第76話 おやすみをしたい!
こんにちは! 鷹司タカシです!
まずはトーチャンを植物にしました。
さあ、お次はミコちゃんかな?
おっと、ここで瘤瘤登場です。
「瘤瘤! さあ、おいで。植物にしてあげる!」
「あなたは間違ってる。人はただ生きていれば幸せなんじゃない。自由を手にしてこそ、生きる価値のある人生になるのよ!!!」
そう語る瘤瘤の体はボロボロだ。
あちこちの欠損に加え、更に、全身に傷が増えてる。
杖もなくしちゃってるから、皇帝の枝からうっかり手を離してしまおうものなら、真っ逆さまに落っこちてしまうだろう。
不自由な体。
「皇帝の体の上には、あなたの国民の生き残りがいるのよ。みんな、自分にできることをして、お互いを支え合ってる。この危機を乗り越えて、いつか自由で平和な日常を取り戻すために。あなたはその想いを踏みにじるの!?」
「ふふっ」
思わず笑みが溢れちゃう。
「何がおかしいの? あなた、おかしいんじゃない!!?」
「だってだって、とーっても愉快じゃないか」
「はぁ? 何が?」
全滅じゃなくて、生き延びてる人がいるんでしょ?
みんな、平和を望んでるんでしょ?
すごく嬉しいよ。
「みーんな、ぼくと同じだ」
「違う」
「ぼく達はね、同じ目標に向かって努力をしてきた。違うのは方法だけだね。で、一番いい方法がぼくのってわけ」
「……効率は一番いいかもしれない。でも、あなたのやり方じゃ、みんなの自由が奪われてしまう!!」
瘤瘤は言う。
何物にも縛られず、自分の生きたいように生きたい、と。
自由こそがこの世に生を受けた者にとっての最大の幸福だ、と。
それを教えてくれた銑銑のように、他人を自由に導ける存在になりたいのだ、と。
「みんなが自由に生きてたら、争いが生まれちゃわない?」
尋ねてみたけど、瘤瘤から返答はない。
ただただ憔悴しきった表情で、沈黙して、やがて体をぶるっと震わせて、
「うっ! ……ふぅ」
瘤瘤は産卵した。
「もう体がすっかすかよ。でも、あなたを止めるためなら、このくらいの疲労はどうってことない。……タカシくん、世界のために、ここで死んでちょうだい!」
七手土吐人は卵を魔法で固めて、コンクリートより硬い素材を造ることができる。
おそらく、それを応用して、ぼくの口と鼻を塞いでしまおうという計画だったのだろう。
バカだねぇ~。
「カーチャン」
「わかってるわ」
カーチャンがいるんだよ。
最強の人間兵器がさ。
手負いの非戦闘要員に勝てる相手じゃない。
膝蹴り一発で血反吐を吐いてんだもん。
「……タカ……シくん……」
カーチャンにぶら~んと吊るされた状態で、彼女は言葉を絞り出す。
「自由を……奪わないで」
「ふっ。あのねぇ、瘤瘤。きみは結局、銑銑の死に囚われてるだけでしょ」
「……え?」
「銑銑を殺した罪悪感で、自由の大切さを主張してるんじゃんか」
返事はしなくていいよ。
ぼくは魔法を発動して、皇帝を彼女に注入した。
はい、植物人間の出来上がr━━
「でぇやああぁあぁぁぁああ!!!」
それは瘤瘤を植物化したのと同時だった。
全員の意識が瘤瘤に向いてた一瞬の隙を突いて、ミコちゃんが動いた。
でっかいビーム魔法を発動。
また無駄な抵抗を……。
「……ん? あっ。あああ!」
いや、でかい。
それはビームと言うには、はあまりにもでかかった。
直径30メートルくらいの球体。
皇帝の枝をバッシバシ薙ぎ倒し、ミニ皇帝ズをドッカドカ破壊し、更にはぼくを飲み込もうとする。
「させないわよぉおぉお!!」
「ありがとう、カーチャン!」
カーチャンがドデカビームを両手で押さえた。
ところが、安心する暇もありゃしない。
「っらあぁあぁあぁぁぁぁあ!!!!」
ミコちゃんがドデカビームをもう一発放出したんだ。
ヤバッ。
カーチャンは両手が塞がってるし、ミニ皇帝ズじゃ太刀打ちできないし、今度こそ絶体絶命大ピンチ!
「させないって言ってるでしょぉぉおぉぉ!!!」
「いつもありがとう、カーチャン!」
カーチャン、今度は両足でドデカビームを押さえた。
ところが、ミコちゃんは3発目を撃とうとしてる。
そんなに頑張って大丈夫?
大丈夫じゃなさそう。
ミコちゃんは体の大半がなくなってる!
魔力を消費しすぎなんだ!
「もうやめて、ミコちゃん! これ以上続けたら、ミコちゃんが消えちゃうよ!」
「構いやしねぇよ! 世界を守るのはいつだって命がけなんだからなぁ!!!!」
「バカ!! 命を犠牲にするんだったら、何のための平和だよ!!!」
想いは届かない。
ミコちゃんは3発目のドデカビームをブッ放した。
さすがにもうダメか……?
「させないって言ってるのがわかんないのぉおぉおぉぉぉぉお!!!」
「ありがとうありがとう、カーチャン!!!」
手と足が使えなくっても、尻がある。
カーチャンは尻でドデカビームを押さえた。
「いつまで持つかな?」
ドSと化したミコちゃんは魔法の力で、3つのドデカビームを操作して、カーチャンを潰そうとする。
全身の魔力を使いきる覚悟だ。
「おめぇら全員を倒すのぁ無理だ! 一人だけでも殺せりゃ、未来に希望を繋げられらぁ!!」
「あああ、ヤバイ~! ……って言うと思った?」
汗をだらだら流しながら、カーチャンが苦しそうに、
「……タカシ? どういうことよ?」
鷹司タカシの推理ショーにようこそ。
「ぼく、ずっとおかしいと思ってたんだ。ミコちゃんってさ、やたらと水を飲むよね?」
最初に疑問を抱いたのは水製都市でのこと。
大人気アイドルの碧に変身してたミコちゃんは、ぼくとの決闘の際に、水をがぶ飲みしてた。
その時の碧の腕はまるで枯れた植物のようにカッサカサだった。
「最初は、それが蝶貴妃人の特徴なのかなーって思ってたんだけど、後で千祚代ちゃんに聞いたら、全然そんなことないって言われたんだ。だったら、あれはミコちゃんの……つまり、皇族人の特徴ってことになる」
ミコちゃんは何も言わない。
よろしい。
では、推理を続けましょう。
「しかもしかも、『有意遺跡』の塔から不帰池に行くために、わざわざ『道』を使って遠回りしてたでしょ。砂漠を通れば、近道なのに」
「あの……タカシ? 早くしてくれないと、そろそろきついわ……」
「カーチャンは静かにしてて!」
「でも……きつ……」
「あとさ、カーチャンを回収するために地底に行った時も、水を飲んでたね。あ、そう言えば、あの皇族人のおっさんも不帰池で水分補給してたなー」
「要するに、どういうことなのよ!!?」
「ミコちゃん、乾燥が弱点でしょ」
推理は的中したようだ。
焦った様子で、ミコちゃんは魔法に負荷をかけ始めた。
苦しむカーチャン。
ミニ皇帝は澄ました顔をして、何も言わない。
「じゃ、乾かすね」
皇帝を操縦しながら、乾燥魔法を発動。
二つの魔法を同時に使うのは難しいことだけど、ぼくは見事にやってのけた。
だって、ぼくは世界の救世主。
かつては予言の戦士と呼ばれたこともあるんだぞ。
「だああぁああぁ! クッソ!! おい、タカシ!! 今からでも遅くねぇ!! 道を引き返せ!!!」
「もうよいじゃろう」
ミニ皇帝が我が子をあやす。
「そちの役目は終わったのじゃ。大人しく、朕の中に帰るがよい」
いやだいやだと駄々をこねるミコちゃん。
でも、母は強い。
浮遊魔法でミコちゃんを強制的に引き寄せ、そして、幹の中に吸収した。
「閉じ込める魔法? 便利だね」
「同一化したのじゃ」
「要するに、閉じ込める魔法?」
「同一化したのじゃと言っておろう。完全に朕の内に取り込んだゆえ、もうやつがそちの手を煩わせることはない」
待って。
「じゃあ、ミコちゃんはもう死んだの?」
「死んだと言えば死んだが、魔力となって存在しておるとも言えるのぉ」
「誤魔化すな! 殺人じゃないか!」
地底の管理を放棄して大勢の人々を見放して、地上では無数の人々を犠牲にしながら移動して、それでもまだ殺し足りないの!?
いくら皇帝だからって赦さないよ!
「すまぬ」
「……すまぬって言っても……」
「謝ろうと謝るまいと、失われた命はもう戻らぬのじゃから、今さら喚いたところで、もう遅い。それより、まだ生きておる命を救うために協力しようぞ」
「……そうだね!」
「そんなことより、タカシ~!」
ゴリゴリがお困りの様子だ。
「このビームはどうすればいいのよぉ」
カーチャンはまだドデカビーム3発を処理できずに、手と足とお尻で必死の抵抗を続けてる。
あははっ。
「笑ってる場合じゃないでしょ。どうにかしてちょうだい! さすがの私でもつらいのよ!」
「そうなんだ。じゃ、そのままで。カーチャン、じっとしてる方がかわいらしいよ」
なぁんてね。
動いても動かなくても、かわいくはないよ。
これ以上予測不能の行動をしてもらいたくないから、放っておくだけ。
今ね、ぼくは絶好調なんだよ。
カーチャンの助けはなくても大丈夫かな。
「じゃ、スピード上げるよ!」
* * *
ここはエクアドルのチンボラソ山。
正直、名前も知らなかった。
「この山の頂上は、地球上で最も太陽に近い場所じゃ。すなわち……」
地底に4万年も住んでた人に地上豆知識で負けるのって、ちょっと悔しい。
それにしても、割と地味だね、この山。
草がまばらに生えてるところ。
岩が剥き出しのところ。
羊か何かがうろちょろしてるところ。
どこもそれなりに悪くない景観だけど、これといった特徴がない。
観光には向いてないなら、もう一心に頂上を目指すだけ。
「着いたよ、皇帝」
皇帝を山のてっぺんに着陸させると、ぼくの胸に果てしない充足感が満ちた。
感謝の言葉を述べつつ、早速、皇帝は山に根を張り始める。
ここはエクアドルのチンボラソ山。
地球上、最も太陽に近い場所。
「すなわち、朕が光合成を行なうのに、最も適した土地なのじゃ」
皇帝はここで光合成をひたすら続け、それによって、延々と魔力を育てる計画らしい。
彼女の意思が必要になるのは、ここまで。
「ありがとう、皇帝。きみは本当に偉いね。大好きだよ」
「タカシ……」
「うん」
「世界を……平和に…………」
世界で一番美しい光景だ。
大きな大きな全緑景樹が大空に向かって枝葉を広げ、ほんのりと光ってる。
命の輝きだ。
ぼくはきみを抱き締めよう。
「おやすみ、皇帝」
次が最終話です。
明日、投稿します。