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メインシナリオの裏側で  ー乙女ゲームの世界に転生したとは知らずに普通に人生を頑張る話ー  作者: 原田 和


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17/29

メインシナリオの裏側の、裏側6




 「田舎からどんな猿が来るのかと思っていたが、まぁマシだな」


開口一番、コレである。

王族への感情が底辺になったとしても、私は悪くないだろう。




私の目の前には、ふんぞり返った第二王子が居る。

隣には、南の姉の方。顔は見えないが、ピリとした空気から察するに、王子を敵認定したのだろう。私達は入学早々、呼びつけられたのだ。


 「ふぅん…?」


第二王子は不躾な視線を寄越し、笑う。


 「見た目は合格だ。俺の伴侶になるんだから、まずは外見が良くなくてはな。地味で不細工は論外だ」


ぶん殴ってやろうか。何様だこのクソ王子。

いえ、ダメね。一応王族だし、面倒臭い性格っぽいから、なにを言っても不敬とか言いそう。こういう時は受け流すのが一番。いちいち受け止めていたら、第二王子が何度命を落とすか…。

だから貴女も我慢するのよ、といった意味も込めて、南の姉に視線を送る。気付いてくれたか、拳をしまってくれた。殺気を微かに感じると思っていたら、やはり殴ろうとしていたようだ。繰り返すけど、相手は王族。一応。


 「でも、俺は俺自身で、将来の伴侶を決めたい。君達は俺の愛を自分にだけ、注いで欲しいだろうが察してくれ。君達は良くて側妃だ」


何を察しろと?……分かったわ。この男、王子という肩書がついたただの馬鹿なのね。

私がそう納得している間も、隣の殺気が強くなる。


 「そうだろう?日々魔物を追い回し切り刻み…まるで野蛮人だ。淑女とは程遠い君達では、王妃は務まらない、いや…!俺が蛮行を許し、迎え入れたとしても民衆が許さないだろう…!!」


何言ってんだコイツ。

……って、弟が居たら言っちゃうんでしょうね。私も同じ気持ちよ。そしてコイツには王位を継いで欲しくないわ。継いだら最後、守護を放棄してしまいそうよ。

隣の殺気が落ち着いた。凪、と言えばいいのか。静かになったわ。


 「それに、君の家には問題があるようだし」


 「……」


あの女の事か。

何処で何をしていたのか、今は中央に居るらしい。男と男の間を飛び交う蝶、と囁かれているとか。親のやる事は子供にもついて回る。逆もあるんでしょうけど…本当に、好き勝手に生きているようだ。

でもやるなら、私と弟に被害が及ばない範囲でやって欲しいわね。弟が入学する迄に、あの噂は消しておかないと。あの子は気にしないかもしれないけれど、憂いは無い方がいい。

私は第二王子を見た。隠すつもりもないのか、歪んだ笑みが丸見えだ。

昔のままの私なら、嘲笑されても婚約に躍起になっていたかもしれない。父が、家族が喜んでくれると、褒めてくれると信じて。

でももう、私は変わった。何を言われても動じない自信がある。私には、全力素直な弟が居るのだから。

私は祖母に厳しく教えられた、淑女の礼をする。


 「……このお話、謹んで、」


 「あぁ」


 「お断りいたします」










……南の姉の方は、今も苛立ちを隠そうともせず、紅茶を一気飲みしている。もう少し味わいなさいな。


 「さいっっあく………」


 「そうね」


 「全然無いわ。仮にもよ?婚約者候補に言う言葉?あんなのが一生のパートナーなんて人生お先真っ暗過ぎるわ」


 「そうね。未来が見えなさ過ぎて闇討ちすらできそうよ」


 「あの場で大暴れしてやりたかったのに」


スッキリはするだろうが、皺寄せは南の領主へ行く。それを分かっているから、彼女も殺気を出すだけで何もしなかった。殺気も駄目なんだろうけど。王族は面倒だわ。


 「断ったんだから、もういいじゃない」


 「そーだけどー」


私達は、婚約を断った。向こうは唖然としていたが、どうしてあの態度で断られないと自信があったのか。王族に入れるんだぞ喜ぶ所だろうおかしいんじゃないか云々。随分わめいていたが、まるっと無視させていただいた。


 「あれで大人しくなると思うー?」


 「どうかしら。断られた腹いせに何か仕掛けてきそうね」


 「……器が小さい事、」


ふん、と鼻を鳴らし、また一気飲み。あれじゃあ落ち着く暇もないだろう。

彼女とは長い付き合いになる。まさか、友人になるとは。気楽に話せる相手が居るというのは、存外いいものだった。弟とはまた違う、気楽さだ。


 「そうだわ、それより大事な事があるのよ。噂って、消えるものかしら」


 「えー?…無理じゃない?消えたーって思っても、また何処からか出てくるものでしょ。どうしたのよ急に」


 「…あの子、母にそっくりなのよ。どう渡り歩いてるか知らないし、知りたくもないけれど……見る人が見たらすぐ分かると思う」


 「そうなの?丸っこい目がかわいいなと思ってたけど、そうだったの?」


 「貴女そんな事考えてたの?」


 「弟も言ってたわよ。大丈夫、何か言ってきたらウチの弟が黙ってないわ!お気に入りみたいだし」


 「四六時中側に居るわけじゃないでしょ。私は、噂自体を耳に入れさせたくないのよ」


そっかー、と考える彼女に、似ている少年を思い浮かべる。

そういえば、手合わせだなんだと、やたら弟に懐いていたわね。私は同時に来る姉の方の対処で忙しかったけど…。あの子、また無自覚に褒め倒して、相手の自己肯定感を爆上げしたのね……。

思わず遠い目になってしまう。あの子の褒めスキル、どんどん上がってるわ……。


 「そうだ、上塗りするのよ!強烈なインパクトがある話で!」


 「…どうやって?」


 「え?うーん、私達であの腹立つ王子をしばき倒すとか、王子を魔法で吹き飛ばすとか、戯れと見せかけて王子に本気の腹パン入れるとか」


 「その王子縛りはやめなさい。インパクトはあるでしょうけど。でも、上塗りはいい考えね…」


 「でしょ!」





…この会話の数日後。第二王子の側近、という男が仲間を連れて私達を挑発した。

女二人だと甘く見られたらしい。向こうがその気なら、黙ってもいないし大人しくもしない。売られた喧嘩は買って徹底的に勝ちに行く。

これが、私達が一年経たずして上り詰めた理由だ。噂の上塗りにもなって丁度良かった。

そして第二王子だけど、私達の視界に入ったら終わるとでも思っているのか、走り去る後ろ姿しか見なくなった。

これで静かに過ごせるし、安心して弟を迎えられるわ。

此処の紅茶は美味しいから、是非勧めたい。




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