メインシナリオの裏側の、裏側8
全然うまくいかない。どうなってんのよ。あぁもう、イライラする。
私はゲームとは全く違う、攻略対象者達を眺めた。
ナルシスト気味な第二王子殿下。
西のヤンデレ跡継ぎ。
南の俺様暴君。
北の傲慢不遜な貴公子。
どれもクセのある攻略対象者で、落とすのが大変だったわ。王子は結構簡単ではあったけど。
でも、全てコンプリートした私なら、余裕!!
身分は男爵家だけど、貴族には変わりない。それに念入りに手入れしているサラサラのピンクブロンド、アップにも耐えられる白いきめ細やかなもちもち肌、ぱっちり二重の空色の瞳!スラリとした手足に程良い大きさの胸!どうあがいても美少女!!天地がひっくり返ろうとも美少女!!
それが今世の、私の姿!……でも主人公ではないのよね。こんな美少女、ライバルキャラでも居なかった。という事は、モブ?いや、こんな目立つモブは居ないわ。それに光魔法、使えるし。
主人公じゃないけど、もしよ?もし、転生者で記憶バッチリな私が無双したら主人公できるんじゃない?性格に難ありだけど、全員美形で好みだし、何より貴女以外愛さないって主人公に一途な所がいいのよね。浮気はダメよ。お前なんか遊びに決まってんだろ、なんて笑いながら女を足蹴にするクズ男共なんて全員地獄に堕ちればいい。
いやいや、もう前世なんてどうでもいいのよ。この見た目と記憶で、私が主人公になってやるわ。そして美形に囲まれて愛されて幸せになるのよ!!
何で違うの。
王子はやたらビクビクしてて、常に護衛に囲まれてるし。
西の跡継ぎは暗い影も無くて、頭からつま先まで隙の無いおしゃれ男子だし。
南は俺様部分はあるけど、周りを気に掛けてて全然暴君じゃないし。
北は存在すら無いし。代わりの妹だし。
何なの。
それに、東の魔王が居る。魔王になる前の姿は、回想シーンでちらりとあったからすぐ分かった。でも分からない。何で居るの。何でメインと仲良いのよ。
魔王は全部コンプリートしても、救済イベントとかなかった筈よね。第三王子まで居るじゃない、しかも美形!……睨まれたけど。
ここに来て、私はゲームと違うと気付いた。主人公と一緒に入学しても目立たないから、編入という手を使ったのに。これが仇となるなんて。
でもこのパターン、私は知ってるわ。他の転生者よ。自分に降り掛かる災難を未然に防ぐ為に、改変しまくったに違いないわ。怪しいのは、主人公よね?でもあの双子、魔法と自己鍛錬に夢中で、特に絡んでないのよね。一応確認したけど、何言ってんのか分かんないの一点張りだったし……。だとすると、大幅に変わってる東領。言うなれば、
『転生したけど魔王になりたくないので滅びのフラグを全部へし折ります!』
『魔王の姉に転生したけど弟が可愛いので絶対に阻止します!』
の、どっちかよ!或いは両方とも考えられるわね、
『序盤に滅びが確定している貴族に転生したけど姉弟で生き残ってやります!』
かもしれない!!
いや、絶対にそう!だって生きて学園に通ってる自体がおかしいもの!
……違ったわ。
魔王には優しさを湛えた笑顔を向けられたし、姉の方には不審物を見るような目を向けられたし、南の迫力美女にはメンチ切られたし。散々よ。ちょっと恥ずかしいわ。
でも、だとしたら誰よ。誰が何処で動いてるの?私の邪魔をしてるのは誰?どうして私の幸せを邪魔するのよ。
それから私は、転生者探しをしながら、好感度上げを頑張った。でも手応えあったの、第二王子だけ。
他の三人は、見向きもしない。北は、しょうがないから妹に話を訊いたんだけど……、
「……何も知らないのね。新聞くらい、目を通したらどうかしら」
って、素っ気ないったら。それに、
「どこで、妹の事聞いたのか知らないけど……やめてくれないか?他人に気安く喋られたくないんだよ。あと、あの子には近付かないでね。二度と」
「……勝手に人の家族消しといて、よく悪びれもせず来れるよな。その上あいつまでけなしやがって。不愉快なんだよ、近付くな」
素っ気ないどころか、敵対心持たれてるじゃない。好感度上がるどころか、爆下げよ。
……何なの。ゲーム通りにしてるのに、何でうまくいかないの。私は幸せになりたい。たくさん愛されて、幸せになりたいだけなのに……。
「……随分、必死だね。異性にばかり声掛けて。婚約者が居ても、君には目に入らないのかな?」
……第三王子も、違った。
メインじゃないくせに、弱い道化のくせに、
「君が何者か、なんてのはどうでもいいよ。でもあの子に絡むのはやめてくれる?あの子は僕のなんだ。僕が許した人間以外、近付いて欲しくないんだよね。君さ、誰でも自分のモノにできるって思い込んでるみたいだけど……滑稽だよ」
お前が言うな。
お前が何もしなかったから、大事なお友達が魔王に堕ちたんだぞ。
一人で被害者ぶって立場も何もかも放棄して、自分だけを守った卑怯者のくせに、
「僕は君の思い通りにはならない。忠告はしたよ?……あの子を侮辱した事は許さない。次は、ないからね」
……同じ男に対して自分のモンって言う?馬鹿じゃないの、胸糞悪い。
此処は私の世界よ。主人公の私に説教垂れてんじゃないわよ、モブのくせに。
もうこの際、転生者はいいわ。ともかく、流れを元に戻さないと。
モブの男共に囲まれても、意味が無い。メインに愛されてこその主人公だもの。隙無くやり込んだ私を見くびらないでよね。この学園にもいるのよ、魔族が。
主人公完全覚醒イベントは起こってないから、まだあそこにある筈……。
私は裏庭を目指す。使われていない古い倉庫、その裏手に小さな石碑。やっぱりね、封じられた魔族が眠ってる。体は無いけど、思念?魂?だっけ、それがあるって話。石碑を壊した人間に憑りついて、騒ぎになるんだけど……。
やっぱり、最適な人間は彼。彼には魔王になってもらわなきゃ。そうよ、なってないからおかしいのよ。
今から東領を壊滅なんて時間が掛かるし、手っ取り早く魔族を憑りつかせて、魔王にしちゃえばいい。そしたらあの道化も大人しくなるだろうし、メイン達も私に頼らざるを得ない。
いいじゃない。やっぱり此処は、私の世界なんだわ。だってちゃんと修正できるよう、選択が残ってるんだから。あとはどう呼び出すか、だけど……。私に惚れてるモブがあんなに居るんだもの、使わなきゃいつ使うのって話よね。
あぁ、楽しみ。もうすぐ元に戻るわ。
「……もうどうでもいいからさ、戻ろうよ」
「待って、ちょっと待って。今記憶を絞り出してるから。きっと何かある、いや絶対何かある!頑張れ私!もうちょっとで出てくるぞ私!うなれ私の脳細胞!!」
「あれ、何だろうこれ。石碑?だいぶ古くて読めないや。それに何か禍々しくない?」
「ホントだ禍々しー……あ、そうそうコレー。確か魔族が封じられてるんだっけー」
「え?」
「え?」




