第67話 親の恋愛事情を知りたくない!
こんにちは。鷹司タカシです。
ロシア軍によるスウェーデン人の拉致を阻止した!
ジュリエットの攻撃を防いだ!
……けど、なんだか様子が変なんです。
「ロミオ……」
ジュリエットはまっすぐトーチャンを見つめてる。
もしかして二人は知り合い?
だとしたら、チャンス!
「ジュリエット! ぼくたち友達だよね♪」
「どうして、ここに……」
「友達だから戦う必要もないよね♪」
「あたし……あたし……」
「友達だから、おっぱい揉ませてくれるよね♪」
「さっきからうるせぇぞ、ガキンチョ!!!!!」
ひぃっ。
怒り任せに、パーティーバッグからまた魔法が放出されちゃうぅぅ……と思いきや、ジュリエットはもじもじもじもじ。
トーチャンを見つめて顔を赤らめたり、顔の左半分がズタボロ状態なのを思い出して、慌てて隠したり。
「今さら隠さなくってもいいじゃんか。ぼくとジュリエットの仲でしょ」
「あんたのために隠してんじゃないっつの!」
じゃあ、誰のために?
その疑問に答えてくれたのはリッキーだった。
「あんたの愛しの人は失明してるぜ」
つまり、トーチャンのこと?
……んん?
トーチャンがジュリエットの愛しい人……?
「わっあっあんたっちょっ」
あからさまに動揺するジュリエット。
だけど、リッキーは口を閉じない。
「あー、なんかイライラするし、あんたの弱味をブチ撒けちまおうかね」
リッキーはにやけながら、
「子供の頃から恋い焦がれた男がいて、だけど、あんたは素直になれなくって、ついつい意地悪をしちゃって、ついに想いを伝えられず、ずるずると恋心を引きずったまま、その年まで独身。惨めな女」
「あ゛ーーーーーーっ!!!!」
ジュリエットは頭を抱えて、大声を出した。
「誰にも言わないって約束したでしょ! なんでそれを言うわけ!? しかも、こんな大勢の前でさぁ!!!」
それは可哀想だね。
もっと聞かせてほしい。
でもでも、どうしてリッキーがそれを知ってるの?
「女には秘密をうっかり打ち明けちまう夜があんのさ」
ふーん……。
男のぼくにはわかんないな。
息子が小さいことは誰にも知られたくないもん。
って言うか、
「親のそういうの知りたくないよ~。まあ、トーチャンに惚れちゃうのは無理もないけどさぁ」
「……え?」
「だって、トーチャンって超美人じゃんか。モテモテなのはわかるよ。なんでカーチャンなんかと結婚したのかはわかんないけど」
「……親? トーチャン?」
ジュリエットは、ぼくとトーチャンを代わる代わる見て、お口をぱくぱくさせてる。
「あんたの好きな人、既婚者みたいだねぇ」
リッキーの言葉がきっかけで、ジュリエットが爆発した。
「はぁぁああぁあぁぁ!!?!?!? あのごっつい女と結婚!!???!? しかも、このガキンチョが息子!!?!?!?? ふっざけんじゃないわよぉぉぉおおぉぉぉぉお!!!」
がっしがしと頭をかきむしって、おっぱいを寄せて、そのまま空に飛んだ。
さよなら、ジュリエット。
と、ここでお別れしたいところだけど、そうもいかない。
きみには是非ぼくの国民となって、世界を救うお手伝いをしてもらいたい!
ぼくは叫ぶ。
「待て、ジュリエット! 逃げるな!」
空中で、彼女の動きがぴたりと止まる。
「……あたしは欲深いジュリエット」
「知ってる」
「この世のすべてのロミオを手に入れるの!! ロミオ! あんた、女を見る目なさすぎでしょぉぉおおぉ!!!!」
勢いよく振り返るや否や、ジュリエットは猛スピードで降下。
彼女が目指すのは……トーチャンだ!
何するつもり!?
告白?
でも、トーチャンはバンバン発砲してる。
「ストーカーを追っ払うのはいいけど、脳天ブチ抜かないように気をつけてよ!」
ところが、トーチャンがブッ放す弾丸を、ジュリエットはパーティーバッグの中に吸収しちゃうんだ。
シェルターの奥へと後ずさるトーチャン。
シェルターの中へと突入するジュリエット。
「あたしだけのロミオになんなさいよぉぉおぉぉ!!」
ぼくもリッキーも瘤瘤も、その他みんなが事の顛末を見届けようと、シェルターに駆け寄る。
負傷してるスウェーデン人達も一緒だ。
他人の色恋沙汰が面白いのって、全世界共通なんだ。
さてさて、トーチャン大ピンチ!
正気を失ったヤベー女の人に迫られ、二人の距離は残りわずか。
逃げて!
もしキスとかされちゃったら、カーチャンに殴り殺されちゃうかもしれないよ!!
「……ふば?」
ちょっと理解しがたいことが起こった。
ジュリエットの伸ばした手がトーチャンを捕らえる直前、そばにあった机が形を変えて……
「人間になっちゃった!?」
これって、うー人が作ってくれた机だよね?
何か魔法をかけておいたの?
いや……うー人は魔法が苦手だ。
となると、残る可能性はひとつ。
学校の門の前にあったポストが喋ったことを思い出す。
それは魔法を使えない人間が変装した姿だったんだ。
じゃあ、これも……?
「……」
「……」
「……」
机だった人はトーチャンにしがみついて、ジュリエットから庇った。
トーチャンも変装名人も無言!
びっくりしすぎて、ジュリエットも無言!
野次馬も言葉が見つからなくて無言!
一瞬の静寂!
銃声が響いた。
「あぐぅ」
弾丸はジュリエットの豊満なおっぱいとおっぱいの間を貫いた。
彼女は倒れた。
血を大量に噴き上げて。
「ジュリエット!!」
「……うっ……さいガキンチョ……」
「恋も命もしぶといじゃん!」
すぐさま駆け寄って、ほっとひと安心。
でも、このままだと失血死しちゃいそう。
助けなきゃ……。
って言うか、どこのどいつだ、こんな非道なことをするやつは!?
変装男性にしがみつかれてたトーチャンに発砲はできなかった。
弾は離れたところから飛んできたっぽい。
もしや……。
悪い予感は的中した。
「アリがゾウを倒す方法があるとすれば、それは数を武器にすることではなく……」
ライフルを担ぎ、ゆったりと歩いてくる大男。
「一瞬の隙を突くことだ」
「澤!」
相変わらず、すごいモミアゲだ。
やっぱりきみだったか。
「トーチャンを痴女から守るためとは言え、ここまでしなくったっt━━」
「動いたらいけんよ」
「あっ、おばs……お姉さん」
これまた懐かしいやつ。
澤と行動を共にしてた女性だ。
鋭利なナイフをぼくの国民の一人に突きつけてる。
ぼく自身に脅しをかけるよりも、周囲の人々の命を脅かした方が効果的だって、彼女はわかってるんだ。
それにしても、
「追い付くの早すぎない?」
「戦闘機に乗ってきたんだ。身体中が痛むぜ」
自衛隊が所有する戦闘機はマッハを超える速度を出せるらしい。
「科学が魔法に勝利するってことだ」
「どうしてそこまでして来たの? きみ達もジュリエット並のストーカーなの?」
「まだお前さんの親父から聞いてないのか? 俺達は表向きには存在しない諜報組織に所属してるんだ。それも普通のエージェントじゃない。極めて特異な事象にのみ対応してる」
例えば、人知を超越した謎の筋肉少女。
人類滅亡を企む宗教団体。
自由自在に変身するネコ。
他には……ロシアとの裏の繋がりを保障すること。
「ロシアとの……?」
「日本政府とロシア政府は長きに渡って、裏取引を続けてきた。それはロシアの石油の購入だ。冷戦時にあろうと、ウクライナ侵略の渦中にあろうと、日本政府はロシアから石油を買い続けた」
「だから? スウェーデンでの拉致も見過ごすって言うの?」
「北海油田の掘削は日本の、ひいては世界の安定に必要不可欠だ。人間は燃料なしには満足に生活できないからな」
なるほど。
理屈はわかった。
狂ってることも理解できた。
シェルターに接近する狙撃手に向かって、ぼくは怒鳴る。
「燃料がいくらあったって、それだけじゃ、人は幸せにはなれない。家族と無理矢理引き離されて、労働を強いられたら、不幸だ!」
「世界の復興を諦めるのか?」
「笑わせないでよ!」
世界の復興?
その「世界」って言葉の中に、日本は含まれてる?
世界を半周する中で、ぼくは知ってしまった。
「核兵器が落とされたのは、有色人種の国と地域だけだ」
「……ふっ」
澤。
きみはそれを知ってたんだね。
このタイミングで真実を知った人々はとても驚いてる。
ぼくの国民の多くは黄色い肌の地上人だもん。
「……平和は犠牲と引き換えだ」
俯きがちに、澤は語る。
「地上人だけじゃないぞ。坊主。お前さんはスカイツリーに地底人がたくさん集まっていた理由がわかるか?」
「……観光かな?」
「地底人の赤ん坊を引っ捕らえて、切り刻んで、スカイツリーに飾ったんだよ。やつらを誘き寄せるために、な」
あまりにも惨い告白が、ぼくに最大級の罵倒を叫ばせた。
「悪魔め!」
昂る気持ちは必死に抑えなきゃ。
だって、ぼくは全人類の里の長。
国民の怒りを宥めるのがお仕事だ。
ところが、意外な様相。
「意外とやるじゃねぇか、お国も」
「ただの税金泥棒じゃなかったんだな」
「いいぞいいぞ。地底の悪魔どもなんか殺しちまえばいい」
「もっと派手に殺したって構わないよ」
多くの地上人が汚い防衛を支持する側に回ってしまった。
自分達が殺されかけたことも忘れたの?
核兵器で家族を殺された人もいるだろうに。
ぼくの戸惑いとやるせなさを察したかのように、ミコちゃんが耳元で囁きかける。
「だったら、おめぇが皇帝ただ一人を犠牲にすりゃいいんだぜ」
「ぼくは……誰の悲しみも……」
「そうすりゃ、もう醜い争いを見なくて済む。世界を救えるのは、タカシ、おめぇだけだ」
光を失ったトーチャン。
出血が止まらないジュリエット。
負傷してる国民。
拉致されたスウェーデン人。
ぼくが……ぼくさえ折れたら……。
「頼む。俺の母親を殺してくれ」
きみにそこまでの覚悟をさせてるんだ。
ぼくが少しくらい信念を曲げてもいいよね?
むしろ、曲げなきゃダメだよね?
うん。
決めた。
ぼくは皇帝をこr……ころこころrこっろkろっろころこrっkろrこrこrこrkろこ……
「すべての人にかけがえのない命があるんだ!」
……違う……。
思ってることと言ってることが違……う。
ぼくが本当に伝えたいのは、皇帝をk……k……
「誰の命も殺せないし、殺させない!」
当たり前じゃないか。
どうして、そんなことがわからないんだ。
命より大切なものなんてない。
この世に生を受けたことに感謝!
「おまぇは何を設定されたんだ……」
絶望しきったミコちゃんの表情が切ない。
でも、言ってる意味は理解できないな。
「人工知能搭載型魔錻羅器は、起動の際に、行動目的を設定されるんだよ。突き止めねぇと……」
悩めるミコちゃん。
彼女はトーチャンに何か質問しようとしたものの、
「どうせ喋らねぇか」
と、ぼそり。
「さっきから、何の話?」
「このクソみてぇな状況を打破する方法だ」
「興味あるなー」
「戦闘を終わらせ、なおかつ、おめぇの謎を解き明かす一石二鳥の方法があらぁ」
「……? 何? どゆこと?」
ミコちゃんは魔錻羅器から、小碓革を取り出した。
「おめぇの母親に会いに行くぞ」