第二話 新天地
大陸にはもういられない。
どうしようもないそんな現実に目を背ける事もできず俺は魔導飛空艇に乗り今まで済んでいたダルコフ王国から遥か東にある島国へとやってきていた。
この国は正式な名称がまだ無く世界に国として認められてはいるもののアダマス大陸の国々から見れば未発展であり他の国との交流も近年始まったばかりという。
大陸での暮らしに慣れた人間からすれば地獄の様な場所と聞いた事があるが俺にはもうどうでもいい事だ。
大切な物などもう何もない。
ただ今は何も考えず静かに暮らしたい…そんな思いで俺はこの名も無き極東の島国へとやって来たのだから。
一つ気がかりなのは娘のジュリアンナの事だが大陸に居られなくなった今の俺には彼女の幸せを願う事以外してやれることはない。
暗い気持ちを吐き出す様に大きく息を吐き出し目の前の発展途上の街へと繰り出す。
大陸から伝わった手法で家屋などが建てられており元気に働く職人達やそれを労う住民の声、それに元気に走り回る子供達の笑顔で街は活気に溢れていた。
異国の人間が珍しいのか視線
誰が言ったかは定かではないが俺にはここが地獄だとは到底思えない。
風景や文化が多少異なるだけで大陸と何も変わらないじゃないか。
そんな事を考えながら少し軽くなった足取りで歩ていると目的の場所へ辿り着いた。
目の前には木造の建物が建っており入り口の看板には異国の文字で魔狩りの会集会場と書かれている。
この国にもアダマス大陸同様に迷宮がありそこから魔物が出現するらしいが迷宮攻略や魔物狩りを生業とする冒険者と言う職業がまだ存在していないらしい。
その代わり各々の自治で魔狩りの会と言う物が作られ、腕に自信のある者達がこれに参加し日銭を稼いだりしているとの事だ。
無一文でこの国へ来た為まず第一に生活費を稼がなくてはならない俺としては元冒険者としてこの魔狩りの会の存在はありがたかった。
大陸では冒険者ギルド総本部から永久追放の処分を下された俺だが、ここならば活動を制限されることもない。
そう思った俺は飛空艇乗り場の職員の話を頼りにこの集会場へ来たのだ。
簡素な作りの扉を開け中に入ればそこにはこの国独自の着物と呼ばれる衣装に腰に刀と呼ばれる武器を差した者達が大勢おりこちらを品定めする様に窺っている。
そんな視線を気にせず受け付けらしきカウンターへ向かうと職員らしき壮年の男性が丁寧に対応してくれた。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
「俺は大陸からこの国に来たばかりなんだが文無しなんだ。腕には多少自信があって魔狩りの会へ加入したいんだが可能だろうか?」
「勿論可能ですよ。ではこの書類に必要事項の記入をお願いいたします」
そう言われ差し出された紙には名前と年齢、種族それから経歴の四項目のみだけしか記載がなくこんなんでいいのかと若干呆れる。
手早く記入を済ませ職員へ渡すと少し驚いた後、気を取り直して手続きを始めながら話しかけてきた。
「大陸で冒険者がこんな極東にきてくれるとは驚きですね。我々からすれば嬉しい限りですが何か理由でも?」
「まあ色々あって大陸に居辛くなったんだ。けどこんな俺でも今から大きくなろうとしているこの国なら何かの役に立つかなと思ってこの場所を選んだのさ」
「成る程、そうでしたか。しかしどんな理由があろうとまだ未発展の我が国に大陸の人間が来てくれるのはこの国にとって喜ばしい事です」
そういうと職員は暫く無言で手続き進め終わらせると魔狩りの会の説明をしてくれる。
「魔狩りの会には冒険者ギルド同様に階級、要するにランクが存在します。銅から始まり銀、金、白金、金剛、そして修羅が最上のランクとなります。魔狩りの会では皆等しく銅からのスタートとなり挙げられた成果からポイントを計算し一定に達すると昇格と言う制度になって居ります。活動の主な内容としては魔物の討伐及びダンジョンの管理となり魔狩りの会から出される依頼をこなしてもらう事になります。以上で説明は終わりますが何か質問など御有りになりますか?」
「依頼ってのはランク毎に受けれないものなんかがあったりするのか?」
「そうですね。依頼にもランクが設定されており緊急時を除けば基本的には自分のランクから2ランク以上差がある依頼は受けれない事になっております。ですので金級冒険者なら銀級と白金級の依頼は受けれますが銅級と金剛級それから修羅級の依頼は受けれません」
「なるほど。それじゃあもう一つ質問。冒険者にはPT制度ってのがあったんだがそれはこっちにもあるのか?」
「チームを固定で組む仕組みの事ですね。魔狩りの会にはそのような制度はなくその都度各々同じ依頼を受けて頂く事になります。魔狩りの会の依頼はそれぞれ募集人数が決まっていますので今の制度ではPTという仕組みを導入するのが難しいのですよ」
「冒険者と殆ど変わらないと思っていたが細かいところは違っているんだな」
「ええ。まあこの国でも大陸との交流が進んでいるので冒険者ギルド極東支部の設立の話も出ていますから数年後には魔狩りの会も冒険者ギルドと名前を変え、その仕組みも変わるでしょう」
「そうか…」
「では最後に魔狩りの証であるタグを渡して登録は完了になります。どうぞこれを」
職員が差し出してきた銅色のタグを受け取り首からさげると何だか冒険者になった時の事を思い出し誇らしい気持ちになった。
大陸での辛い記憶はまだ俺の心を蝕んでいるが俺は今日からこの新しい場所で一からスタートするんだ。
まっさらな気持ちで早速依頼を受ける為掲示板へ足を進めた。
ジュリウスが極東に到着した頃、アダマス大陸ダルコフ王国冒険者ギルドグランデウエスのギルドホームの一室で2名の人物たちが密談をしていた。
「感謝するぞルセウス。お前のお陰で邪魔だったジュリウスを追放する事ができた。これでアンナは儂の物だ、グフフッ」
「何、今の俺にとっては造作もない事ですよ。いくら堅物のジャッジや真面目で淑やかなアンナと言えど所詮は対魔力を持たない一般人…、失われた禁術である幻惑魔法を習得した俺からすれば操り人形にする事等容易い事です」
下品な笑い声を漏らしながら言うマグナスにルセウス済ました顔でそう答える。
(フン、下衆め…)
ルセウスは内心でマグナスをそう罵倒した。
マグナスは3年程前に引退したギルドマスターの後任として別ギルドからやって来た新任のギルドマスターだった。
現役の頃は腕の立つ冒険者として名を上げ、問題行動も多少あったが冒険者たちからは慕われておりギルドからは信頼ある優秀な人材と言う扱いを受けている。
しかし、その正体は裏社会の人間と繋がっており麻薬や奴隷の密売等人道に反した事もしている外道だ。
前々からこの男はジュリウスの妻アンナに目を付けておりルセウスはそこにつけこみ利用したのだった。
「約束通りこれからはお前を我がギルドのエースとして大題的に宣伝してやる。お前の幻惑魔法と俺の裏からの手回しがあればお前は無敵のエースとしてダルコフスリーグいや、M&Sの伝説になるだろう。そうすればお前の望み通り引退後にはこの国の要職に就くことも容易い」
「ありがとうございます」
「話は以上だ。儂はこれからアンナの処に行かねばならんからな。また何かあればお前の手を借りるだろうからその時は頼むぞ」
「勿論です」
マグナスが部屋を出て行った後ルセウスは邪悪な笑みを浮かべていた。
(まずはこの国の人間を堕落させ俺の都合のいい国にする…俺の計画は今の処上手くいっているな。いずれはこの国いや、大陸の支配者になるという俺の計画が!)
この時のルセウスは夢にも思わなかっただろう…数年後自分の野望が自ら追放したジュリウスの行いによって阻止される事になる等と。
読んでくださりありがとうございました(*´ω`*)