考え、直せって……」
俺はどうやって持ち直したんだっけ。……あ、夢だ。もう中身は思い出せないけど、なんか色々教えてもらえた気がする。家族って、人を想うって、本当はあったかいものだって。
だから、改めて親を見て、早々に諦めたんだろうと思う。
でもこれは特例だろうなぁ。夢を見ろって言われても見れないし。
「……前から思ってたけど、君甘やかされてたのかな。その外見だから、周りがチヤホヤしてくれたんだろうけど、好かれて当然って態度に出てるよ」
「え」
「そう思ってるから、好意を返そうともしてない。欲しがるだけ欲しがって返さないって、ちょっとわがままが過ぎる」
「わ、」
「もう小さな子供じゃないし、自分で立って歩けるんだから、まずは根本的にその考え方を改めた方がいい。世間は広いし、そのやり方が通じるのは狭い範囲だ。実際、此処で通らないからそんな風に怒ってるんだろ?駄々こねてるようにしか見えない」
「……、」
「君の頑張りは評価するけど、頑張る方向間違えてる。好きだって言ってくれてる相手を見下すような態度取って、なのにまだ欲しがってるんだから、憐れだなってそりゃあ見てる人は思うよ。外見よくても性格がそれなら、幸せからは程遠くなるんじゃないかと俺は思う」
「あ、あの、もうその辺で」
双子の妹さんに止められた。
「彼女のライフはもうゼロです。何なら突き抜けてマイナスです。思うところがあるのは、よくよく分かってますが……」
見れば、ピンク頭は白くなって呆然としたまま、しとどに涙を流している。
言い過ぎたかな。でも言っておかないと彼女分かってくれなさそうだったし……。そういえば静かだなと振り向けば、全員優しい微笑みを浮かべて親指を立てていた。
でも、姉だけが難しい顔で俺を見ていた。
主人公は思った事を正直にズバッと告げる人です。
でも言わなくていいと判断した場合は、そっと飲み込んでくれる人でもあります




