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メインシナリオの裏側で  ー乙女ゲームの世界に転生したとは知らずに普通に人生を頑張る話ー  作者: 原田 和


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20/29

メインシナリオの裏側で その12

 




 「ねぇ、アナタもしかしなくても転生者でしょ」


目の前にはピンク色の美少女。食堂へ移動中に、捕まりました。


 「今のとこアナタだけなのよ。ゲームと大幅に変わってるのは。あれでしょ?『転生したけど魔王になんかなりたくないので徹底的にフラグへし折ります』って感じでしょ?」


なんて?

いや本当に何言ってんのかわかんない。

凄いどや顔してるけど、俺にはサッパリだよ。テンセイシャとフラグは分からんが、魔王?彼女の中では、俺魔王になるの??


 「あのね、ワカリマセンって顔しても無駄。東領が滅びてないのが証拠。あと、アナタのお姉さん?随分アナタを大事にしてるみたいじゃない。ゲームじゃ軽く解説されるだけのモブですらなかったのに、あんな美人なんて腹立つ。もしかしてああいうのが好み?だからシナリオ捻じ曲げたワケ?」


姉は確かに美人だけども。もう正直そこしか分からんよ。シナリオって何。

ん?姉に会ったって事は、今の訳分からん話を同じようにしたって事?

困惑しただろうなぁ……、後で訊いてみよう。


 「アナタが余計な事してくれたから、一気に狂ったじゃない。どうしてくれんの?攻略者達もアナタでしょ?!言っとくけど此処は乙女ゲームの世界なの!BLなんてお呼びじゃないのよ!!なのに運営が悪ふざけで妙な設定入れるからこんな事に…!大体、」


……なんか言ってるけど、この子多分……明確な自分の世界を持っている子なんだと思う。

考えるのが好きで、夢のように色々妄想して……。物語書ける子だ、きっと。

でも偶に、考え過ぎて夢想状態から出られなくなる子も居るって聞いたことがある。夢と現実が曖昧になって、言動も変わるとか…。

だとすると凄い想像力だ。いやでも、それだけで色々言い当てられるかな?…無理だな、その人が背負ってるモノなんて会って話しても分からんし。

とりあえず、想像力逞しい子だというのは、分かった。


 「――んだから!分かった?!聞いてんの?!」


会話のキャッチボールしたい。ずっと喋ってて何も言わせてくれないんだもの。

こっちは考えて咀嚼して理解するのに必死だよ。でも途切れた今がチャンス。


 「あのさ、テンセイシャって何?」


 「…まだとぼけるのっ、」


 「あとフラグだっけ。ゲーム…おとめげーむに、びーえる、こうりゃくしゃ、えーと……うんえいにしなりお。分からない単語がいくつかあって、悪いけど全然理解できてないんだ」


 「……え?」


 「できれば、今言った単語の意味教えてくれると助かる。君が言った中で分かったのは、魔王くらいかな。調べたとか?資料が少なくて大変だったでしょ。詳しく知ってるならそれも教えて欲しい。色々対策立てられるかもしれないし」


 「…え、え?」


 「あと、姉さんの事褒めてくれてありがとう。自慢の姉さんなんだ」


 「え――………?」


あんなに喋ってくれたのに分かってなくてごめんね、でも君は悪くないよ。という意味も込めて、とりあえず笑顔。ピンクの美少女は一瞬ぽかん。みるみる青くなったり赤くなったりと忙しなく顔色を変えて、全力疾走で去っていった。

……何だったんだ。結局教えてくれなかったなぁ。

さて、お昼に行くかと足を動かす……前に腕を掴まれ反転、抱き着かれた。これはもう知ってる、こんな事するのは王子しか居ない。


 「……きみっ…、さいっこう……っっ……」


 「何がだよ。てか、いつもいつも抱き着いてくんな」


笑ってやがる、この王子。

ぐいぐい引き離すと、やっぱりだ。何が愉快なのか、まだ震えてる。


 「…っ、実は絡まれてるのに気付いて、助けようとしてたんだよね、」


確かに困ってましたよ。


 「でも、君の反応が面白可愛くて、つい」


ついって何。助けろよ。


 「僕も話の半分以上も分からなかったから、安心してよ」


 「そうなのか?調べようかと思ってたけど」


 「どんな本にも載ってないだろうね。ま、これで彼女は君に絡まないよ。君の反応は、期待したものじゃなかったみたいだし」


どんな反応を期待されていたのだろう。

王子曰く、彼女は光の双子にも俺と同じ質問をしていたらしい。でも、ここまで食い下がる事はなかったそうだ。王子の情報網は侮れない。知らないうちに色々把握されてるって、怖いな。


 「でも、要注意人物ではあるね」


王子の笑顔が別物になる。なんか企んでそうなやつ。


 「君が魔王になるって、言ってるようなものだったでしょ。許せないよそれだけは」


 「俺は気にしてないぞ」


 「僕が気になるんだよ。君は僕の大事な人なんだから」


 「友達想いでいい奴な。王族なのに」


 「前から思ってたけど、王族に偏見あるよね?どう思ってるの?僕は違うよ?!君の為なら継承権も捨てられるから!!」


 「まぁ気にせずに。ごはん行こう」


 「あれ?!僕の決意はスルーなの??!」


姉から第二王子の件、聞いたんだよな……。目の前の金色王子は違うってのは、分かってるけどね。







 「確か……『マオウノアネニテンセイシタケドゼッタイニソシシマス』ってやつでしょ、ってどや顔で言ってたけどサッパリだったわ。あの子、よく学園に入れたわね」


 「よく覚えてたね」


 「得体のしれない子だもの、警戒はするわ。噂は聞いていたけど、まさかあんなに礼儀知らずとは思わなかった。弟には近付くなと警告したのに、聞かなかったのね」


 「俺も似たようなモンだし、特に何も無かったし気にしてないよ」


優雅に紅茶を飲んでいる姉だが、静かにお怒りになっている。俺に絡んだあの感じで姉に行ったなら、間違いなく評価は底辺だ。姉も、南のお姉さんも、礼節はしっかりしてるから。最後は、不愉快を顔に張り付けた南のお姉さんが追い払ったそうだ。


 「また魔王か…。なんで俺なんだろう」


 「君が魔王からほど遠い存在だっていうのが、分からないんだよ」


 「姉弟水入らずの場に、どうして第三王子殿下がいらっしゃるのかしら」


 「親友が傷付けられて、放っておくなんてできませんよ。お義姉さん」


 「あら、そんなに親しく呼べと言った覚えはないのだけど」


ふふふふと笑い合う姉と王子。妙な迫力がある。

二人が会うと、よくこうなるんだよな。互いに絶対に譲れない戦い、のような空気が醸し出される。何故かは二人とも教えてくれないので、俺はいつも、終わるまでぼんやり眺めている。

そういえば……第二王子が婚約者ほったらかして、ピンクの美少女に夢中だとか、そんな噂も聞いたな。フリルや暴れん坊にも負けじと声掛け続けてるし、氷姫にもお兄さんの事聞き続けてるし…。

三人とも、そのせいでストレス溜めてるみたいで、愚痴が増えてるんだよな…。

双子は大丈夫だろうか。様子見に行った方がいいかも。俺は次の行動を決めて、紅茶を飲んだ。姉のおススメは、やっぱりおいしい。




…後日。クラスメイトに、お前あの空気の中でよく平然とできんな……と、感心したように言われた。

一体何の事だ。




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