第55話 あの素晴らしい日常に戻りたい!
水製都市で、力石の姐さんから、魔法の使い方を教えてもらった。
「魔錻羅器を装着した状態で、使いたい魔法を具体的に想像しながら、胸を寄せるのさ」
この時は使いたい魔法ってのがピンと来なかった。
だって、人を傷つけるのは嫌だし、えっちな魔法は習得したいけど今はそれどころじゃないし。
ぼくは宝百合ちゃんの亡骸をぎゅーっと抱きながら、力がほしいと願った。
それと同時に、骨と皮だけの薄っぺらな胸を寄せてたんだ。
僕は無意識に魔法を発動した。
「……ぼく、胸が膨らんでる……」
おぉ……おっぱい!
カップはC!
全体的に色白のおっぱい!
……やけに色白だな。
インドア派だから、あんま日焼けしてないとは言え。
そんなことより、これからどうすべきなんだろう?
おっぱいは魔力だ。
これだけの魔力があれば、たくさん魔法を使えるよ。
でも……千祚代ちゃんが言ってた。
「しっ死んだ人を生き返らせる魔法はなっないんです」
無理に蘇生しようとおっぱいを寄せたところで、精々、宝百合ちゃんがやってたゾンビ化魔法にしかならないだろう。
宝百合ちゃん、もうきみとお喋りすることはできないんだね。
下半身をなくして、残った上半身はボロボロで、血まみれで、おっぱいはすかすかで……え?
「それじゃあ……これって……」
「誰か手伝いやがれぇぇええぇえぇぇぇぇ!!!!」
声の主はミコちゃん。
あ、そっか。
戦いはミコちゃんに任せっきりなんだった。
だってだって、うー人は薄情でへらへらしてるし、忍者のじじいは記憶喪失であうあうしてるし、銑銑は重傷でぜえはあしてるんだもん。
悲しいけど、宝百合ちゃんの死亡でゾンビ魔法が解除されたのは不幸中の幸い。
それでも、ジュリエット、リッキー、瘤瘤の暴走は凄まじい。
ぼくに攻撃が当たらないで済んでるのは、ミコちゃんがやつらの攻撃魔法を捌いてくれてるからだ。
もちろん、放っておけない。
不帰池から出る。
ついさっきまでのぼくなら、こんな大事な時に誰の力にもなってあげられなくて、ただただ右往左往してた。
でも、今は違う。
「とうとう揉めるぞ……!」
生まれてから今まで、ずっと揉みたい揉みたいと思いながら、だけど、おっぱい勧誘に失敗し続けたために叶うことのなかった悲願!
こんな形で叶うとは思わなかったよ。
ぼくは魔女を砂の上に置く。
「ごめん。きみのおっぱいはぼくが奪っちゃった。揉ませてください。大切に……大切に揉むからね」
忍者老人と銑銑を見守ってて。
そう、うー人に指示を出してから、ぼくは空を睨んだ。
この状況を完璧に処理する魔法を想像しながら、揉む!!!
「ほへぇ!!!!!」
これがおっぱいの感触かぁぁああぁあぁぁぁあぁぁぁ!!
ふむふむなるほど思ったより柔らかくはないんだなあでもまったく柔らかくないわけじゃなくってむしろ確かに柔らかさは感じるんだけどプリンというより粘土に似てるというかほんの少し硬さがある気がするそれはもしかしたら子供のうちはおっぱいの中に芯があるとか何とかっていうどこかで入手した知識が正しいのかもしれないやわかりやすく例えると果物は熟してないと硬くて熟すと柔らかくなるってことでも逆に言えばこの硬さは鮮度抜群の証明だよねんふふふふたまんないなあっとここで魔法発動だ!
「何だい、こりゃぁ!?」
「体が言うことを聞かないっ……!」
「だあぁあぁぁあぁ!! やめてちょうだい、このダサイ踊り!!!」
フォークダンス♪
リッキー、瘤瘤、ジュリエットを地面に降ろして、ダンスさせる魔法だよ♪
おっぱいを寄せさせず、戦いをやめさせ、なおかつ親睦を深めるには一緒に踊るのが一番じゃない?
根拠は特にない。
「わっははははは!」
一人ぼっちの戦闘から解放されたミコちゃんはご機嫌。
「的確で強力な魔法だ。流石だぜ、タカシ。人間わざじゃねぇや。おめぇはn━━」
「フォークダンスに3人は少ないよね?」
「うぉい!?」
ミコちゃんも混ぜちゃえ。
「ファンクゥアァン!?」
「……ん? ごめん、わかんない」
「テー!!」
「あっ、そっか」
お互いの言葉が通じなくなるのは地底世界崩壊の兆し。
それを可能にしてたのは皇帝の魔法は解除されたもんね。
いつの間にか、うすら寒い。
太陽光が弱くなってるんだ。
この調子で行くと、転移魔法発動の前に酸素不足で死んじゃわない?
ぼく、酸素がないと生きるの無理だよ?
心配無用だった。
「遅いよ、皇帝」
樹木と一体化した皇帝。
塔と不帰池の間で立ち止まり、垂れぱいを寄せた。
「眩しっ」
夕焼けの中、「有意遺跡」の塔が乳白色から真っ白な光へと、纏う姿を変える。
その光はまっすぐ上昇し、やがて太陽と繋がった。
「ぼくの出番だ!」
皇族人のおっさんに指示されたことを思い出す。
ぼくは池の中の鍵穴に入らなきゃいけない。
でも、うー人の協力は要らないよ。
魔法の力で泳ぐから!
「がぼぼぼぼぼぼぼぼ」
無理だった。
「うーはっははは」
「こいつ、バカ」
「大事な時なのに、溺死」
「うーける」
言葉が理解できて悲しい!
笑ってないで助けてよ!
「これはしょうがないのがぼぼ! だって自分が泳げるイメージがぼぼ湧かないんだもんがぼぼぼぼぼ」
「こいつの不幸、面白い」
「うー、こいつ助けてやる」
「うー!」
うー人一同、不帰池にどぼぼん!
ぼくを引っ張って、すいすい水底まで連れてってくれた。
友情って美しい。
「がぼっ!?」
感動してたら、無理矢理、穴の中にぐいぐい押し込まれた。
ひぃぃいぃ。
ここ怖い!
真っ暗だもん!
なんにも見えないもん!
あっあっそんなご無体な。
いけないよ。
ダメダメ。
そこ引っ張らないで。
激しく回さないで~!
「がぼぼb……ぶはあ!?」
気づいたら空高くにいた。
振り返ると、そこにはあるのは……暗闇。
ブラックホール??
いや、これは太陽だったものだ!
太陽が地上に繋がる穴になったんだ!
そこにぼくが瞬間移動。
……皇族人のおっさんが言ってた通りだ!
転移魔法発動は成功したんだ!
大きな穴がぼくをゆっくり吸い込もうとするから、落下することなく、むしろ空中に浮いてられる。
ふと、四方八方から飛んでくる地底人類が見えた。
とんでもない数だ。
これ全部が地上に転移して戦争が勃発なんてことになったら……。
「おぉーい! みんな聞いて! 地上の人達はきみ達と敵対するつもりはないよ! ねっねっ。仲良くしよう! 戦ったって、お互い傷つくだけだ! だから、手を取り合っt━━」
全速力で飛んできた甲剛人にぶん殴られた。
そして、そのまま、その人は暗い太陽の中に突入して、消えた。
「あのっ、痛い、お願い、聞いて。いだだだだ。4万年前に地上人とみんなで戦争してたとか言っても、それはもう終わったこと。げへぇ。殴らないd━━あんぎゃあ。蹴るのもやめて! ちょっ……スルーしないで話を聞いて!」
あちこちの里から来る多種多様な人類。
ネアンデルタール人、イカ人、力士っぽい亀人間、上半身が魚で下半身に2本足の人種、狼少年、カマキリ人間、タコさんなどなど……。
誰も、ぼくの言うことに耳を傾けてくれない。
全員、穴の中へ。
わかるよ。
今は地底の世界が崩壊しそうで、それどころじゃないって。
でも、お願いだ!
「平和は何よりも尊いんだ!!!!!」
「悪魔が平和を語るでないわ!!!!!!」
怒声とともに放たれたビーム魔法。
咄嗟におっぱいを寄せて、浮遊魔法でそれを回避した。
聞き覚えのある声だ。
随分と抜け落ちた羽毛、無数の傷が、ここに至るまでの死闘を物語ってる。
復讐連合の頭。
「生きてたんだね……。よかった。ねえ、聞いて。ぼくは地底と地上の人達を繋ぐ架け橋になりたいんだ!」
「黙れ、悪魔! 散々人を殺しておいて、戯けたことを抜かすでないわ!」
「ぼくがきみの仲間を殺したわけじゃない……って言っても、ぼくと同じ地上人の仕業だよね。ごめん。……でも、だからこそ、きみは失うことの辛さをよく知ってるはず! ぼくと手を組んでくれない!?」
「悪魔と人の同盟が未来を明るくするものか!!!!」
「俺は賭けてもいいぜ」
取り付く島もない鷲羽人と違って、話のわかるのが銑銑!
ミコちゃんが浮遊魔法で連れてきてくれた。
ミコちゃんは両腕を交差させるようにおっぱいを寄せ、右手で銑銑、左手でじじいと手を繋ぎ、そして2人はうー人と手を繋ぎ、うー人はうー人同士で手を繋ぎ、大きな輪になってる。
銑銑は痛みに顔を歪ませながら、
「タカシは悪いやつじゃねーよ。俺が自由になるために協力してくれた。何かに縛られる窮屈な生き方じゃ、幸せになれねーぞ? あんたも一緒に来いよ」
「ふん。自由を云々する必要などないわ。我にはこの道しかない故。他には何も……失うものなど何もない」
「けっ。お堅いやつだぜ。お前もこんな風に、自分で自分を縛っちまってんじゃねーか? あん?」
七手土吐人の少年が言葉を投げ掛けたのは、双子の片割れ。
「むしろ逆じゃない? 私は自由になりたいもの。血とか里とか……いいえ、むしろ、この世界のすべてから。……だから、滅ぼす」
瘤瘤も重傷。
ふらふら宙に浮かびながら、傷だらけのおっぱいを寄せて、銑銑に対して攻撃魔法発動の構え。
むっ。
もう一度踊らせてやろうか。
「おい、タカシ!」
「何? 邪魔しないで!」
ミコちゃんがぼくと瘤瘤の間に割り込む。
「聞け! おめぇは人間じゃねぇ!!!!」
「……ふぇ?」
太陽だった穴の吸い込む力が強くなる。
ぼくは一気に引きずられる。
静寂。
本当は普通に音がしてるんだろうけど、ぼくの耳には入らない。
世界のすべてがゆっくり動く。
体が言うことを聞かない。
瘤瘤が放ったビーム魔法が銑銑を直撃。
銑銑の肉体が弾ける。
何も聞こえない中、死にゆく少年の呟きだけが、はっきりと聞こえた。
「俺の人生、何だったんだよ……」
銑銑が瘤瘤のために回復魔法を発動したのを見届けると、ぼくは完全に穴の中に飲み込まれた。
違う。
違う違う違う違う違う違う!!!!!!
こんなはずじゃなかった!!!!
ぼく、せっかくおっぱいを手に入れて、魔法を使えるようになって、これでたくさんの人を助けられるって思ったのに。
どうしてぼくは無力なの?
目をぎゅっとつむり、ごしごし涙を拭いて、目を開けた。
そこに広がる景色は闇じゃない。
「土の壁……??」
これって、地上から地底に来た時と同じ……いや、今度は土の中を上昇してるけどさ。
だけど、おかしい。
周りを見渡してみても、誰もいない。
あんなに大勢の人がいたのに。
「……あ」
やがて、ぼくは地上に辿り着いた。
大きな穴から、地面の上へと体が自然に移動した。
久々の地上の大地。
夢にまで見た元の世界!
「……あは。あはは。はは……。あーっはははっはっはっは!!! 帰ってきたぞぉぉぉおぉぉぉぉおお!!!!!!」
いやー、疲れた疲れた。
長い旅だった。
ま、終わってみれば呆気なかったかもね。
すっかり夜になってるし、ちょっと寒い。
もう寝よう。
「……あれ? 家は?」
家があるはずの場所には大きな穴が。
どうして……?
「カーチャン!! 家がないよ!!!! あと、お腹が空いた!!! ねえ!!」
筋肉ゴリゴリのうるさいカーチャンがいない。
ヒョロガリの無口なトーチャンもいない。
どこに……?
「何あれ? 変なやつらが暴れてるぅ!」
化け物どもが、聞いたこともない言葉を発しながら、手当たり次第に魔法のような攻撃をかまして、建物を破壊、人々を殺害しまくってる。
夜空に色とりどりの光が炸裂する。
一体なにが……?
「あいつら、おっぱい揉んでるじゃん。ははっ。ぼくにもおっぱいがあるや。ははは。夢かな? はは。ははは……。あ゛あ゛あ゛ぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
受け入れたくない現実がそこにはあった。
言葉はもう通じない。
戦争はもう始まってる。
地上はもう荒廃してる。
これじゃないこれじゃない!
これじゃないよぉ!!!
ぼくは単調な、それでいて平和で和な、当たり前の日常に戻りたかっただけなのに……それが今やおっぱいを寄せて戦う人間達の世界になっちゃった……。
ここは地上世界と言うより……そう、言ってみれば……
「おっぱ異世界」
これにて第3章は完結です。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます。
少しでも「おもしろい」「続きが気になる」「おっぱい最高!!!」などと思ってくれましたら、ぜひぜひ評価とブクマをお願いします。
次の章にもご期待ください♪