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メインシナリオの裏側で  ー乙女ゲームの世界に転生したとは知らずに普通に人生を頑張る話ー  作者: 原田 和


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メインシナリオの裏側で その8





 「どいつもこいつも歯応えねーなぁ!!」


光の双子は、武道会に行っており村には居なかった。

しかし、南の弟はそこでもひと暴れしたらしく、怪我人が。幸い軽傷で、笑顔も見せてくれたが。ウチの領民に何してくれてんだ。

俺はそのまま会場へ。すると目の前には……武道会に出る為集まっていたのだろう、子供らがあちこちに倒れ、呻き声を上げていた。中には痛い痛いと泣いている子も。

その中心で仁王立ちをし、がなる少年が、一人。夏草色の髪に、鳶色の目。南のお姉さんと同じ色だ、間違いない。

俺は迷いなく蹴りを叩き込み、そいつの代わりに中心に立つ。

完全に不意打ち、そしてかなりの勢いで地面を滑っていったが、構うものか。俺は急いで、倒れていた少年を助け起こす。どうやらこの子が、光の双子の片割れらしい。奥には、怯えて涙目になっている少女達が。あの子達には怪我は無いようだ。


 「動けるなら、誰か呼んできてくれ!あと手当てできるなら手伝って!!」


 「っは、はいっ」


 「治癒魔法、使える子居る?!」


 「あ、えと、あの子はっどこ行ったの?!」


 「た、確か準備運動って走って…、さ、探してくる!!」


よかった。彼女達も魔物で慣れてるだけあって、動きが素早い。事前に準備されていた傷薬を運んできてくれた。


 「大丈夫か?沁みるかもだけど、我慢な」


 「え、えと…、……!!あ、あなたはっ領しっ」


 「なにしやがらぁぁぁっ!!!てめぇ何モンだぁぁぁ!!」


咄嗟に炎の壁を作って、攻撃を相殺させた。このままだと、この子を巻き込んでしまう。

でも向こうはお構いなしに、好戦的に俺を見てきた。


 「炎使い…ってことは、お前領主だな!!丁度いい勝負だ!」


 「違うわ!!動けるか?危ないから離れて」


 「は、はい!」


 「下手なウソつくな!東は代々炎使いだろうが!!」


 「俺が言ってんのはそっちじゃない!お前何考えてんだ、素人相手に魔法使うヤツがあるか!」


 「にーさーん!!だいじょーぶケガしてる何があったの?!ってお前かぁっ!?兄さん達をこんな目に遭わせたのは!!」


 「待って待って危ないから行っちゃダメ!!」


 「光のヤツは大したことなかったからな!次はお前だ!!」


 「話聞け!!だから人が周りにっ」


戦闘狂台風小僧は、話を聞かない。周りも見ない。風の刃を無数に作り出し、飛ばした。

俺だけでなく、子供達にも。双子の兄が、妹を庇うのが見えた。

ああして、此処に居る子達を、傷付けたのか。まだ、魔法の適正が分かったばかりで、使い方も、制御すら分からない子達なのに。

ぶちりと、俺の中で盛大に切れた音がした。

魔力を全力で解放。火球を飛ばし、相殺させる。あいつが込めた同等か、それ以上の魔力なら、力押しで何とかなる。

そして、これ以上手出しさせないように、俺とあいつを炎の壁で囲う。


 「っスゲースゲー!!やるじゃんお前!やぁっとまともに戦える!」


 「謝れ」


 「は?」


 「謝れ。あの子達は、武道会楽しみにしてたんだぞ。お前はそれをぶち壊した」


 「…なにそれ。あんな弱いのが、出たって意味ねーよ。よかったんじゃん?力量ってヤツ知れてさ」


 「お前は領主の器じゃない。強くもない。やってるのはただの弱い者いじめだ」


確かに、こいつの魔力保有量は高いし、強い。けど問題はそこじゃない。


 「暴力で全て片付ける人間が、慕われるものか」


 「あぁ?!!」


 「自分の非を認めず、相手を思いやれず、力で黙らせる人間を、誰が領主に相応しいと思うか」


 「バカか!?領主ってのは侮られちゃおしまいなんだ!!力があってなんぼだろうが!強ければ強いほど!民は安心して暮らせんだよ!!」


安心?暴君に怯えて暮らすのが?


 「バカはお前だ。守るべき領民を傷付けて、何が力だ、強さだ」


 「なっ、」


 「悪いことをしたと欠片も思わず、人様に怪我させておきながら開き直るその態度、」


 「な、なんだよ、」


 「……悪いことしたら、」


俺は身体強化に魔力を全振りした。


 「ごめんなさいでしょうがあぁぁぁ!!!!!」


台風小僧に会心の一撃。

小僧は壁を突き抜けて吹き飛んでいった。










……南のお姉さんは、ずっと深々と頭を下げたままだ。足元には小僧が転がっている。お姉さんが回収したらしい。


 「誠に申し訳ありません」


 「本当にね」


 「弟を止めなかった、姉である私の責任でもあります」


 「その通りね」


あ、上げられないのか。姉、滅茶苦茶怒気を放ってるから。

俺はまた、魔力枯渇一歩手前で動けないので何もできない。気絶しないだけ、少しは成長したという事だろうか。でも無茶したと怒られそうだ。


 「あの…、」


 「……あ、ケガ、平気?」


光の双子だ。妹さんも無事らしい。二人してお礼を言ってくる。

お礼を言われる事じゃない。間に合わず、守り切れなかったのだから。でも、


 「……無事でよかった、」


心配気に見てくるので、大丈夫という意味も込めて笑っておく。双子は揃って目を潤ませ、口を押さえた。動きが同じだ…。


 「他の子達は…?」


 「……ダイ、ジョウブ。……治癒、使った」


反対側には、いつの間にか北の妹さんが居た。どうやらついて来てくれたようだ。聞けば、従者の何人かが、治癒魔法を心得ていると。子供達は完治して、今は元気一杯。


 「よかった……、ありがとう、助けてくれて」


 「……どうして、あなたがお礼を言うの…?」


 「だって…、みんなが居てこその、領主だと思うし……」


 「……」


 「あ、俺は継がないよ。継ぐのは姉さん。俺は姉さんのサポートするつもり」


 「…仲、いいね。……私も、そうありたかった」


まずい、眠くなってきた。物静かな子が頑張って話しているのに、寝ては駄目だ。


 「……もう、無理なのは分かっているの。話す事すら、許されない…」


静かな話し方のせいか、眠気が加速する…!誰か、なんか、甲高い音とか出してくれないかな。


 「……私も、あなたのように出来ればいいのに…」


 「……やれば、いいんじゃない、かな……」


 「…でも、そんな力、ないもの」


 「変わるのは、相手、じゃなくて……自分だと、おも、う……」


 「……どういう、…あ、」


寝ちゃった。と口を揃える双子の声を最後に、俺の意識は途切れた。

やっぱり成長していないのかもしれない。






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