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おっぱ異世界  作者: えすくん
第3章 不自由の塔
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第51話 無意味な争いをしたくない!

 こんにちは、鷹司たかつかさタカシです。

 皇帝は地上侵攻のため、帝都をちました。

 一方、ミコちゃんはぼく達に頭を下げるのでした。



「……タカシ……それにおめぇら皆にお願いだ。……皇帝を……俺の母親を……殺してくれ」



 予想外の要請に、ぼくはすっごく驚いた。



「なんで、そんなこと言うの? わざわざ殺さなくたって、他にいくらでも方法があるんじゃない? ぼくは思いつかないけど」

「……例えば、皇帝を殺さず、おめぇらが地上に逃げたとする。そしたら、皇帝はおめぇをさらうため、地上に部下を派遣するだろう。地上人に大勢の犠牲が出ちまうぜ……?」

「どうしてそうなるの! そもそもなんでぼくを追いかけるのさ!?」

「おめぇが鍵だからだ」

「ぼくはどこにでもいる普通の男子小学生! 鍵じゃなくって人間だよ!」

「おめぇはn━━」



 ぼくの胸ぐらを掴みかかるミコちゃん。

 だけど、カーチャンのぶっとい腕がそれをひっぺがす。



「決めるのはあくまでタカシよ。……で、どうなの? あんたはどうしたいの?」

「どうしたいって言われても……」

「地上に帰りたいの? それともこの世界に留まりたいの?」

「そんなのどうでもいいよ。ぼくにとって大事なのは、まずどうやって人を助けるかでしょ、そんでどうやって罪をつぐなうかでしょ」

「バカタカシ! あんたまだそんな意味不明なことを━━」

「意味はわかるでしょ! 命は何よりも大事なの! ねえ! みんなもそう思うよね!?」



 振り向いたぼくに返ってきた答えは、



「……何より大事なのは自由じゃねぇか……」



 銑銑ずくずくは、うっとりとした目で帝都を見下ろしてる。

 生まれてから死ぬまでを塔の中で過ごす七手土吐人ななたはばきじんにとって、外の世界はテレビでしか見たことのない景色だ。

 塔造りを何よりの誇りとする瘤瘤こぶこぶも、今は文句を言わずに、景色を眺めたり、草木に触れてみたりと、あどけない様子を見せてる。



「誰だって、こらえきれないほどの渇望を抱えてるもんさ」



 甲剛人こうごうじんファッションのリッキーが物知り顔で言う。



「そして、その渇望の中身は人それぞれ違うんだぜ」



 理屈はわかるよ。

 だけど……



「人の命よりも大切なものがあるなんて、そんな価値観は受け入れたくないよ!!!」

「あっ見つけた」

「えっ?」

「かかれー!!」

「ええっ!?」



 見上げた空には、宮仕えと皇族人。

 騒ぎすぎたから見つかっちゃったよ!

 相手の数も、放たれる魔法攻撃の数も、あまりにも多い。

 逃げる一択しかない。

 飛行魔法で逃げ出すと、今度は双子が、



「「あっ見つけた」」

「えっ?」

「「電車だー!!」」

「ええっ!?」



 思い出した。

 帝都には路面電車が走っていて、その線路は皇居の入り口付近まで伸びてるんだ。



「すっげぇ~! 実在するんだな、電車って!」

「駅もある!」



 命の危機もなんのその、双子は新鮮な光景に目を釘付けにされてる。

 だけど、そんなことどうでもいいでしょとは言ってられない。

 このまま直進すると、駅の真上を飛ぶことになって、それだと駅にいる人達を攻撃の嵐にさらすことになる。

 危険だ!



「カーチャン、進路を変えて!」

「このままぶっちぎるわ。ほら、よく見なさい」



 うながされて目をらすと、駅に集う人々の様子がおかしい。

 ぼく達をにらんで、胸を寄せて、そして……



「やめてーっ」



 ぼく達に向かって、攻撃魔法を仕掛けた!



「タカシ! 銑銑ずくずく! 瘤瘤こぶこぶ! しっかりつかまってなさいよ!! 残り2名は各々頑張ってちょうだい!!」

「あいよ!」

「フン」



 カーチャンの合図で、飛行速度が急上昇。

 とんでもない風圧のせいで、顔がゆがんじゃう。

 でも、外見さえ気にしなければ、これで安全地帯に逃げ込めることができるんだからいっか……。

 そう思ってた時期が、ほんの一瞬だけど、ぼくにもありました。



「どうして……?」



 高地を離れて、大都会の上空。

 目下に散らばる帝都の人民が、殺気をみなぎらせ、おっぱいやっぱいを寄せてるんだ。

 かつてぼくとカーチャンを予言の戦士達として歓迎してくれた時の面影はない。

 隠されることのない敵意。

 解き放たれる攻撃魔法。



 ぼく達は今、帝都人民全員に追われてる。



「すべてを完璧に終わらせない限り、これが続くぜ」



 風圧で変顔状態のミコちゃんが吐き捨てるように、



「これ以上、無益な戦いを続けたくないってんなら、皇帝を殺すしかねぇわなぁ!」

「バカ!! 軽々しく殺すとか言うな!! 第一、皇帝を殺しちゃえば、地底世界を魔法で維持できる人がいなくなって、地底の人達がみんな死んじゃうじゃないか!!!」

「それでいいじゃねぇか。それで終わる。すべてが終わる。地上の人間どもは地底人類に侵攻されることなく、恒久の平和を手にできるんだ。もうおめぇは危険な戦いに身をさらさなくてよくなる」

「きみはぼくをま~ったくわかってないね! ぼくは戦いに巻き込まれたって平気だ! ぼくの望みは誰も悲しませないこと。人が死ぬ選択なんて論外論外!」



 顔も丈夫なカーチャンは風にも負けず、いかつい顔を保ったまま、ミコちゃんに尋ねる。



「ひとつ確認したいんだけど、あんた、私達にも崩壊する地底で生き埋めになれって言うの?」

「いいや。小碓革おうすかわを使えば、おめぇら5人くらい簡単に地上に戻せらぁ。小碓革おうすかわは……ほれ、ここに」



 ミコちゃんはブラジャーの中から魔法道具を取り出して見せた。

 どさくさに紛れて窃盗したらしい。



「それで安心。あんたとは馬があわないけど、これに関しちゃ意見が完全に一致してるわね。……地底人類を見殺しにするわ!!」

「脳みそが筋肉なの!?」

「タカシ、やらなきゃやられるのよ!! だったら、やられる前にやる……と言いたいところだけど……」



 この大空のどこにも、弾丸並みの速度で飛ぶぼく達について来られる存在はないだろう……と思ってたのに。



「でで、で、で、電車ぁぁ?!??」



 いつの間にか駅を飛び出した電車が、あろうことか空を飛んで、ぼく達の背後に迫ってる。

 それも、とてつもない速さで。



「都会の電車って飛べるの?」

「すっげーぜ!」



 双子!

 はしゃいでる場合じゃないでしょ!

 電車は空を飛ばないし、こんな速度で移動できないんだからね!

 それを可能にするのは魔法だし、そんな魔法が使えるのは、ぼくが知ってる限りでは一人しかいない。



「朝敵はことごとく滅びなさぁぁあぁぁぁあああぁあいっっっ!!」



 先頭車両の操縦席に立ってるのは、宝百合たからゆりちゃんだ!

 Eカップのおっぱいを寄せて、浮遊魔法を全力で過激に駆使してる。

 それにしても……



「どうして自分で飛ばないのかな? 追いかけるだけなら電車に乗る必要ないのにねぇ?」

「ぶつけるつもりだろうぜ!」

「おふぇえ!?」



 ミコちゃんの予想は正しかった。

 宝百合たからゆりちゃんの乗った電車はどんどん加速して、そして、ぼく達をねた……。

 ……。

 ……??

 あ、あれれ?

 電車が空中で停車してるぞ。



「よぉ~~……っく、わからせてあげるわ」



 カ、カーチャン!

 5両編成の電車を筋力だけで受け止めてるよ、この人!

 いいよいいよ。

 そのまま、宝百合たからゆりちゃんを駅に送り戻しちゃえ!

 ……カーチャン?

 どうして電車を振りかぶってるの?

 どうして全身に血管を浮き立たせてるの?

 どうして駅の方じゃなくって下を向いてるの?



「やられたらぁ……やり返すのよぉぉおぉぉおおぉ!!!!」

「やめろぉぉぉおおぉぉぉおぉ!!!!!」



 車両の中には宝百合たからゆりちゃんがいるんだぞ!

 下には帝都で暮らす大勢の人間がいるんだぞ!

 それなのに、どうして……どうして電車を地面に叩きつけたの!!?



 遥か下方で、電車が人々を巻き込んで大破した。

 弾け飛ぶ四肢。

 飛び散る血液。

 響き渡る悲鳴。

 また目の前で人が死んだ。

 宝百合たからゆりちゃんは……生きてるかどうかもわからない。



 さっきぼく達がいた皇居付近の高地。

 そこでは、木々が痩せ、草が枯れ始めてる。

 世界が着実に崩壊の一途を辿たどってるんだ。



 間違いなく、これから死体が増える。

 地底世界が滅びる。



「タカシ、俺に協力しろ」



 逃走を再開した時、ミコちゃんが叫んだ。



「俺達は同じだ。もう誰の悲しみも見たくない……だろ? だったら、皇帝を殺して、地上に帰ってくれ」



 これ以上、誰かの死を見ろって言うの?

 それどころか、自分の手で人の命を奪え、と……。



「それよ、それ! それこそが唯一の選択肢だわ! タカシ、賛成しなさい!」

「えー、やだよ。俺、地上に行ってみてーもん」

「あー、時間がもったいない! 早く帰って塔建設しなきゃ」

「あたいはあんたと戦えるなら何でもいいぜ! 今すぐにでもあんたを殺したくってたまらねぇや」



 ……。

 ……そう。

 そうなんだ。

 これがぼくの所属するパーティーの意見か。



「……なるほどね……」



 全身の力が抜けて、自然と微笑みが顔に浮かぶ。

 それと同時に、ぼくの体はカーチャンから離れ、大空に取り残される。



「タカシーーーーッ!!!」



 想定外だったんだろうね。

 カーチャンが飛行を停止した時には、ぼくはもう手の届かないところにいた。

 宙に浮いたぼくは、だけど、地に落ちることはないという確信があった。



「よいしょっと」



 追い付いた皇族人のおっさんが優しくぼくを受け止めてくれた。



「この行動はつまり、きみの意思表示と受け取っても構わないかな?」

「……うん……。そういうことだね……」



 ぼくとおっさんのやり取りの意味を理解できないカーチャン達は、戸惑いと苛立ちをあらわにしてる。



「何してんの! あんた……本当バカね! そいつらは危険なんだから、何されるかわかったもんじゃないわよ!」

「ううん、そんなことないよ。この人達にとって、ぼくには利用価値があるんだもん」

「でも……でも、あんたはそいつらに用がないじゃない」

「あるよ」

「えっ……?」



 ぼくは考えたんだ。

 短い時間に知恵を絞って、考えて考えて考え抜いて、それでもろくな答えには辿り着けなかったけど、でも消去法で一番ましだと思える策を見つけたんだ。



「ぼくは皇族人側につく。この地底の全人類を地上に転移させる作戦に、協力する!!!!」

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[良い点] おおお、タカシ! まさかの予想外の行動に目が離せない!! [気になる点] カーチャン、こんなに最初から攻撃的でしたっけ(;´∀`)?
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