第8話 疲労困憊したくない!
こんにちは! 鷹司タカシです!
空飛ぶ家を撃墜されて、身に覚えのない罪で詰られて、宝百合ちゃんに息子を見られました!
「魔法を使え! 嬲ることより仕留めることを優先しろ!」
鷲顔の女が、たくさんの化け物を指揮する。
「なんとおぞましいことでしょう……地底人類同士で戦うなど……」
宝百合ちゃんがわなわなと身を震わせる。
彼女曰く、この化け物どもは世界の敵じゃないそうだけど……じゃあ、本当の敵って??
気になることを一々口に出してる暇はない。
ぼくらを取り囲む化け物達は全員、魔錻羅器を装着してる。
繰り出される多様な魔法攻撃。
ビーム!
矢!
炎!
水鉄砲!
はい、おしまい!
人生終了お疲れ様でした!
タカシくんの来世にご期待ください!
ま、普通ならそうなる。
だけど、今ぼくの隣には魔女っ子がいる。
敵からの攻撃をすべて弾き返しちゃってるよ!
「すっごぉ~い!」
宝百合ちゃん、かなり強い。
自分達の攻撃が封じられて、やつら、どよめいてやがる。
防戦一方じゃない。
小さな魔女っ子は、化け物を一匹浮かせると、他の化け物どもに向かってぶん投げた。
ストラ~イク!
「わーはははは! 勝てる! 勝てるぞ! 宝百合ちゃん、どんどんやっちゃってよ!」
勝つって気持ちいいね!
ぼく?
ぼくはヒョロガリの体力ザコ。
なんなら宝百合ちゃんにも素手ゴロで負ける自信があるよ。
活躍なんて期待しないでね。
宝百合ちゃんに、ぼくの分もしっかり頑張ってもらおう!
「タカシさん。ヘラヘラして油断しないでください。あなたは人一倍ヤワなのですから」
「ちょっとぉ、言い方がひどおおぉぉぉぉぉおぉおお!??」
ヤバイヤバイ!
突然、足を引っ張られた!
そのまま引きずられてる!
突然のことだったから、宝百合ちゃんにも対応できない。
ぼくの足を掴んでるのは……植物の蔓!?
「どこから湧いてきたのぉ、この蔓は……あああっ!?」
蔓の伸びる先を目で辿っていくと、そこにはどでかい亀がいた。
他の化け物の例に漏れず、こいつも二本足で立ってる。
上半身は魔錻羅器だけ。
下半身は力士がつける廻しのような布だけ。
甲剛人並にすごいファッションセンスだ。
身長は3メートルくらいかな。
大胸筋が逞しく発達してる。
そんな、どこからどう見ても普通じゃない亀の手に蔓が握られてる。
ぼくとの距離は見る見るうちに縮まった。
亀さんはぼくの上で巨大な足を高く上げ、四股を踏むように、どでかい足を下ろした。
「ひええぇっ」
間一髪。
宝百合ちゃんの魔法のおかげで、ぼくは空中に逃げることができた。
蔓も弾みで外れたし、ぼくは自由だ!
そのまま放物線を描くように宙を舞って……あれ?
地面に激突しちゃわない?
「宝百合ちゃぁん!!?!?」
「すみませんが、いま忙しくて手が離せません! ご自身で対応してください!」
「いや、無理だけど!?」
「予言の戦士なのですから頑張って!」
無理無理無理無理!
そんなのに就任した覚えはないし!
ただの小学5年生だし!
ところが幸いなことに、結構な勢いで吹っ飛ばされたおかげで、地面ではなく、その向こうの川に落ちることになりそうだ。
よーし、体を丸めて、両手の指をまっすぐに伸ばしたら、着水準備完了!
「あだぁーーーっ!!!」
着水、失敗。
思いっきり、水に全身を叩きつけてしまった。
結局、痛くなるんだよ!
嫌になっちゃう!
しかも水が汚い!
土色だよ!
泥水じゃん!
ちょっと口の中に入っちゃったけど、すごぉく不味いじゃん!
「~~~~!」
よく聞こえないけど、宝百合ちゃんが何か言ってる。
「げほげほっ。何か言った?」
「お急ぎください!」
何を?
「後ろ!」
後ろ……?
振り返ると、そこには魚がいた。
「おわーっ」
でっかいでっかい魚の頭だ。
忘れてた!
川の中には半魚人がいるんだよ、半魚人が。
人魚じゃなくって半魚人。
上半身が魚で、下半身が人間なんだ。
虚無な瞳がぼくを見つめる。
束の間のお見合いの後、鱗にまみれた皮膚をくねらせて、半魚人がぼくに近付き始めた。
「気持ち悪ーいっ」
殺されるかもしれない恐怖よりも、生理的嫌悪が勝る。
ぼくは全速力で泳ぎ始めた。
「がぼぼぼぼぼ」
忘れてた。
ぼく、泳げない。
「タカシさん、攻撃が来ます!」
小さな魔女から警告が飛ぶ。
それと同時に、背後から水が噴出された。
魔法だ。
水鉄砲のようで、だけど、ただの水鉄砲じゃない。
言ってみれば、高圧洗浄機から発射された水。
凄まじい威力だ。
かすっただけで、服の袖が破れちゃった。
もし、こんなものが体に当たりでもしたら……
「がぼぼぼっ。宝百合ちゃぁーーーん! 助けt……がぼぼぼ」
「いま忙しくて手が離せません!」
「いっつも忙しいじゃん! がぼぼぉ」
宝百合ちゃんは自分を防御するので精一杯だ。
半魚人め、下半身は人間のくせに、泳ぎが上手い。
あっさりぼくに追いつくと、上からのしかかって来やがった。
別方向からも半魚人が一匹、更に一匹と、これまたのしかかって、ぼくを溺死させようとする。
やめろやめろ!
何もされなくたって溺れそうだってのに。
しかも、こいつらすっごくぬめぬめしてやがる。
「おひょっ」
でも、おっぱいが押しつけられると嬉しい。
こんな魚顔でも、いいおっぱい持ってる。
Dカップ2名!
Eカップ1名!
よーし。
どうせ殺されるなら、最期に揉んでやる!
相手は生臭い殺人魚だ。
倫理的に問題ないはず!
「ぼっばびぼばべぼぉ」
水中で必死にもがく。
濁った水の中では何も見えないから、手探りでおっぱいを揉みに行くしかない。
「がぼぼ。がび。ぼぶっ……べ!」
この感触……ブラジャー!
ぐへへ。
さっと触るように一瞬でホックを外した。
これ、ぼくの得意技。
どうせなら生で揉んじゃいますか!
それじゃぁ、いただきm……
「だぶぁぁーーーーーっ」
お魚ちゃん達、大暴れ。
ブラジャーを取られて、よっぽど焦ったのかな。
おかげで、ぼくは水の上に顔を出すことができた。
久々の空気、うめーーー!
「取られた。……魔錻羅器、ない……」
半魚人、半泣き。
醜い顔がもっと醜くなってるよ。
あー、そうか。
やつらの着けてるブラジャーは魔法を使うための道具だ。
これがないと、水鉄砲を使えないんだ。
「がぼっぼー!」
でも、ぼくが溺れ死んじゃいそうな事実に変わりはない。
だんだん……沈んで……しまうぅ……。
「あっ、あうぅ……あぁぁっ……あああ」
「お?」
変な声がする。
今度は何?
それはハンペン。
「がぼぼっ、ハンペン!?」
全身真っ白、三角頭、大きな単眼、巨乳、その下に大きな唇。
きみとは仲良くなれそうな気がする!
なんだかマスコットキャラクターみたいでかわいいもん。
だから、お願いハンペン!
ぼくを助けて!
ハンペンモンスターは全力疾走&ジャンプ&川にダイブ!
ゆっくりゆっくり近づいて来るそいつを見て、ぼくは思った。
あれ?
もしかして、こいつに乗れるんじゃね?
「よい……しょっと……。ふぅー。助かったぁ」
てんでノロマなやつなので、あっさりと乗っかることに成功。
これじゃハンペンじゃなくって救命ボートだね。
あっははは。
さてさて、水を掻いて、陸を目指しますか。
「あっ、ああう、あぇ、うぇっえぇ……んぼぇぇぇぇええぇぇ」
「!?」
前言撤回。
こいつとはお友達になりたくない!
口から真っ黒の液体を吐き出しやがった!
キモ!
その液体はハンペンそっくりに形を変えて、まるで意思を持っているかのように動き始めた。
「あっ、わかった! きみ、ハンペンじゃなくってイカでしょ!」
「あうっ、あ、あ、あいぃ」
「ちょっと待ってね、いま上陸するから」
大地を踏みしめた時、生まれて初めて自分が陸上生物だな~と実感した。
ただいま、土。
おや?
ぼくってば、半魚人の魔錻羅器を手に掴んだままだ。
あんなやつらのブラジャーなんて色気もクソもないけど、ま、一応もらっておこう。
いくらブスでもおっぱいを包んでた布には変わりないし。
「いいお土産もできたし、それじゃ、ご機嫌よう」
「あっあっあいぃいぃぃ」
そうはいかなかった。
イカ女とイカ墨オバケがぼくを追いかける。
こんなやつらに挟み撃ちにされたくなぁ~い!
とにかく急いで宝百合ちゃんの後ろに隠れなきゃ。
この世界、ぼくには向いてない。
戦闘とか宝百合ちゃんに任せて、ぼくは楽して生きよう。
「タカシさん、走って!」
「歩いてるように見えるかもしれない。走ってる!」
「嘘でしょ……」
泣きたくなるよ。
運動音痴のヒョロガリが、どうしてこんなに運動しなきゃならないのさ。
別にぼくはダイエットしようとも思ってないからね!?
「泣き言ばかりおっしゃってないで、自力で……えっ!?」
真っ黒オバケは急に速度を上げ、色白魔女に飛びかかった。
そして、衝突。
オバケはぶつかった後、ただの墨になった。
むむっ。
墨まみれ女子って結構オツだねぇ。
「タカシさん……どこですか!?」
「ん? ここだけど?」
「申し訳ありません。わたくし……視界を奪われてしまいました……」
……えっ?
「イカ人が得意とする魔法です。迂闊でした……」
……つまり?
「わたくしにはもうタカシさんをお守りできません!! 逃げてください!!」
「逃がさぬわぁぁぁああああぁぁあ!!!!」
こちらにとっては危急存亡。
敵にとっては千載一遇。
例の鷲さんが、ぼくの尿も乾かぬままに、捨て身の突撃をかまそうとする。
鬼気迫る表情。
ぼくが何をしたって言うの?
どうして、ぼくを憎むの?
ぼくを……殺したいの?
「ああああああああああ!!」
恐怖で心がいっぱいだ!
こんな状況だけど、体は動いてくれる!
だから、ぼくは走った。
ひたすら走った。
「宝百合ちゃん! 助けて! 助けて! 助けてよぉ!」
目をこすってる場合じゃないよ!
墨なんかさっさと取り除けよ!
ぼくは自分で自分を守ることもできないんだぞ!!!
うずくまる宝百合ちゃんの元に辿り着くことはできた。
このまま彼女の背中の後ろに隠れていようか、それとも家の中に入ろうか……。
迷うぼくの耳に、鷲女の声が届いた。
「死ね」
顔を上げれば、間近にやつの顔。
ああ……遂に……
このわけのわからない世界で、
ぼくは何の意味もなく、
無慈悲に、
死んじゃうのか……。
「カーチャン……」
ぼくの目から涙がこぼれ……その瞬間、家の扉が開いた。
「んぐぁっ!?」
小便臭い鷲人間が、開かれたドアにぶつかり、飛んで行った。
ぼくは、呆気に取られつつ、扉の向こうを見つめた。
「何? 呼んだ?」
カーチャン!!!!!!!!!!!!!!!