第61話 人を集めたい!
おはようございます! 鷹司タカシです!
総理大臣と方向性の違いで決別しました。
ぼくは新しい国を造ります。
「今の世の中じゃ、あらゆる人の命を守ろうとすると、変人扱いされるでしょ?」
運よく原型を留めてる公園で一休み。
ジャングルジムで遊ぶうー人と忍者じじい。
重傷の狼さんを手当てしたり写真を撮ったりするトーチャン。
ブランコに座ってお喋りするぼくとミコちゃん。
「だから、それを当たり前に実行する国を、ぼくが造る」
「目の前の現実を見ろよ。家も道路もぐちゃぐちゃ。人は死にまくる。回り道してる場合か?」
「近道だって証明してみせるよ」
「具体的には?」
「国を形作るものはたくさんあるよね。例えば、領土とか軍事力、経済力でしょ、食糧に、それから法律……。でも、一番必要なのはh━━」
話の腰を折るのは、上空から響く爆音だ。
ヘリコプターがいっぱい飛んでる。
「これ全部おめぇを捜索してんだろうぜ」
「うん」
「ぼけっとすんな! おめぇんとこの軍隊も、あのいけすかねぇ総理大臣の抜かしてた『世界統一連合軍』ってのに加盟してるはずだ。おめぇは今、世界中から追われてるってこった!」
「おぉ……世界のタカシ……」
「バッキャロ!」
きついツッコミがぼくの後頭部にかまされた。
平気だもーん。
堂々とした態度を取って、ミコちゃんを焦らせまくってやろっと。
「どういうつもりだ? 何もしなけりゃ見つかっちまうぞ!」
「見つかるのは、あの兵隊さん達の方だよ」
困惑の表情を浮かべるミコちゃん。
ふふふっ。
まあ、お空を見てなって。
「来た来たーっ」
予想通り。
ヘリコプターの大群めがけて、どこからともなく、数発の光の球が飛んできた。
青白い光の球。
間違いなくビーム魔法だ。
「ふんすふんす!」
ぼくはおっぱいを寄せて、ビームの軌道を変えてやった。
浮遊魔法の応用だ。
とは言え、更にどんどん発射される攻撃魔法をぼく一人で処理する自信はない。
「お手伝いよろしくね、ミコちゃん」
「なんで俺がs━━」
「世界を救うためでしょ?」
「チッ」
地底人達が空中に姿を現した。
近い距離から攻撃する方針に転換したんだろう。
「次はどうすんでぇ?」
「少しケガしてもらう」
地底人にはほどほどに戦ってもらい、ほどほどに負傷してもらった。
彼らは悔しそうに撤退を始める。
一方、連合軍ヘリはそれを追いかける。
「ヘリコプターは邪魔だね。どうにかして煙に巻くことはできないかな?」
「まさに煙に巻く魔法があらぁ。日曜日の祝祭の前夜祭で、おめぇを揉む揉む団から逃がしてやった時の魔法だ」
「そんなことあったっけ」
ミコちゃんがおっぱいを寄せると、お空が煙でもわもわになった。
ヘリコプターは急旋回。
「それじゃ、みんな、移動するよ」
遊び足りないうー人から、ブーイング。
遊具全制覇は諦めてもらいます。
空飛ぶ狼さん一同を見失わないよう、なおかつ他の地底人に見つからないよう気を配りつつ、筋力強化魔法で爆走だ。
「地底人のアジト的な場所があるはずでしょ。そこに行けば、たくさんの人達を一度に口説ける。ぼくの国の国民になってくださいってさ」
人こそ、国造りに一番必要な要素だもん。
「けっ。話し合いなんざ無駄だって、まだ学習できねぇのか」
「わかり合える人達と巡り会うまで諦めなきゃいいだけだよ。トーチャンもそう思わない?」
「……」
「ねっ? トーチャンも賛成だってさ」
「何も喋ってねぇだろぉが」
尾行すること、およそ5分。
地底人一行は白濁色の岩のような物に入った。
同系統の色合いのビルが建ち並んでるので、ぱっと見だと気づけない。
でも……この材質には見覚えが……。
「まあ、いいや。おっはようございまぁああぁぁぁぁあす!!!」
「おい待て待てぇぇえぇええ!!」
ぼくは正面切って訪問。
ミコちゃん、そんなに慌てなくても大丈夫だよ。
下手に工作すると、却って不審がられるかもしれないじゃんか。
世の中、正直が一番。
岩にぱっくり空いた穴に向かって、もう一度!
「おっはようございまぁあぁあぁあぁぁぁあす!!!!」
善意を送れば善意が返ってくる。
そう信じてたぼくに、電撃魔法が届けられた。
「ほれ見たことか!」
ミコちゃんが引っ張ってくれなかったら、ぼくを直撃してたね。
だけど、居住者をおびき寄せることには成功。
イカ人、甲剛人、鷲羽人が岩から出てきた。
どいつもこいつもケンカ強そうな顔してるから、正直ブル噛んじゃうけどさ、こっちも気合い入れてくよ。
にっこり笑顔で、
「おはようございます! 鷹司タカシです!」
だって、きっとカーチャンなら同じようにしたと思うから。
思い出すなぁ。
カーチャンったら、地底で人に会うたび、
「こちらに引っ越して来ましたぁ♪」
って言ってた。
バカみたい。
あの頃はそう思った。
どうして引っ越し気分なんだよって。
でも、あの姿勢は正しかったのかもしれない。
ただでさえ筋肉ゴリゴリで恐ろしげな見た目のカーチャンだから、態度まで恐ろしかったら、たぶん誰もが身の危険を感じる。
そして、無用な戦いに繋がる可能性がある。
だから、笑顔って大切。
「いぇ~い! きみん家かっこいいねぇ! ぼくも仲間に入れてよ!」
「こいつヤバイぞ。殺すしかねぇ」
あれ?
「いや、でも……殺すか?」
「どうすりゃいいかわからねぇ。殺そう」
「……俺達、言葉が通じてるな? あの皇族人の魔法か? まあ、いいや。殺そうぜ」
ということで、ぼくは殺されることになった。
3人の地底人が殺意を込めて、おっぱいに手をかけた……その瞬間。
「やめなさい」
岩の中から声がした。
優しさと厳しさを兼ね備えた、綺麗な声。
地底人3人はしぶしぶ命令に従った。
とすると、あの声の主はリーダー格かな?
「また会うことになるなんてね」
岩の中から出てきた人物を見て、ぼくは驚いた。
手のような頭部。
紫色の体毛。
六本の手足。
きみは……
「瘤瘤!」
無事だったんだね、と喜びに浸りたいところだけど、彼女の負傷具合は只事じゃない。
片足は膝から下がなくって、杖をついてなきゃ立っていらんないみたい。
あちこちの指が欠損してるし、身体中が傷だらけ。
「全然無事じゃないね」
「命に別状はないから平気よ。付いてきて」
「えっ」
瘤瘤は岩に入っていく。
挨拶もそこそこにルームインだなんて、積極的だな。
女子のお宅にお邪魔するってドキドキする。
「いややっぱ思ってたのと違う」
お邪魔した先に、きゃぴきゃぴした物はなかった。
負傷した地底人が所狭しと暮らしてるだけだった。
七手土吐人の卵を素材にして、ベッドがたくさん造られてるだけ。
「こいつら、辛気くさい」
うー人、思ったことをそのまま口にしちゃダメだよ。
めちゃめちゃ睨まれちゃったでしょ。
そして、その遠慮のない視線はミコちゃんにも注がれてる。
「ミコちゃんてあんま慕われてないんだね」
「ふん。皇帝が自分勝手な理由で地底を壊したんだ。皇族人に尊敬が集まるわけねぇだろ」
「でも、おかげで、私は自由を手にすることができた」
瘤瘤の表情はどこか悲しげだ。
「七手土吐人は4万年の間ずーっと塔を造り続けてきた。それ以外のことには一切目もくれず。それを仕事熱心という言葉で表現するのは間違いね。……ただ誰もが辛い現実から目を背けてるだけだった」
同じことを繰り返す毎日。
終わりの見えない塔建設。
救いがないなら、せめて、誰もこの地獄から脱け出させまい。
そんな腐った根性が七手土吐人の正体。
ただ一人を除いて。
「同じ親から生まれたのに。同じ日に生まれたのに。同じ釜の飯を食べて育ったはずなのに。……あいつだけは自由を欲してた」
「銑銑のことだね」
「ずっとわからなかった。あいつが外の世界を目指す理由が。だって、敷かれたレールの上を生きる人生って楽でしょ。未知の世界に行くのは恐ろしいでしょ。そんなこともわからないバカなんだなーって思ってた」
そして、彼の夢はきのう潰えた。
瘤瘤の放った一撃によって。
彼は瘤瘤に回復魔法とたった一言を残して、命を散らせたんだ。
「俺の人生、何だったんだよ……」
瘤瘤は苦しんだ。
どうして自分に仕返しするどころか、回復させてくれたのか?
どうして苦悩に満ちた言葉とは裏腹に、彼の瞳は優しげだったのか?
その答えが彼女にはわかったから。
「ほんっとバカなやつ。結局、あいつが求めてたのは自分の自由じゃなくって、私の自由だったってわけ。きゃははは。くっだらない。私なんかのために……」
大粒の涙が零れ落ちる。
ぼくは立ち上がって、彼女の肩を抱いた。
心を通わせ合うには、これで十分だった。
「それで? 自由になったおめぇはこれからどうするってんだ?」
空気を読まないミコちゃん。
あのさぁ……。
「私はもう自由を知った。自由とは、親や社会の呪縛に縛られず、自分の生きたいように生きること。私は体を張って他人の命を守る人間になりたい。……銑銑のように」
「うん。わかった。じゃあ国民になってよ」
「……??」
「ぼく、国を造るんだ。すべての争いを終わらせるためにね」
「そう……。それ、いいと思う。この混沌を地底の人類だけで治めることはできないと思うから。……だから、地上人とも手を組まなきゃいけない」
ぼく達は頷く。
よし。
これで勢力が増えた。
さあ、ここから更に頑張るぞ。
……と気合いを入れたところで、衝撃の告白。
「既にその想定はしてたから、頼もしい地上人を保護しておいてあげたの」
「えっ? 誰?」
「この人よ」
岩内部の奥の奥。
人の目から隠すように寝かされた、その人は……
「リッキー……!!!」




