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おっぱ異世界  作者: えすくん
第3章 不自由の塔
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第53話 人種の壁を越えて共闘したい!

 こんにちは。鷹司たかつかさタカシです。

 ぼくは乱暴なカーチャンを見捨てて、皇族人のおっさんとともに不帰池かえらずのいけに来ました。

 そこで再会したのは、かわいいうー人と、記憶喪失の白人忍者でした。



「がぼぼぼぼぼぼぼ」



 忍者じじいは多分悪さをしないだろうということで、皇族人のおっさん監視の下、命をられずに済むことになった。

 だから、ぼくは安心して泳ぎの練習に打ち込める……と思いきや、ひたすらおぼれてる。



「うーける」

「もっと、もっと苦しめ」

「うーははは」



 他人の不幸が大好きなうー人は大喜び。

 応援してくれないどころか、罵声を浴びせてくる。



「びどいじゃな゛いがぁ!!」



 死に物狂いで陸に戻り、うー人に苦情を叫んでみたものの、爆笑しか返ってこない。

 なんて冷たいやつらなんだ。

 池の水より冷たいぞ。

 この前、うー人の里から蜂を追いやった恩を、もう忘れたのかい!?



「それ、もう意味ない」

「この世界、無くなる」

「バーカ」



 そうだった……。

 それじゃあ、恩知らずと責めることはできないね。

 だけど、ちゃんと地底のみんなが地上に行けるようにするために、手伝ってくれたっていいじゃないか。

 うー人にも無関係なことじゃないんだよ?



「めんどい」

「お前が苦しむ、うー笑う」

「暇潰し」

「うー!」



 畜生め!



「何なの? なんでそんなに意地悪なの? あっ、もしかして、うー人もカナヅチなんじゃないのぉ??」



 悔しくってあおってみた結果……



「「「「うー」」」」



 華麗に泳ぐうー人達の姿をまざまざと見せつけられることになった。

 トビウオのように飛び跳ねたり、サメのように身をくねらせながら急進したり、シンクロナイズドスイミングのように息ぴったしで踊ったり、まるで水中であることを感じさせない自由な泳ぎっぷり。



「上手い……上手すぎる! 何これ? 魔法??」

「魔法じゃない。うー、陸上でも水中でも生きる」

「えーっ!」



 確かに、うー人ったら息継ぎを一度もしてないもん。

 陸に上がって、体を震わせて水を飛ばすうー人に、ぼくは土下座して、



「お願いお願い! 泳ぎ方を教えてよ!」

「見返り寄越よこせ」

「ひどい!」



 泣き落としの通用する相手じゃない。

 びへつらってもダメ。

 じゃあ、何が目当てなの?



「不幸話、聞かせろ」



 そうだった。

 見た目は癒し系、中身は性悪のこの生き物は、他人の不幸話が三度の飯より好きなんだ。

 とは言え、ぼくが頑張ったところで、話が長いだのつまらないだの言われるに決まってる。

 ということなので……



「おっさん、どうぞ」

「えっ」



 事の成り行きを黙って見守ってた皇族人のおっさんに、パスを出した。



「笑顔が凍りついてるし、すごい不幸な経験してそうだもん。ほらほら、話してみてよ!」



 戸惑った様子を見せたのは一瞬。

 任務遂行のためには避けて通れぬ道と判断したんだろうね、不幸そうな笑顔のまま、彼は語り始めた。



「ぼくは皇族人だから、子供の時から遊ぶ暇がなくてね、ずっと仕事と勉強漬けの日々を送ってきたんだ」



 なかなかいい出だしだ。



「唯一の趣味は時たま皇居で見かける虫を観察すること。土の中だから、当然あそこには種類豊富な虫がいてね、それを就寝前にうつらうつらと眺めていると、とても癒されるんだ」



 ふむふむ。



「中でも大好きなのが玉虫。これは肌がキラキラ輝いてる、とても美しい虫なんだ。見つけたら側に寄って観察したり、エサをやったりしてた。幼い頃はそれで満足だったんだけど……長ずるにつれて、ふと、ある好奇心を抑えきれなくなったんだ」



 相変わらず、おっさんの笑顔は凍りついてる。



「この綺麗な虫の中身は、一体どれほどの美を秘めているんだろう……ってね。言うまでもないけど、それを確かめるためには、虫を解剖しなくちゃいけない。命を殺すっていうことだ」



 ……。



「ぼくはね、誘惑に弱い人間なんだ。ある日、とうとう、玉虫を解体してしまった。そうしたら……あははは! なんのことはない、ただの汚い死骸のできあがり!」



 話を終え、おっさんはうー人に問う。



「面白かったかい?」

「根暗はゴミ」

「……」

「つまらん」

「……」

「帰れ」



 評価は散々だった。



「ごめんね、タカシくん」

「いや……こっちこそ、なんかごめん」



 不幸話で交換条件作戦は無理のようだ。

 もうどうすればいいの……。

 悩むぼくの耳に、気色の悪い声が入ってくる。



「あうあうあー」



 落ち込むおっさんの足元で、砂遊びをしてる白い老人だ。



「あれ? そう言えば、どうしてうー人はこのじじいを助けてあげたの? まともにしゃべれもしない状態だよね、この人……」



 どうせろくな理由じゃないんだろうなと思ったら、案の定、



「こいつ、存在自体が不幸」

「石をぶつけて遊べる」

「頭がおかしいやつ、面白い」

「うーける」

「うーははは」



 今はお目目をキラキラさせちゃいるけど、相当ひどい目に遭わされたんだろうな、このじじい。



「むっ」



 ここで、賢いぼくはひらめいた。



「うー人、地上に行くために協力してよ。一緒に地上に行こう!」

「見返り寄越よこせ」

「地上に行くことが見返りだよ!」



 うー人は他人の不幸が大好きなんでしょ?

 だったら、



「地上には数えきれないくらいたっくさんの不幸があるんだよ。戦争、不況、家庭内暴力、利権政治、交通事故、凶悪犯罪、飢饉などなど。どう? 見たくない??」



 途端とたんに、うー人達の目が輝き出した。

 よし、もう一押しだ。



「そして、地上の人達は魔法が使えない!!!」

「「「「「うー!!!!!」」」」」



 うー人の笑顔が弾ける。



「うー、手伝う」

「何でもする」

「お前、いいやつ」

「地上人の不幸、楽しみ」

「うー」

「わくわく」



 わぁ、うー人ったら、とんでもなく性根が腐りきってる。



「じゃあ、ぼくに泳ぎを教えてk━━わわわっ」



 小さなうー人達がぼくの足を押して、池の中へ招待する。

 ヤバイ!

 またおぼれちゃうっ。



 そんな心配は無用だった。



「わわっ……」



 ぼくの身体中にしがみついたうー人達が泳いでくれて、ぼくは何もせずに水中を進み、水の上を飛び、水底を見学することができた。



 底には穴があった。

 これが鍵穴なんだろうけど、形は真ん丸。

 どこまで続いてるのかわからない不気味な穴だ。

 ここに入らなきゃいけないのは正直怖いよ。



 水中ツアーは大満足で終了。

 だって、これなら、ぼくが泳ぎ方を教わる必要ないじゃん。



「ねえ、うー人。本番で、ぼくのことを水底まで連れてってよ。あ、なんなら左に回すところまでやって」

「見返りは……」

「地上に連れていくこと!」



 こうして、ぼくは地上に行く算段をつけ、後は皇帝の到着を待つだけ。



「行ける……行けるぞ! この作戦は必ず成功する!」

「「もうおしまいだぁぁぁあぁぁぁぁあああぁ」」



 希望に満ちあふれたシーンを台無しにしたのは、石から飛び出してきた双子。

 彼らは恐怖に震えてる。

 顔や体にはたくさんの血が付着してるものの、2人の出血じゃない。

 返り血。



「もう終わりだぜ、この世界!」

「やっぱり地上人は凶暴な悪魔ね!」



 ぼく向かって飛び寄る双子に、言葉をかける暇もない。

 双子に続いて石から姿を現したのはカーチャン。



「最低だよ、あんた……」



 ぼくの口をついて出たのは、罵倒。

 なぜなら、カーチャンは全身血塗れで、ほっかほかの湯気をまとってるからだ。

 ぼくの最強のカーチャンがボコボコにやられる?

 そんなことありえない。

 だったら、答えはひとつ。



「また人を殺したの!?」

「あんたも殺す!!!!」



 てっきり、ぼくに対しての殺害予告かと思って、心臓ばっくばくになったけど、勘違い。

 カーチャンの視線の先には……



「じじい! 逃げて!」



 緊迫した状況もなんのその、のほほんと砂遊びをしてる忍者のじじい。

 もうこいつには戦闘の意思がないのに。

 ただのボケ老人なのに。



 説明してる余裕がないなら、まずは力ずくで制止するしかない。

 だから、皇族人のおっさんがっぱいを寄せた。



「こんなもの! こんなもの!」



 カーチャンはあっさり攻撃魔法を手刀でばっさばさ斬り落としながら、年老いた白人めがけて走る。



「死になさい!!!」

「待って!!!!」



 考えるよりも先に体が動いてた。

 ぼくは飛び出して、カーチャンの進路をはばんだ。

 両手を大きく広げて、



「これ以上の虐殺はダm……あ、あれ?」



 意外なことに、カーチャンは急旋回して、そのまま走り去った。

 どこ行くの?

 おしっこ?



「あいつ……塔を壊すつもりね!」



 気づいたのは瘤瘤こぶこぶ

 なるほど。

 カーチャンは一瞬でじじいの状態異常を見抜き、最も効率的な方法を弾き出し、行動に移した。

 凄まじい頭脳の回転速度。

 そして、それを可能にする筋力。

 うーん、恐ろしい。



銑銑ずくずく! あいつを止めなきゃ!」

「私達の誇りが~だろ? 勝手にやってろ」

「バカ! 塔が破壊されたら、あんたが地上の世界に行く方法もなくなんのよ!」

「でも、建伊和命たけいわのみこと小碓革おうすかわとかいう魔法道具を持ってんだろ?」

「あんたのために使わせてくれると思う?!」

「あいつを止めねーと!」



 そう言いながらも、双子は動き出さない。



「だって、あんな化け物、どうやったら止められるの……?」



 同感だよ。



「ねえ、おっさん。塔って破壊されても大丈夫だったりしない?」

「残念だけど、大丈夫だったりしないね」



 おっさんは肩をすくめて、



「あの塔がなくちゃ、巨大な転移魔法を発動させることはできないんだ」



 だったら、塔を守るしかない。

 現実的には、まず七手土吐人ななたはばきじんの避難を実行すべきだ。



「避難なんて誰もしないと思うぜ」



 呆れたような顔で、銑銑ずくずくが語る。



「俺の里はよ、どいつもこいつも塔建造のために人生を賭けてやがるから。瘤瘤こぶこぶみてーに、な」

七手土吐人ななたはばきじんのあるべき姿でしょ」

「けっ」



 とっくに塔は魔法道具として使える段階だってのに。

 ぐだぐだ言っても、きっとぼくの主張は彼らに通用しないだろう。

 ぼくが彼らの価値観を理解できないように、彼らはぼくの価値観に納得しないだろうからね。

 どうしてかな?

 命より大切なものなんてないはずなのに……。



 訪れた沈黙。

 それは間もなく去った。

 爆音だ。



「ひでー……」



 それは塔が破壊された音。

 とっても硬い素材でできてるはずなのに、まるでおもちゃのように崩れゆく。

 煙が巻き起こり、やや遅れて音が耳に届く。



 ぼく達は無言のまま立ち尽くす。

 ……うー人は大歓声を上げてるけど。



「ぼく、行かなきゃ━━」

「ダメだよ」



 一歩踏み出したぼくを止めたのはおっさん。



「『鍵』を失うわけにはいかない。ここはぼくが行こう」

「……大丈夫なの? カーチャンに勝てそう?」

「一応、作戦はあるんだ。もしここで死ぬとしても、本望さ」

「おっさん!」

「タカシくん、きみにはわからないかもしれない。ぼくはね、もう生きているのがつらいんだ。すべてをここで終わらせたい。お国のために命を捧げられるのは願ってもないことなんだ」

「……」



 言葉が出ない。

 凍りついた眼差しを見てしまうと、何か言ったところで、おっさんの心には響かないと思ったから。



「俺も行くぜ」

銑銑ずくずく!」

「自由に世界を冒険するのが俺の夢なんだ。安全圏にいて生き延びることよりも、死んでもいいから夢を叶えたい。じゃーな」



 当然のように、瘤瘤こぶこぶも続いた。



「タカシくん、最後になるかもしれないから、はっきり言っておくね。私、命よりも人としての誇りが大事だと思う。命なんてね、誇りを貫き通すための道具に過ぎないの」



 三者三様の言葉を言い残して、魔法で飛び立った。



 命よりも大事なものがある?

 理解できない。

 受け入れられない。

 でも、どうすることもできない。



 ああ、ぼくは無力だ。



 オアシスにうー人の笑い声が響いた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うーじんヒデェ! ジジイ、保護されてたんじゃなくイジメられてたんか(´;ω;`)! 塔をひとりでブッ壊すカーチャン。なんで敵にした瞬間にこんな無双状態に(^_^;)!?
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