メインシナリオの裏側で その11
「はぁ……」
「溜息なんて吐いて、どうしたんだい?」
紳士なフリルはすぐ気付く。まぁ、俺の髪をいじってるから、聞こえるよね。教室の女子達は羨ましそうに視線を寄越してくるが、流石に可愛いもの好きでも、不用意に女性の髪に触れたりはしないだろう。
俺は寝ぐせがついていたらしく、直されているだけだ。それだけでも、こうして注目されるのだから美形というのは大変だ。
「…そんなに酷い?」
「君の愛嬌が増す程度だけどね、俺が気になるんだ。リボンつける?おそろいで」
「え、そんな愉快な寝ぐせだった?あとリボンはいい」
「残念、似合うと思うけどなぁ。…それで、何考えてたの」
「ん-、あの子だよ。編入生の……いだだだだだ引っ張ってるハゲる」
「また何か言われたの?君には近付かないよう忠告したんだけど」
何とか髪を守り振り向くと、フリルから負のオーラが出ていた。やだこわい。
俺もあの子は苦手だが、フリルも暴れん坊も、そういえば王子も…いい感情は持っていないようだ。話題に出るのも嫌らしい。ていうか、忠告なんてしてたのか。大袈裟な。
「当然でしょ。あんな暴言、許せるわけない」
あー、うん。俺見た途端、何で居るの?だしねぇ…。あの時が初めましての筈なんだけど、彼女の中では俺は居ない人、居ちゃいけない人みたいだったんだよな。過去の魔物異常発生事件も知ってたし、もしかして湾曲して伝わってたのかなと。その時に俺死んだ事になってたのかなと。魔力枯渇で倒れたのは確かだから、勘違いされたのかなと。俺はそう結論付けたんだけど。
「派手な髪色同様、頭の中はお花畑なんだから近付いちゃいけないよ」
…怒ると辛辣なんだよなー。基本、女性には優しいのに。
ピンク頭の編入生。双子と同じ光属性で美少女、とあって噂に上らない日は無い。一部の人間達が彼女の人柄に惹かれ、親衛隊のようなものができているとかいないとか。でも、俺が気になっているのはそこではなく。
「彼女、東出身じゃないのに何で知ってたんだろと思ってさ。中央には報告したけど、伏せられてた筈なのにな」
「……さぁ。調べたけど、彼女の家は至って普通の男爵家。裏で暗躍してるとかは無いね」
「調べたの?早いな??」
「彼女も光属性だから。一応知っておいた方がいいと思ってさ」
終わったよと肩を叩かれ、礼を言う。確か彼女、フリルだけでなく暴れん坊も知ってたし、第三王子も。それに第二王子がーとかも言ってた気がする。あと、北の元領主がどうのとか。
「妹の事、言われてね。噂で耳にしただけかもしれないけど、それにしては細かい事情も把握していたから」
それ、暴れん坊も言ってたな。ただ全く的外れで、姉上は生きとるわ!…って怒ってたっけ。とにかく行く先々で遭遇するらしく、二人とも少しお疲れ気味だ。俺と王子はそこまで会わないけど、偶に見られてる時がある。その時の彼女の目は、やはり不可思議なものを見る感じで。
俺はそんなに存在しちゃいけないのか、彼女の中では。どうしようもできないんで、これからも生きますけども。
「…平気か?」
「大丈夫、もう気持ちの整理はついてるからね。君が話を聞いてくれたから」
笑ってるけど、妹さんの事は余程親しい間柄じゃないと話さない。ほぼ初対面の、知らない相手に踏み込まれて…いい気分ではないだろう。例え整理がついていてもだ。色々突き回って、何がしたいんだろうあの子は。
「……少し、いいかしら」
サラサラ銀髪を靡かせた美人が来た。氷姫だ。
俺はフリルの背に隠れた。気配が無いから気付かなかった。今できる配慮はこれが限界だ。
「どうしたの?君から話しかけるなんて珍しい」
「……。…編入生について訊きたいの。あの子は………、………何なの?」
めっちゃ言葉探してた。
「ただの脳内お花畑の男爵令嬢だよ。それ以上それ以下でもない」
いい笑顔でめっちゃ辛辣だ。
「…兄の事を訊かれたの。何処にも居ないから探していたとか……何で居るのって、私を見て驚いていたわ。私、会った事あるのかしら…」
「え、君も言われたの?」
「……、」
いかん、つい口を出してしまった。青い目が俺に向いている。……無表情だ。
「いや、俺も初めましての時に言われたからグウゼンダナァ……」
そっとフリルの背の戻る。挟まれた形のフリルは、微笑むだけだ。申し訳ないとは思ってる。
「探しても無駄なのにね。もしかして知らないのかな、反乱の件。あれだけ号外も出てたのに」
「……彼女は、何を言ったのかしら?」
「反応する所そこなんだね。何でいるのから始まってあの子の中ではあの事件の折に東は滅んだ事になっていてこの子は行方不明扱いにされてたね」
早口。他の耳がある教室内で話す内容では、確かにないけどさ。でも氷姫は頷いてるから、聞き取れたんだ。
「…つまり要注意人物なのね。警戒しておくわ」
鋭い青い目が、俺を見てくる。何でこんなに嫌われてるのか…。
第三王子の元婚約者だと知り、両者納得の円満白紙だというので、為人を知る王子に相談したのだが、やんわり微笑んで気にするなと言われただけだった。いや気になるわ。
「…あなた、器用なのね。いいと思うわ」
「いつから見てたの?」
「…そうね、溜息なんて吐いてどうしたの、辺りかしら」
「割と最初から居たんだね。気配消すのうまいなぁ」
知らず知らずにやらかしてるなら、改めなきゃならないし。いい加減自覚しないと、他の誰かに怒られるかもしれないし。いや…いっそ怒られた方がいい……?!
反省も込めて、ここ一週間の己を振り返ってみたが、やはり分からない。悶々と考えていた俺は、氷姫が去った事にも気付かず。せめて挨拶はするべきだったと猛省した。
「……お節介かもしれないけど、彼と仲良くなりたいなら、少し接する態度を変えた方がいいよ」
「………推しを前にして緊張しない人間なんて居るかしら。いや、居ない…!」
「…………君に嫌われてると勘違いしてるよ、彼」
「???!…なん、だと………??」
「いつも隠れてるでしょ。君の視界に入らないように努力してたよ」
「……後光が差しているとばかり………!」
「見えにくいとは思ってたんだ……」




