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竜使の花嫁~新緑の乙女は聖竜の守護者に愛される~  作者: カヤ


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義姉のデビュー

辛い展開が続いてつらい方は17話まで待ってお読みください。

 それでもさすがにジェニファーのデビューの時は、エスコートのために父親は屋敷にいた。


 ジェニファーの支度は先輩の侍女が行ったが、真っ白なドレスに控えめなレースは、ジェニファーの金髪と青い目を引き立たせてそれは美しい仕上がりだった。


「同じ年の娘なのに、片方は大事にされて、片方は使用人。ほんと大違いよね」


 ジェニファーを見送ってほっとした空気が玄関ホールに流れる中、同じ侍女の仕事をしている同僚が、わざわざアリーシアに聞こえるように言った。アリーシアはいつものことなので聞き流して仕事に戻ろうとすると、その侍女に肩をつかまれた。


「無視しないでよ!」


 アリーシアはため息をついて、まっすぐにその侍女の目を見た。義母や義姉に言われても我慢しているのは、たとえアリーシア自身に何の咎がなくても、庶子であることに腹を立てる気持ちは仕方がないと思うからだ。だが同僚がアリーシアを責めるのまで我慢することはないと思っている。


 だから言うことはこれだけだ。


「大違いだとして、それがあなたに何の関係があるの?」

「なっ」


 侍女はかっとしてアリーシアに手を振り上げようとした。手なら少しよければ痛くない。道具で叩かれるよりまだましだ。アリーシアは口の中が切れないようにぐっと歯をかみしめた。だが、侍女の手は飛んでこなかった。


「やめなさい」


 アリーシアの休みを取らせろと言った家令が、侍女の手を止めていた。


「私はお嬢様と同じことをしているだけです!」

「勘違いするな。お前はお嬢様とは立場が違う。使用人だ」

「ならこの人もそうでしょ! 奥様がそうおっしゃったわ」


 家令はゆっくりと首を横に振った。


「奥様やお嬢様がどう振る舞おうとも、アリーシア様はバーノン子爵家のお嬢様だ。正式な籍のある貴族なんだよ。このことがどういうことかわからないのなら、その手を振り下ろすがいい」


 どういうことかはアリーシアもわからなかったが、侍女は家令の手を振り払ってイライラした足取りで歩き去った。


 どうして助けてくれたのかはわからないが、痛いことが一つ減ったのは確かだ。アリーシアは頭を下げると、そのまま下がろうとして家令の姿の何かに記憶を刺激された。


 父は母のところに来るときはいつも馬車で送られてきて、家の少し手前で降りる。帰る時もそうだ。アリーシアはたまたま外で遊んでいるときにそれを見て、まるでうちに来たと思われたくないみたいだと思ったものだ。


「馬車の、御者さん……?」

「覚えていましたか……」


 家令はそれ以上は何も言わず、顔を背けて歩き去っていった。いつもとほんの少し違う出来事のあった日だったが、だからと言ってアリーシアの毎日がそう変わるわけではない。ジェニファーのデビューがうまくいって、機嫌のいい毎日が続くといいと祈るだけだった。


 そしてその祈りは珍しく聞き届けられたらしい。


「王様にも会えたのよ」


 一年に一度、その年に16歳になった少女がまとめてデビューするその会で、少女たちは等しく王様にも挨拶をし、一言声をかけられるのだという。


「オリバー様とも踊ったけれど、他にも何人にも誘われて」


 夢見るような瞳のジェニファーに侍女たちも嬉しそうに同意する。その美しさは彼女たちが作ったようなものだから、少しばかりお世辞があるにしても、純粋に嬉しいのだろう。


「お嬢様の金髪と青い瞳の美しさにかなう人はいないと思いますわ」

「会場ではさぞかし目立ったことでしょうね」


 その褒め言葉にも嬉しそうだ。いろいろな話を楽しそうにする中で、ジェニファーは印象的だった出来事があるという。


「そうそう、普段お会いできることのない侯爵家や伯爵家の方も来ていたのだけれど、仮面をつけた方がいて、それがとても恐ろしかったの」


 仮面と聞いてアリーシアが思い出すのは、ライナーのいる商会の若君だ。空の瞳の竜使い。怖いとは思わなかったけれど、生まれて初めて見た仮面というものは、確かに目を引いたし不気味と言われればそうかもしれないと思う。侍女たちも興味津々だ。


「まあ、いったいなぜそんな。仮面舞踏会でもあるまいし」

「なんでも怪我をしたらしいのだけれども。仮面で隠れていないところまで傷跡がはみでていて、とても恐ろしかったの。しかも厳しい顔をして誰も寄せ付けないから、皆距離をとっていたわ」

「お嬢様は誘われたりしたんですの? 誰よりも美しかったはずですもの」


 髪を結い上げた侍女が誇らしそうにそう言ったが、ジェニファーは頬に手を当てて、とんでもないと目を見開いた。


「誘われたとしても、怖くて踊るのなんて無理よ」

「それもそうですねえ」


 話は他の貴公子やオリバーがどれだけ素敵だったかという話に移ったが、アリーシアには興味がなかった。素敵な貴公子がいたとしても、アリーシアに何の関係があるのか。


「それに、どんな人と踊ったとしても、あと一年もせずにオリバー様のところに嫁ぐんだから」

「まあ、一途で素敵ですわ」


 そしてアリーシアにとっては、成人する四か月後にうまくこの家から逃げられるかがカギになる。


 アリーシアが家を出たら、義母と義姉がどれだけ喜ぶことかと思う。だが、もしアリーシアから家を出たいと言ったら、アリーシアがそうしたがったからという理由だけで止められてしまうような気がする。とにかくギリギリまでは黙っていなければならない。


 それからしばらくは義母と義姉は機嫌がよかった。


「婚約者がいるというのに、婚約の申し込みが跡を絶たないなんて困ったわ。よほどデビューの時のジェニファーが美しかったのね」


 ハリエットはわざとアリーシアに聞こえるところで自慢をする。


「子爵家だけでなく、中には伯爵家からも申し込みがあるのよ。でもオリバー様のところも伯爵家ですからね」


 申し込んできたのが侯爵家なら考え直すとでもいいたげだ。しかし父がオリバーを選んだのはあくまで商会の仕事を引き継ぐという意味もある。この二年間、オリバーは父についてしっかりと商会の仕事を学んできたはずで、身分が上だとか条件がいいとかでそう簡単に婚約者が変えられるわけがない。浮かれる義姉と義母が愚かしく見えて、アリーシアはそっと顔をそむけた。


 しかし、現実はアリーシアの予想をはるかに上回った。


5月30日、コミカライズスタートです。

詳しくはまた当日に!

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