第6話 小さな息子を見られたくない!
うおおおおおおおおおおお!!!
鷹司タカシです!!!
おっぱい!
おっぱい☆
おっぱい♪
おっぱいが大きい女帝に会いに行くことになった!
そうと決まれば身なりを整えなくては!!!
相手が皇帝だろうと底辺だろうと関係ない。
そこにおっぱいを揉むことのできるチャンスがあるなら、全力を尽くすまで!!
まずは洗顔!
全速力で洗面所に行き、蛇口をひねって……そして、思い出した。
水道が使えないんだった。
「カーチャーーーーン、どうにかしてよぉ」
まだアイスを食い続けているカーチャンに一応お願いした。
普通に断られた。
そうだね……さすがにこれは無理だね……。
ないものを出すなんて、魔法じゃあるまいし……
「そうだ、魔法だ!」
今度は台所へ全速力。
宝百合ちゃんにお願いだ!
「無理です。今は家のフライトに集中しなければ危険です」
はい、ごもっともです。
他に魔法が使える人は約一名。
「ぐおおおおおぉぉぉぉおおぉおおぉおぉぉ」
力石の姐さんはまだ寝ていた。
すっかりぼくのベッドを一人で占領して。
しかも、寝相が悪いから、魔錻羅器が外れそうになっていて……うわぁー、まーた見えちゃったよ!
仕方ない。
残念だけど、顔を洗うのは諦めよう。
……だけど……
「カーチャン」
「水道は使えないって言ったでしょ」
「そうだけど……トイレは……」
「……」
顔なんか洗わなくったって、どうにかなるさ。
だけど、排泄の方は我慢できない!
圧倒的ピンチ!
「……どっちよ?」
「小さい方」
大きい方じゃなかったのは不幸中の幸いだ。
だけど、どうしたもんだろう。
便器におしっこをしてもいいんだけど、流れないじゃん。
おしっこが流れずに、便器の中に残るじゃん。
恥ずかしいよ。
「まぁ……外に向かってやるしかないわね」
何だって!?
「外に向かっておしっこするなんて……誰かに見られでもしたら、どうするの!?」
「何言ってんの。空を飛んでるんだから、見られることなんてないわよ」
「あ、そっか」
安心安心。
「世界が危機に陥ってる時に、変な会話をしないでください!」
台所から、恥じらう乙女の叱責が聞こえてきたけど、構うもんか。
こっちは膀胱の危機に陥ってるんだい!
玄関に急行し、勢いよく扉を開けた。
途端に入り込む風と……
「わぁ……」
果てしない青空!
いいぞ!
大空に放尿なんて、絶対に気持ちいいぞ!
「昨日も言いましたように、世界は危機に陥っているのです」
美少女のお説教を聞きながら、ズボンを下ろし、パンツを下ろし。
「ある日、どこからともなく現れた危険な悪魔どもが、この世界の各地を暴れまわっています」
片方の足で、扉が閉まらないよう押さえつけて。
「やつらは情け容赦なく、魔法の力で人々を虐げ、お恥ずかしながら、わたくしどもの手に負える相手ではありません」
息子くんを手に持って。
「なんとも困り果てていたところに、予言の戦士達が現れたはいいものの……」
集中集中……。
「下ネタを言うわ、セクハラをするわ、まったく……」
あっ……あぁ~、出そう……
「本当にタカシさんに、あの残忍な敵を駆逐することができるのでしょうか」
出る出る出る出るd……
「敵って、そんなにおっかないの? 私、怖いわぁ」
「恐るべきやつらです。けれど、お二人にとって驚きはないかもしれません」
んおぉおおぉぉお!?
それは、小便が放流される間際のことだった。
空高く飛行する我が家より少し下の空中。
そこに、初めて見かける動物がいた。
動物……というか、人間……だけど、翼が生えている。
鳥人間……?
局部をさらしたぼくと、空中を舞う鳥人間の目が合う。
何とも気まずく恥ずかしいが、それも一瞬のこと。
「おぁっ、ほうぇ~~~~~~」
出物腫れ物ところ構わず。
朝一の濃い尿が大空に向かって放出される。
ぼくは知らなかったよ!
空からするおしっこが、こんなに気持ちのいいものだったなんて!
見られながらするのは恥ずかしいけど、でも、きっと鳥人間さんは見て見ぬふりしてくれてるよね……?
「あぁっ!?」
なんてことだ!
ぼくの息子から飛び出る水分が、翼の生えた人の頭上に降り注がれてるじゃないか!
「ごめんなさいごめんなさ~~~い!!」
嘘じゃなくって、本当に申し訳ない!
でも、一度出したら止められない!
せめて放尿の向きを変えてあげようと思い、息子をあっちにむけると、ぼくの尿を避けようとした鳥人間さんもあっちに動く。
じゃあこっちに息子を向ければいいやと思ったら、偶然、同じタイミングで鳥人間さんもこっちに動く。
逃れられない、おしっこシャワーの無限ループ!
「タカシ、何を騒いでんの? まさか間に合わなかったんじゃないんでしょうね!?」
「間に合ったよ! 気持ちいいよ! でも、人に見られちゃってんだよ!」
「あぁ~ら、別にいいじゃない。そんな小さいの見られたって」
「小さいって言うなぁ!」
軽率にぼくの心をボコってきやがる!
そんな酷薄非情のカーチャンとは違い、宝百合ちゃんはきちんと反応してくれる。
「人が外にいるんですか!?」
「そうだよ、空を飛んでるの! ぼくのおしっこを浴びながら!」
「まずい!」
そうだよ、本当にまずいよ、まだおしっこが止まらないんだもん。
鳥みたいな人の髪の毛はすっかりぐしょ濡れになってることだろうね。
あ、毛じゃなくて羽かな?
「タカシさん、気を付けてください! その者は敵かもしれません!!」
……え?
敵?
世界を危機に陥れたっていう、あの「敵」のこと……?
「そうです! 偶然の邂逅か、予言の戦士達の存在を狙ってかはわかりませんが……危険です!」
ひーーーっ!
とんでもない相手をおしっこまみれにしてしまった!
絶対怒ってるよね……。
徐々に勢いを失いつつある小便。
もう敵にはかかっていないけど、目が合い続けているのですごく気まずいぞ。
家中に宝百合ちゃんの声が響く。
「全速力で振り切ります。掴まっていてください」
ああ、宝百合ちゃんはぼくの状況を把握していない!
ようやく残尿に対処し始めたばかりだよ!?
一体この状況で何に掴まれって言うの!?
「息子しか掴む物がないよぉ~~!」
ぼくの必死の叫びも空しく、我が家は急激にスピードを上昇する。
とんでもない危険行為だ!
危うく屋内に尿を撒き散らすところだった。
残尿を確実に外に飛ばしながら、自分は外に落ちないように踏ん張る。
こんな絶体絶命を経験するなんて思いもよらなかったよ!
そんな中であそこを振り振り、これでやっとパンツを履けるかと安堵したのも束の間。
ぼく達を追いかけていた大きな鳥さんに動きがあった。
やつはややスピードを落とすと、大きく息を吸い込むように肩をすぼませた。
「何だ、あれ?」
鳥人間の体から、ドッジボールくらいの大きさの光の球が出現。
高速で移動し……我が家の壁にぶつかった!
途端に、強烈な衝撃!
「やっぱり怒ってる? 怒ってるの!? ぼくがおしっこをぶっかけたから!!」
もうパンツを上げている場合じゃない!
「宝百合ちゃーーーん! 早くどうにかしてぇ!」
「わかっています!」
その言葉が返ってくると同時に、家が右に傾き、進行方向を大きく変えた。
ぼくは壁に頭をぶつけて悲鳴を上げた。
お皿の割れる音や、家具の倒れる音が響いた。
宝百合ちゃんの力む声がした。
力石の姐さんのいびきが微かに聞こえた。
カーチャンは特に何も言わなかった。
もしかしたら、カーチャンはまだ黙々とアイスを食っているのかもしれない!
更に攻撃は続く。
さっきと同様の衝撃が家のあちこちから伝わってくる。
ぼくのすぐ近くの壁やドアにも謎の光が直撃。
攻撃を受けた箇所はひどく破損している。
きっと、もう家中が穴だらけになっているに違いない。
それにしても、やけに攻撃が多いな……?
混乱の最中、ドアの向こうに見えたのは……
「ふっ……増えてる!」
いつの間にか、翼を生やした人がたくさんいるじゃないか!
多勢に無勢。
多数の甲剛人を相手に戦えたカーチャンだって、今度ばかりはどうしようもないだろう。
だって、あの時は地上。
今は空中。
こんなんじゃ戦いようがない。
家の飛んでいる高度が下がってきたのを感じる。
「宝百合ちゃん、限界なのかな……」
その直感は間違ってなかった。
家はどんどん高度を下げ、やがて、密林の木のてっぺんをこすり、枝をへし折り、大きな幹を薙ぎ倒し、そして地面をえぐった。
着地の衝撃はすさまじく、家が完全に停止する前に、ぼくは玄関から外へと放り出されてしまった。
「いだいいだい……お尻がいだいよ……」
用を足したっきり、結局パンツもズボンも引き上げられずじまいだったので、剥き出しのお尻から着地してしまい、そのまま数メートル進んでしまった。
さっと顔から血の気が引くのを感じつつ、恐る恐るお尻に手をあてがった。
……あっ! 大丈夫!
お尻はなくなってなかった!
うんうん、よかった。
よく生き残ったもんだよ。
ぼくは涙ながらに臀部をねぎらった。
ここはジャングル。
テレビで観たことのあるアマゾンと変わらないようだ。
無数に生えた木々。
いかにもアナコンダの出てきそうな茂み。
1ミリも澄んでいない濁った川。
ここが都心や住宅地じゃなくて本当によかった。
下半身を露出したぼくはそう思った。
だけど、喜んでばかりいられない。
たくさんの鳥人間がすぐにも追い付くだろう。
ビーム攻撃をするやつらを相手にしても、カーチャンのバカ力は通用するんだろうか?
それはわからない。
それに、このジャングル自体、どんな猛獣やウイルスが潜んでいることか。
「カーチャーーーーーン」
幸い、家は原型をとどめていて、ぼくから十メートルほど離れたところにある。
「宝百合ちゃーーーん。力石の姐さーーーん」
皆は無事だろうか?
お尻を怪我してないだろうか?
返事はない。
穴ぼこだらけの家に帰ろうと、ひりひり痛む腰を上げた……その時!
「赦さない」
「赦さない」
「赦さない」
「赦さない」
「赦さない」
「赦さない」
「赦さない」
「赦さない」
「赦さない」
「赦さない」
「赦さない」
「赦さない」
「赦さない」
「赦さない」
全方向から怨嗟の声が流れてきた。
霧が立ち込めるのと同じように、ゆっくり、重たく、不気味に。
「どこ!? ……誰!?」
声の主は見当たらない。
だけど、おそらくこれは数人どころじゃない。
十人、二十人……もしかしたら、それ以上……
恐ろしさのあまり、身動きが取れず、ぼくはイチモツを風にそよぐに任せた。
突如!
周囲の木や茂みの陰から、一斉に何かが姿を現した!
その「何か」は、どれも二本の足で立っていて、人の言葉を喋ってるけど……絶対に人間じゃなかった。
頭が鳥だったり、全身がハンペンみたいだったり、虫のような風貌だったり……。
甲剛人のお仲間なのかな?
言葉は通じるのかな?
ぼくと家を囲んだのは攻撃するためなのかな?
色々と疑問はあるけれど、そんなことよりも……
「顔から火が出ちゃう~~~~!!」
こんなに大勢に、露出した下半身を見られちゃったんだもん!
慌ててあそこを手で隠したけど、もう遅いよね……?
見たよね……?
「ううっ。恥ずかしいよぉ。だって、ぼくの息子は小さいんだもん……」