メインシナリオの裏側で その13
「元に、戻る?……んな訳ねぇだろ」
目の前には、主人公らしからぬ笑みを浮かべた双子。その片割れが、私に腹パンを入れた。
いや、ちょっと待ってマジ重いんだけど深く抉ってくるんだけど??主人公補正?
……私の意識はそこで途切れた。
……とりあえず何が起こったのか整理したいと思う。
授業も終わって、のんびり帰り支度してたら知らない生徒に呼ばれたんだよ。何かと思えば、姉が大柄な男子生徒に連れて行かれるのを見たと。雰囲気が只事ではなかったから、俺に知らせようと来てくれたと。
姉なら大丈夫だろうが、心配なのは変わりない。なので案内してもらうことに。
こういう時に、伝言できる相手がいないのは何故だろうか。まぁいいかとついていったら、薄暗い裏庭。こんなとこあったんだなぁと見回していたら……案内してくれてた人が、襲い掛かってきたんだよね。よく分からないまま避けたら、いつの間にか囲まれてて。
流石に分かったよ、騙されたって。全部見覚えない顔だったし、心当たりもないし。でもやられたら姉に顔向けできないから、返り討ちにしたんだよ。
それで、一人が倉庫に逃げちゃって。だいぶ老朽化してたんだろうね、何かの弾みで崩れて。不味いと思って、逃げた奴はなんとか外に放り投げて。俺、閉じ込められて。今ここ。
「どうしたもんかなぁ……」
動けないんだよな。足挟まれてさ。下手に動いたら更に崩れて、また挟まれそうだし。
外からは何の音も無し、気配も無し。助けを呼びに行ってくれてたらいいけど、経緯が経緯なだけに逃げたかもしれないし。
「誰か通りすがってくれないかなぁ」
呼び出しの理由が嘘で、姉は無事と分かったから焦りはないけど。うん、足痛い。長時間は耐えられなさそう。
俺は小さい火球を作ると、火事にならないよう慎重に操って外へ出す。
「気付いてくれればいいけど、」
そのまま空に向かって打ち上げ、弾けさせた。放課後だし、誰も魔法使ってなければ、多分。
でも此処に来るまで人に会わなかったから、普段から出入りが少ない所なんだろう。最悪明日まで放置かもしれない。今日に限って、誰とも会う約束してないんだよなぁ……。
「……」
大人しくしていると、不意に音がした。
てちてち、てちてち。と、なんかかわいい音。
てちてち、てちてちてち。てち、…………。
てちてちてちてちてちてちてちてちてちてち、てちてちて、
「いや、こわいこわい何?!」
様子で中に入ってきたと分かったが、視界が阻まれている俺にとっては恐怖である。思わず声を出してしまったが、居場所を教えたなこれ。正体不明のてちてちが近付いてきてるんだもの。
「……おっ?」
頬を軽く叩かれ、目を向けると……ゴーレム。小さな体を精一杯使って、よじ登ってきたらしい。もしかしなくても、フリルのゴーレムだね。探してくれてるのかな?
助けに来てくれたのかぁ、と取り合えず動かせる右手で撫でる。でもこの大きさじゃ無理だろう。
「ありがとな、誰か呼んできてくれると……」
外が騒がしい。ゴーレムがふんすっと胸を張っている。もう呼んでくれたようだ。なんて頼れるコだろう。
『――見つけたっ!』
『そのままあいつを守らせろ!!一気に吹き飛ばす!』
「え、二人共居んの?えぇ??!」
ゴーレムが光ったと思ったら、大きくなって覆いかぶさってくる。同時に物凄い風の音。思わず目を瞑ると、浮遊感。ゴーレムが俺を抱えたまま浮いていた。元倉庫の残骸とかも飛んでいるが、それらから俺を守ってくれている。なんてイイコだ。俺は思わずしがみつく。
結構な高さまで吹き飛ばされていたが、男前ゴーレム、難無く着地。無事生還した。
「大丈夫?!あぁ、血が出てる!怪我だらけじゃないか!!」
ゴーレムが屈むと、必死の形相のフリルが見えた。いつも穏やかな姿だからか、新鮮に映る。それより、そんな酷い?足ぐらいだと思ってたけど。青褪めたフリルを見る限り、俺は軽く見積もり過ぎたかもしれない。
「おいっ!治癒師は居ねぇのか!!?」
後から来た暴れん坊も、氷姫も必死だ。なんか申し訳ない。
失礼しますと傍らに立ち治癒をしてくれるは、前にもお世話になった氷姫の従者。
「……打撲や深く切った個所もありますが、内臓損傷は見られません。恐らく身体強化で守ったのでしょう、流石です。これならすぐに動けるようになりますよ。ただ、足の方は少し時間が掛かります」
「……元に、戻るのよねっ……?!」
「ええ、お任せください」
物凄く、心配掛けてしまっている……。俺は小さくなって静かに治療を受ける。これは姉にも怒られるやつだ。でも、早めに見付けてくれて感謝しかない。長期戦覚悟してたし。
「よく……場所が分かったな…」
思いの外、声が出ない。全員が痛ましそうな顔になる。ただかすれただけだよ。
「君にいつもつけてた、ちびゴーレムの反応が突然消えたから驚いて……。すぐ学園中を探させて、」
初耳ですが。
「お前の魔力を常に感知するようにしてたからな。妙な場所に反応があったから、こいつと合流して、」
それも初耳ですが。
「……あなたに付けていた陰から知らせを受けて…、」
意外な初耳ですが。
「……、……ね、姉さんは?」
俺の問い掛けに、三人は悩む素振りを見せたものの、そっと奥を指した。
男前ゴーレムが優しく起こしてくれる。なんか今、信頼できるのこのコだけだわ。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ」
「謝って済むと思ってるの私の弟をあんな目に遭わせてあまつさえ助けられておいて逃げ出すなんて同じ人間なのかしら人間の皮を被った魔物じゃないかしら何寝ているの弟に助けられた命を無駄にするんじゃないわよ這い蹲っても生き返れ卑怯者が」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいご」
「聞こえないよはっきり言いなよ口の中でもぞもぞとそれで本気で謝ってると思うのかい小物が小物の分際でよくも手を出してくれたよね甘く見てたよ中途半端な力でふんぞり返ってるのが一番質が悪い後悔するなら最初からするなよ考えが甘いんだよ」
「二人共息継ぎしなよー?」
……姉と第三王子がタッグを組んだ。責め抜かれてる見覚えある生徒はもう魂抜けて、壊れた人形みたいになっている。それを平然と見てるワイルドお姉さんの精神力、鋼だ。
とりあえず、あれ以上はトラウマになってしまう。もうなってるかもしれんが、止めなくては。
幸いにも、姉と王子はすぐに来てくれた。そこへ光の双子の片割れも。
双子は双子で動いており、首謀者とその仲間達を確保したとか。それを聞いた姉と王子が、凄味ある笑顔で行ってしまったので、俺は追い掛ける羽目になった。
放っておいたら、壊れた人形を増産してしまいそうだし、なんで俺が狙われたのかも知りたいし。
……ちびゴーレムとか魔力感知とか陰とかは、後でゆっくり聞こうと思う。




