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メインシナリオの裏側で  ー乙女ゲームの世界に転生したとは知らずに普通に人生を頑張る話ー  作者: 原田 和


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メインシナリオの裏側で その9




十五歳になった。

今年から、俺も学園に通う事になる。色々と手続きを済ませ、準備をし、祖父母と義父に挨拶をする。姉は向こうで待っているらしい。

何やかやとお世話になったので、姉に何かないかと義父に訊けば、切実な顔で手紙を渡された。姉、これまで義父に一通たりとも送っていないらしい。宛名は毎回、祖母か俺。学園に行って、姉の世界が広がって、改めて実家の異常さを再確認したようだ。

溜息交じりの祖母曰く、身から出た錆。

なら仕方ないなと、俺は特に何もしない。何とかできないかと目で訴えてくる義父だが、放り出さずに育ててくれた事には感謝しているが、姉への過去の仕打ちは別問題だと思っている。教養とか、全部叩き込んでくれたのは祖母だけど。

とりあえず手紙は預かって、いざ中央へ。






 「おせぇぞ」


 「久しぶりだね。元気そうで何よりだよ」


…………誰?

なんか、ワイルドな美形と正統派って感じの紳士な美形が俺の目の前に居る。

人違いじゃないかって思ったけど、がっちり目が合ってるし、ワイルドには肩組まれてるし正統派には握手されてるし、こんな美形の知り合いなんておらんし。


 「もしかしなくても、誰か分かってないね」


 「あー、めっちゃ顔出てんぞお前。変わってねーなぁ」


 「俺だよ、それとも可愛いもの大好きな私、って言った方がいいかな?」


 「あんだけ派手に殴っておいて。しかも何回か勝負したろーが、俺だ、俺!」


西のフリルと南の暴れん坊――――………!!?

しばらく会わない内になんか美形に超進化してた――――……!!

あ、確かに夏草色に鳶色、薄紫に鳥の子色、見覚えあるな。


 「あ?ふりる?」


 「いや呼び方。…俺はふわふわした可愛いものが好きなんだよ。この子はそれを知ってるから。暴れん坊な君は、残念ながら似合いそうにないね」


 「似合ってたまるか。つーか暴れん坊言うな、俺は節度ある戦いぐらいできる!」


 「何のアピール?それよりいい加減離れなよ。困ってるじゃないか」


手紙のやり取りはしてたけど、お互い忙しくて会えてなかったんだよな。三年の歳月は恐ろしい。周りも二人に釘付けで、人だかりすらできている。目立つし、邪魔になるといけないので、移動しながら近況を伝え合う。


 「四方の国の者が揃うのは珍しいみたい。その分注目されてるんだろうね」


それは祖母も言っていた。注目されているからこそ、それ相応の振る舞いをなさいと。

でも、そこかしこから視線を感じるのは、美形に超進化した二人のせいだと思うんだ。みんな頬を染めて見惚れてるし。その二人に挟まれている俺も、当然見られているという訳で。落ち着かないし、居た堪れない。早く建物に入りたい。


 「注目といえば、光の双子もだろ。あいつらもう来てんのか?」


 「少し前に見たよ。早速噂になってた」


もう来てたのか。この人の多さじゃ、見つけるのは大変だ。後で挨拶に行こう。

そういえば……、第三王子は何処に居るんだろう。本当に久しぶりに会うから、楽しみだ。

講堂が見えてくる。大きいなぁと思っていれば、フリルに手を握られた。


 「今日が来るのを、すごく楽しみにしてたんだ。こうして大事な君と過ごせる始まりの日。聞いて欲しい事がたくさんあるよ、会えない間、俺なりに努力してたからね」


うん、それは分かる。だってめっちゃオシャンティになってんだもんよ。同じ制服なのに別物の服に見える不思議。


 「同じクラスがいいな、君が居るなら楽しく過ごせると思うんだ」


 「それは俺もだな。お前が居なきゃ、こんなとこまで誰が来るかよ」


子供の時よりは話聞くようにはなったけど、暴れん坊は俺様気質というか、そこは変わらないんだな。クラスは俺にはどうにもできんよ。天の運だよ。いやそれより早く入ろうよ。みんなに見られて居た堪れないよ。

仕方なしに、俺は二人を無理矢理引っ張り講堂に入った。なんかもう疲れた。そしてやっぱり、学園長の話は長かった。







 「広すぎて圧倒されました…」


 「分かる。案内図があると助かるんだけど、あ、手帳にあるぞ」


 「あ、本当。気付いてくれて良かったです。覚えるのも大変ですもん。……生徒手帳なんて、卒業まで放置されるモノと思い込んでました」


 「身分証明に必要らしいから、絶対無くさないでよ?あと、ちゃんと持っときな」


 「分かってるよ、兄さん」


無事に式を終えて、講堂を出たら早速捕まった美形達。そんな人の塊からなんとか脱出できた俺は、偶然居た光の双子と和やかに会話していた。こっちでも視線を感じるが、向こうに比べたら幾分かマシだ。


 「居心地悪くない?」


 「まぁ…。でも、覚悟はしてましたし、妹もいるから平気です」


 「…興味本位で近付いてきたり、身分に固執してなんか言ってくるのも居ると思う。そういう時は、俺か姉さんの名を出していいから」


俺はともかく、姉は確実だろう。大抵の奴は退く筈。何故なら姉は、入学して直ぐに同学年のトップに立ち、上級生の腕自慢をも薙ぎ倒し、現在学園の頂点に上り詰めている双璧の一人だからだ。

目立つような事しないわよ、と言っていた姉。一体何があったのだろうか。だが流石姉。尊敬と憧れが爆上がりだ。因みにもう一人は暴れん坊のお姉さんである。


 「でも、ご迷惑じゃ、」


 「使えるものは使っていいんだよ。それで二人を守れる盾になるなら、全然平気」


 「……か……、神は此処に居た…………!!」


 「え?なんて?」


 「すみません。兄は心からの御礼を伝えているんです。兄さん、此処での五体投地は駄目よ!」


倒れそうになる兄を支える妹。もしかして、新しい場所で緊張してたのかな。俺は案内図で保健室を探す……が、突然視界が暗くなった。何者かに体を締め付けられる。


 「会いたかったよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


…と、何者かは俺を締めたまま、号泣。相手は男のようだから絶対姉ではない。人違いじゃなかろうか。よって俺は相手の足を思い切り踏み、拘束から抜け出すとそのまま鳩尾に肘を入れた。

目を遣れば、金髪の同じ制服着た男が蹲っている。


 「誰だ、お前」


 「…っ……っっ僕だよ僕!!」


 「いきなり抱き着いてくる変態なんぞ知らん!!」


 「それはごめんね?!感極まってつい!そうじゃなくて忘れた?!覚えてない僕の事!!?」


涙目だが、こちらも整った顔立ちをしている。なんか、多いな、美形。それはともかく、俺を知っているらしい。何度も言うようだが、美形の知り合いなんておらん…………、いや待て。時の流れは恐ろしいと実感したばかりじゃないか。多分、金髪は変わっていない筈。目も金色……。


 「あれ、」


 「思い出した?!」


なんか引っ掛かった。ぼんやりしてるけど、


 「放電王子」


 「それ――――!!!!!」


 「ごめん。見た感じが変わってたから。立てるか?」


 「それ!身内に向ける慈愛の目!!変わってないありがとうぅぅ!!」


第三王子だった。またがっつり抱き着いてくる。

こんなに騒がしい王子だったかな。おとなしかった印象があるんだけど。そういえば、制御上手くなったんだなぁ。


 「いいのかな、王族なのに……放電王子って…」


 「本人満足そうだから、いいんじゃないかな」










この後、何故か喧嘩売られた俺だが、何故か王子が返り討ちにしていた。

どうやら、過去に姉に負かされた奴の、逆恨みの行動だったらしい。王子に礼を言い、強くなったねと告げると、なんかめちゃくちゃ喜んでいた。






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