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メインシナリオの裏側で その2




シュッ、と風を切る音がする。

早朝の空気は澄んでいて、気持ちがいい。まだ人が動き出すには早い時間なので、静かなものだ。

俺はそんな中、一人、日課の素振りを続ける。

ひたすら基礎を積み、体力向上の為、屋敷周りをランニング。朝は鍛錬の時間と決めていた。

俺は不器用なので、人より努力しないと追いつけない。目標は、姉だ。

姉はすごい。剣を持たせれば右に出る者はいないし、体術も、自分より大柄な男を、軽々と投げ飛ばしてしまうのだ。それに勉強だって、毎日努力を惜しまない。姉はちゃんと休めているのかと、心配になる程だ。

そんな姿を目の当たりにし続けたら、憧れるのも当然だろう。

俺は、気持ちはちゃんと伝えると決めている。万が一があった時、後悔したくないからだ。

なので姉への憧れを、惜しみなく、包み隠さず、真っ直ぐに、本人に伝えていたら、めちゃくちゃ怒られた。

姉曰く、俺は気遣いが足りないらしい。出し過ぎるのも良くない、と。反省はしたが、意味はよく分かっていない。一体何がダメだったのか。


 「おはよう、相変わらず早いわね」


 「おはよう姉さん」


 「…アンタ、ちゃんと休んでるんでしょうね?自己管理が出来なきゃ、一人前とは言えないのよ?」


姉が心配してくれている。自分にも他人にも厳しい人だが、本来は優しいのだ。


 「大丈夫!最高のお手本が目の前にいるんだよ、姉さんにはまだまだ劣るけど、俺なりに考えて日課を作ってるから!あ、そうだ姉さん、昨日の模擬戦すごかったねカッコよかった!!他の人の剣技も勉強になったけど、やっぱり姉さんが一番キレイで無駄がなくて太刀筋すらも輝いて見えたよ!」


 「……」


 「それに、体術も、しなやかで……、」


俺は気付いた。姉が赤い顔で震えている……、これは、怒り出す前兆……!


 「と、とにかく姉さんが誰よりキレイでカッコよかったよ!ランニング行ってきます!」


思ったままを言ってるのに、姉は怒るのだ。女の人って、難しい。

ランニングを終える頃には、姉の機嫌も直っていると信じて、俺はひたすら足を動かした。






今でこそ、姉と普通に話しているが、引き取られた当初は、ギスギスだった。

無理もない。突然母と共に現れて、あなたの弟よ、なんて言われても俄かに信じられないだろう。

姉とは異父姉弟なのだ。因みに母は俺を置いて、さっさと出て行った。

我が家は、一言で言えば厳格。祖父母が特に厳しくて、俺も礼儀作法がなってないと、未だ怒られている。その厳格さが嫌になり、婿養子を迎え、跡取りを産んだ後、母は自由を求め家を出た。縛り付けられるのが、我慢ならなかったのだろう。

跡取りが増えて嬉しいでしょ、と祖父母に言い放った母の顔は、歪んでいたと記憶している。親が決めた相手ではなく、何処とも知れぬ者の血を引いている異物…つまり俺、を家に放り込む事が、祖父母に対する復讐だったのでは。誰にも言わないが、俺はそう考えている。

これで、俺が家の中引っ搔き回せば、母的にはもっと良かったんだろう。

そうならなかったのは、俺の中に諦念があったからだ。自分が生まれる前からこうなってるモンは仕方ない、と。母は母。俺は俺。そう割り切っている。

ただでさえ、俺が転がり込む前から冷えに冷えていた家族間。これ以上の問題を起こしても、疲弊するだけだ。お互いに。

こういう所が、冷めた子だと周りから言われる原因なのだろうが、そう思えてしまうのだからしょうがない。

俺はそうやって割り切っていたが、姉は違った。

今まで跡取りだからと頑張ってきたのに、ぽっと出の弟が継ぐ可能性が出てきたからだ。その懸念が真実味を帯びてきたのは、魔法属性を調べた時。俺は、『火』。知らなかったのだが、母の家系は、代々火属性の人間が継いでいたらしい。姉は、補助属性の『結界』。

その結果のせいで、姉とのギスギス間はマッハで跳ね上がり、当時の姉の目には、俺に対する殺意しかなかった。怖かった。

継ぐ気なんてないのだ。姉が誰よりも努力しているのは、こっそり見ていたので知っていたのだから。

その気持ちを何とか知ってもらおうと、頑張った。とにかく仲良くなろうと、声を掛けまくり、鍛錬や勉強の教えを請うたりと、姉弟としての交流を頑張った。

最初の方はそれこそガン無視で、視界にも入れてくれなくて、部屋の隅でちょっと泣いたが、次第にゆっくりと、相手をしてもらえるようになった。完全に馴染んだのは、ある事件が切っ掛けだ。






此処では年に一度、武術の腕を競い合う、武道会なるものがある。

それは身分を問わず、腕に覚えがある者ならば誰でも参加可能。優勝者は賞金と、出世が約束されるので、毎年盛況らしい。姉は適正年齢になってから、それに毎年参加しているのだ。勿論、子供と大人は分けられている。

同年代の中で、姉の腕はずば抜けていたのだが、その年は振るわず、準決勝で負けてしまった。家族は誰も見に行かないというので、俺はこっそり見に行っていた。その時に見た姉はカッコよかった。憧れの原点だ。けれど、姉がやけに暗い目をしていたのが気になった。負けであっても、そこまで落ち込む成績ではないと、俺は思っていたのだが。

我が家が厳格だったのを、忘れていた。

報告を聞いた祖父、そして義父は激怒した。優勝以外意味が無いと責め、なんと……、姉が吹き飛ぶ程の力で、殴りつけたのだ。今日一日、ずっと必死に戦い、疲れている姉を気遣う素振りもない。ただ怒鳴り、姉が悪いと責める。

何だ、こいつら。

普段の姉を見もせずに。

姉は、誰も来ないと分かってても、今年はもしかしたらと、そう願って、想って。毎回客席に目を向けて、探していたのに。

姉の努力を、結果だけで判断するな。

……怒りで我を忘れるというのは、本当にあるんだなと、後になって思った。

俺は気付いた時には、義父に跳び蹴りを喰らわせていた。続けて祖父を巻き込んでの回し蹴り。こいつらは生かしてはおかん、親ではない敵だ!!

子供の力なんて、たかが知れていただろう。でも俺が大暴れできたのは、止める者が居なかったからだ。普段は口答えしない、大人しい子供が、今までに無い程の激怒。全員が呆気に取られていたらしい。結局、騒ぎを聞きつけた祖母が止めるまで、誰も動かなかったのだ。

義父も祖父もボロボロになっていたが、俺は後悔してないし、絶対に謝りはしない。寧ろ向こうが、姉にした仕打ちを謝るべきだ。

祖母は厳しいながらも、姉に対する愛情はある人だったので、祖父達の所業を代わって謝ってくれた。俺は暴れ過ぎ、と怒られたが。




……そんな事があった、次の日。姉が初めて、笑顔を見せてくれたので、俺も嬉しくなって、一緒に笑った。

忘れられない思い出の一つだ。




若干、シスコン気味です

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