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おっぱ異世界  作者: えすくん
第3章 不自由の塔
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第52話 命は重いと叫びたい!

 こんにちは。鷹司たかつかさタカシです。

 崩れゆく地底世界の中で、帝都人民全員から追われ、逃げ惑ってましたが、ぼくはある決意をしました。



「ぼくは皇族人側につく。この地底の全人類を地上に転移させる作戦に、協力する!!!!」



 この選択に後悔はない。

 完璧ではないけど最善。

 不完璧かつ最悪なのは、おっさんに抱き抱えられてることくらい。

 できればお姉さんのおっぱいむぎゅーを味わいたk━━



「おバカなことを言うんじゃありません!!」



 妄想を邪魔するのはカーチャン。



「地底のやつらは地上侵略をしようって計画してんのよ!! あんた、誰にも死んでほしくないんでしょ!?」



 激おこ……というよりは困惑して取り乱してるような感じだ。

 これなら怖くはないぞ。



「ぼくは地底の人にも地上の人にも死んでほしくない! どこに住んでいようと、命の重さは同じだからだ! だからと言って、皇帝を説得するのは現実的じゃない。意志は固そうだし、それに正直、何万年も地底世界を維持するお仕事をしてたことに同情もするよ」

「だったら……だったら塔を壊せばいいじゃない!! あれさえなければ、地底世界と地上世界を大きな穴で繋ぐことはできなくなるもの!!」



 この案に激昂したのは瘤瘤こぶこぶ

 4万年もの長きに渡り塔造りを担ってきた人種の末裔として、破壊行為なんて認められるわけがなかった。

 瘤瘤こぶこぶはおっぱいを寄せて魔法を発動すると、しがみついてたカーチャンから離れて、自力で空を飛んだ。



「私もタカシくんと皇族人側につかせてもらう!」



 その提案を拒む者はいない。



「俺はどうすりゃいいんだよ??」



 情けない声を出して、銑銑ずくずくが皆の顔を見比べる。



「バカね。あなた地上に行きたいんでしょ? だったら、私と同じように、その筋肉クソ女から離れればいいじゃない。まあ、七手土吐人ななたはばきじんが地上に行く必要なんてないけど」

「さっすがガリ勉。んじゃ、ここまで運んでくれてありがとよ、おばさん。まあ、俺は人種なんかに縛られずに生きるけど」

「誇りを捨てる気!?」

「地底は崩壊するんだろーが!!」



 こんな時でもケンカしちゃうんだから、すごいメンタル。

 2人のことは放っておいて、ぼくはカーチャンの提案に反論しよう。



「確かに、塔を壊すことができれば、皇帝が通れるくらい大きな穴は作れなくなる。でも、いつか塔は再建される……でしょ?」

「塔ができるまでには4万年もかかったって言うじゃない。作り直すのにも、それだけの時間がかかるでしょうし、その間は安心して暮らせるわけよ!?」

「だから、将来の人々の平和を無視して、自分達だけ気楽に生きればいいって?」



 そんなのおかしい。

 今この時代に存在する命が大事なのはもちろん、未来に生きる命だって、やっぱり大事なんだよ。

 だから、ぼくは地上に繋がる穴を空けようと思う。

 地上に行ってからのことは地上に行ってからでいい。

 和平交渉だって何だって成し遂げてみせる。

 とにかく、もう目の前で人が死ぬのを見るのはうんざりなんだ。



「だから、この道しかない!!!」



 ぼくの決意を感じ取った皇族人のおっさんが、目的の地に通じる石をぼくの頭に叩きつける。



「タカシィィイイイィィィ!!!!」



 別れ際に聞こえたカーチャンの咆哮。



「あんたを取り戻すためなら、何人でも殺すわぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁ!!!!!!!」



 さよなら、カーチャン。



     *     *     *



 まばたき一回で、ぼくは別空間に移動した。



「オアシス……?」



 ここはミコちゃんが言うところの目的の地。

 不帰池かえらずのいけって名前をなんとなく不気味に感じてたけど、実態はそんなことない。

 石の上に座ったまま眺める景色は、淡い緑の草や風にわさわさ揺れる木々、澄みわたる大きな池といった具合に、むしろ心地いいものだった。

 少し遠いところに目を向けると、果てしなく続く砂漠、そして……



「まさか……有意遺跡の塔!?」

「そのまさかだよ」

「おひょぁん」



 突然、お尻の一番敏感な部分を、柔らかい物が突き上げてくる。



「おや、失礼」



 それは皇族人のおっさんだった。

 石からすっかり全身を現すと、おっさんは悲しい報告をした。



「きみのお母さんが暴れてるんだ」

「やっぱり……。一人二人死んじゃった?」

「二、三十人かな」

「ヤバイ」

「皇族人も宮仕えも、一般人より断然鍛練してるはずなんだけどねぇ。あ、あの双子は無事だよ。なかなかここへ転移させるすきがないんだ」



 カーチャン、ひどすぎるよ。

 親の心子知らずとは言うけど、あまりにも理解できない。

 元々暴力でしつけするタイプの親だったけど、まさか殺人を犯すまでになるなんて……一体どうして?



「ところでさ、あそこに見えてるのは本当に塔なの?」

「そうだよ。さあ、こっちにおいで」



 ぼくは池に近づきながら、質問を重ねる。



「塔の近くなんだったら、わざわざ石で『道』を経由しなくてよかったんじゃない? 今は一刻を争う状況なんだからさ!」

「そうもいかない。このオアシスから塔を見ることはできても、塔からこのオアシスを見つけることはできないんだ。隠蔽いんぺい魔法がかけられてるからね」



 見えなくったって必死で探せばどうにかなったんじゃないの?

 さすがにそれを尋ねるのは控えた。

 もし砂漠で迷子になったら……ぞっとするよ。



「さて、タカシくん」



 池のほとりまで来たところで、おっさんは立ち止まる。

 そして、池の水をごくごく飲みながら、



建伊和たけいわはきみに扉の鍵を閉めさせようとしただろうけど、ぼくがお願いするのは鍵を開けることだ」

「完全に理解してるよ」

「よろしい。では、具体的な手順を説明しよう。この大きな池の底に鍵穴がある。きみはそこに入って左に回りなさい」

「無理です」

「えっ」



 拒否られることが意外すぎたのか、おっさんは口をぱくぱくさせてる。

 ごめんね。

 だけど、しょうがないんだよ。

 だって、ぼく……



「泳げないんだもん!!」



 赤面しながらの告白に、おっさんは安堵して、



「大丈夫だよ。泳げないのなら溺れたらいいんだから」

「殺す気!?」

「あっははははは。そんなまさか!」



 おっさんの説明によれば、地上への扉が開いた瞬間に、ぼくは水中から太陽の真ん中に移動するらしい。

 だから溺れる苦しみは一瞬だけ!

 本当だろうか?

 っていうか、太陽の中って……ぼく、けて死んじゃうの?



「心配無用。きみが鍵穴の中で回転してくれれば、太陽は地底と地上をつなぐ大きな穴になるんだ。熱さなんて一切感じないはずさ」



 ここで思い出すのは、七手土吐人ななたはばきじんが教えてくれた伝承歌だ。

 確か、あの歌には、



 暗き太陽

 赤を消す



 っていう一節があった。

 不思議な歌詞だけど、これが転移魔法発動の解説だとすると、なるほど納得だ。

 おっさんのトンデモ話に説得力が生まれる。



 おっさんを信じよう。

 でもおぼれたくはない。



「皇帝陛下のご到着をお待ちしなきゃならないんだ。この魔法の発動に必要な魔力は陛下によって提供されるからね」

「要するに、皇帝の垂れぱいをここで寄せてもらわなきゃ……ってことだね」

「それまで少し時間がある。泳ぎの練習をしようか」



 う~ん、ナイスアイデア!

 と言いたいところなんだけど……



「今日は色々頑張りまくったせいで、ぼくもう疲れちゃってるんだよね。泳ぐ練習じゃなくて、溺れる練習になっちゃいそう」



 すると、おっさんはぼくに向かってっぱいを寄せて見せた。



「回復したかい?」

「男の人の胸なんか見たって、ぼくは元気にならないよ」

「回復魔法を使ってるんだよ」



 相変わらず凍りついた微笑のくせに、心暖まる気遣いをしてくれるじゃないか。

 全身から痛みとだるさが消えて、元気完全回復!

 さあ、練習開始だ!



「がぼぼぼぼぼぼ」



 秒で溺死しかけてしまった。



「どうして……体力は回復したのに……」

「どうやらタカシくんには、根本的にセンスがないみたいだね」



 ぼくを池から引き上げてくれた命の恩人が、情け容赦なく、残酷な事実を告げた。



「じゃあもうおぼれるしかないじゃん……」

「うーける」

「!!!」



 突如、背後から懐かしい声が!

 間違いない、これは……



「うー人!!!」

「あうー?」



 わっくわくで振り返ったら……忍者のじじいがいた。



「うわぁぁあぁあぁぁぁ」



 あの小さくて生意気なうー人がいるのかと思ったのに!



「お前、久しぶり」

「あれっ」



 と思ったら、白人忍者の足元にうじゃうじゃうー人がいるじゃんか!

 生っちろくて、小さくてかわいい、ウーパールーパーそっくりの人類。

 ……&忍者コスプレイヤー。



 え?

 どういうこと?

 何この組み合わせ?

 そもそも、うー人って皇帝に保護されてたんじゃかったっけ?



「いぃー、たいあい!」

「ひぇっ」



 うー人とゆっくりおしゃべりしたいところだけど、この危険人物がいちゃ、それも叶わない。

 もしかして、ぼくを殺しに来たのかも……。

 助けを求めて、皇族人のおっさんに目を向けたら、彼はっぱいを寄せて臨戦態勢に入ってる。



「殺しちゃダメだよ!!!」



 咄嗟とっさに口をついたのは、他人のための命乞い。

 おっさんからの返答は、



「ホワンナァシャイセー」

「……ん?」

「クゥホ!」

「ごめん。何言ってるのか、わかんない」



 突然、皇族人のおっさんは変なことを言い始めた。

 呪文?



「えあー。あーん。てぇあ?」



 忍者のじじいもおかしい。



「うー」

「うー」

「うー」



 うー人はうーうーうるさい。



「うー、うー」

「ヒェンナァドンドデー!?」

「てやぁ」

「うー」

「うー、うー」



 もう無茶苦茶だよ!!!



「しっかりしてよ、大人達!!!!」

「タカシくん、退がって!!」

「最初からそう言って」

「いや、そう言っていたんだけどね。……どうやら、ほんの数秒、言語が通じなくなっていたみたいだ」



 あ……異なる言語を使う人種でもお互いに意思疎通できるのは、皇帝の魔法のおかげだっけか。

 これもまた、地底世界崩壊の兆し。



「あー……あー……えやぁぁぁあああぁ」



 かつてのおしゃべり癖はどこへやら、まともな単語ひとつ言うことなく、奇声をあげながら白人忍者はへたりこんだ。

 原因は明らかに全身打撲。

 右足の骨折、お尻の貫通、その他いたるところに傷やあざが見受けられる。

 カーチャンにボコされたもんね。



 不幸中の幸い、じじいの満身創痍がおっさんの警戒を解いた。



「でも、なんでこの人だけ言葉が通じないままなんだろ?」



 その質問に答えたのはうー人だった。



「こいつ、ずっと変」

「うー、面倒見た」

「お腹、空いた」

「うー」



 順序だてて説明することが苦手なうー人のお話をまとめると、忍者はこの地に墜落して、その衝撃によって記憶を喪失してしまったらしい。

 自分の名前どころか、知能まるごと無くしちゃってる。



「それで? うー人達がここにいるのはどうしてなの?」

「うー、逃げた。皇帝、怖い」

「でっかいから?」

「あいつ、うーを殺そうとした」



 長期間にわたって行方不明とされてたうー人。

 その発見を喜び、保護すると誓った皇帝の真意は、「道」の存在を知っていたうー人がぼく達にまずい情報を提供しやしないかと恐れ、ならば消してしまおうということだった。



 危険を察知したうー人一行は脱走して、この地に辿たどり着いた。

 そしてボロボロの忍者と出会い、世話を焼いてたそうだ。



「殺すだなんて、勘違いさ」



 おっさんの口からぺらぺらと反論が出てくるけど、しどろもどろの目は嘘を隠すのが苦手のようだ。



 なんて命の軽い世界なんだろう。



 ぼくは叫びたい衝動を飲みこんだ。

 憤りは胸に秘めておこう。

 すべての負の連鎖を断ち切るため、ぼくにできるのは泳ぐ練習だ。

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