第38話 喪失したくない!
こんにちは。鷹司タカシです。
氷の龍作戦の結果、千祚代ちゃんを取り戻すことができました!
やったー!
だけど、氷の中に封じこめたはずの地上人テロリストどもが再びぼく達の前に立ちはだかります……。
「皆さん、お気をつけください! やつらに氷の龍を突破されてしまったようです!!」
宝百合ちゃんの警告に、ぼくは納得する。
やっぱりか、と。
あれだけたくさんの氷の龍で封印したって、すぐに力技で脱出しちゃうくらい強いやつらなんだ。
氷の龍の残骸の中から、やつらが現れた。
息切れしてるけど、五体満足、おっぱいの残量も十分、まだまだ戦えそう。
「くぅ~~~~~っ、キンキンキンキンに冷えたぜ!」
「もう少しで凍死するところだったよ。これは間違いなく、敵陣には策士がいるね。だってさ、水の龍を凍らせちゃうとか、ぼく達を凍らせちゃうとか、普通じゃ考えられない作戦だったもの。これからのぼく達の行動を決定していく上で、敵の策をよく研究しておくことが戦術上最も重要になってくるはずさ」
「うるs……はっくしゅ」
相変わらずよく喋るテロリストどもに対して、囚われのテイラーは堂々と文句をつける。
「何やってんだよぉ!! あんなに氷を吹っ飛ばしたら、ぼくまで死んじゃうところだったじゃないか!」
「バカだね、あんた」
彼を預かる姐さんが宥めるように、
「他人のことを言えるのかい? あんたも同じことをしたじゃないか。それに、あいつらはもうあんたを仲間とは思っちゃいないさ。……ほら」
甲剛人の長が言う通り、敵はテイラーの存在なんかお構いなしにバカスカ攻撃をしてくる。
分身忍者とキラキラ手裏剣。
パーティーバッグから吹き出す色とりどりの魔法。
魔法ドーピングのムキムキ筋肉。
そのすべてに殺意がこめられてる。
人命に対する配慮なんてありゃしない。
再びカーチャンが魔法フィールドを発動する。
一方、攻撃は宝百合ちゃん・長代理コンビに託された。
千祚代ちゃんは、こんな状況で急に発作を起こしたヤク中親父に、治癒魔法を発動してる。
ぼくは皆を全力で応援。
「あんたはこれをどう思う? 血は繋がっていなくとも、ここには固い団結がある。信頼が、そして、誰かを守りたいという愛情が、人と人を繋いでいるのさ。もう少し早くこれに気づいてりゃあ、あたいも一人ぼっちにならなくて済んだのかもねぇ」
「何を……言ってる……?」
いつになく優しい語り口の姐さん。
声を震わせるテイラー。
「それはまるで……ぼくが……選択を間違えたみたいじゃないか……。違う……。……ぼくは……ぼくは……何も……間違っちゃいない!!!!!!」
叫びと同時に、テイラーは無乳に限りなく近い胸を精一杯寄せた。
カーチャンと同じく、鷲掴みにして。
「ぼくは強いんだ!!!!」
すると、毒雲がぐつぐつ音を立て始める。
何の音……?
耳を澄ませば、
「あれ……雨が止んでる……わあぁっ!!?」
毒雲から毒の雨が降り始めた……いや、昇り始めた!
下じゃなくって、上に向かって雨が飛んでるの!
雨の標的は地上人テロリストどもだ。
「舐めるなぁああぁあ!!」
テイラーは容赦ない。
ついさっきまで仲間だったやつらを殺しにかかってる。
その横暴を止めようとする人は、このフィールドの中には一人もいない。
皆、この展開をラッキーだと思ってるんだ。
気持ちはわかる。
生きるか死ぬかの戦局だ。
強大な敵の力を利用できるものなら利用したいからね。
……だけど……いくら敵でも破裂死させるのはかわいそうだよ!
「テイラー、もうやめて!!」
「うるさい!! ぼくに指図するな! ぼくは強いんだぞ。強いから必要とされるんだ……。愛されるべき存在なんだ……。それなのに、あいつら……クソッタレ!!! 愛されないなら、生きる意味なんて……」
雲の上で、テロリストだけが集中豪雨の被害に遭ってる。
決して雨に打たれまいと必死で逃げ惑うやつらの姿に、ひょっとしたら、ぼく達は油断してたのかもしれない。
いつ?
どこから?
どうやって?
カーチャンが発動してる魔法のフィールドは、ぼく達を敵から完璧に守ってたはずなのに、瞬きをして目を開けたら、すぐ目の前に白人忍者じじいが立ってるじゃないか!!!
彼の足元には穴。
そうか、カーチャンは半球形にフィールドを作ったんだ。
雲の下からの侵入を想定せずに……。
「……すごく……戦術上……から、消して……と……」
じじいがぶつぶつ言ってる。
カーチャンも宝百合ちゃんも千祚代ちゃんも何か叫んでる。
だけど、よく聞こえないや。
ぼくは聴覚よりも視覚に意識を集中させ、じじいの一挙手一投足を見つめる。
長い白髪をなびかせる老人の狙いは……テイラー!
雄っぱいを寄せ、どでかいキラキラ手裏剣を具現化すると、迷わず赤毛の少年にブン投げようとする。
武器は放たれ、一直線にテイラーへ。
嫌だ。
目の前で誰かの死を見るなんて、もう嫌だ!!
ぼくは誰の悲しみも見たくないんだ!!!!
守りたい……いや、守らなきゃ!!
たとえ、それが敵だとしても。
自分の命と引き換えにしても。
「ぼくがm━━」
「あたいが守る!!!!」
その場の誰よりも速く動いたのは力石の姐さんだった。
テイラーを放り投げて彼の安全を確保し、手裏剣攻撃に正面から相対する。
歴戦の長はおっぱいを寄せてビーム魔法を発動させるまでに一秒もかけない。
しかも、彼女の肌は甲殻類みたいに硬くて丈夫そう。
ぼくはすっかり安心。
取りあえず一難去った、と……。
それがとんだ思い違いだったと気づくまでに、これまた一秒もかからなかった。
すべては一瞬の出来事。
まず手裏剣が爆発し、姐さんに深傷を負わせ、それを目撃したカーチャンが白人忍者じじいに飛びかかった。
魔法も何も使わない。
徒手空拳の一撃でじじいを殺した。
「ダメッ、ちょ、あ……じじいーーーーーっっっっ!!!!」
何もできなかった。
ただ人が殺されるのを目の前で見ているしかできなかった。
だからって悲しみに浸ることのできる状況じゃない。
カーチャンはじじいを殺すため、フィールド魔法を解除してしまっていて、テイラーは姐さんに吹っ飛ばされた時に、うっかり毒雨魔法を解除してしまってる。
もちろん、やつらがこの絶好の機会を見逃すはずはなく、ずんずん進撃してくる。
その中には白人忍者もいて、
「あ……さっきのは分身だったんだ……」
と、ほっとする。
もちろん、喜んでばかりもいられない。
敵が今にも攻撃を仕掛けようとしてるんだ。
「冷やされた恨み、晴らしてやるわ!!」
「まっ待ってください!!」
意外なことに、千祚代ちゃんが前面に出て、敵に立ちはだかった。
まずいよ、きみじゃやつらに太刀打ちできない。
……あれれ?
敵はぴたっと動きを止めた。
なるほど、敵は千祚代ちゃんをほしいから殺すことができないんだ!
千祚代ちゃん、自分の価値をよくわかってる!
頭いい~!
「おい……どうしてだ!?」
一方、テイラーは力石の姐さんに怒声を浴びせてる。
詰め寄られる姐さんは……ガチゴチのおっぱいもバキバキの腹筋もダルダルのズボンも全部血に染めて……おまけに、硬そうな皮膚が砕け、内臓ぽろり。
「どうしてだ!? 答えろ! ぼくとお前に血の繋がりなんてないぞ!? 防衛本能はどうした? どうしてぼくなんかを助けて……お前の息子を助けてやらなかった……」
「すまなかったね……」
姐さんが赤毛の少年を優しく抱擁する。
「あの時……こうしてあげるべきだった……」
そして、そのままおっぱいを━━ぼく達地上人と同じ赤い血にまみれたおっぱいを━━交差するほど激しく寄せて、凄まじい量のビーム散弾を放った。
いっぱい出てる。
それらのビームは一旦、空高くへと舞い上がった後、テロリストどもを狙い撃ちにした。
避けようとしたって、どこまでもついてくる。
まるでひとつひとつのビームが意思を持ってるかのよう。
すっごーい!
どうして今までこれをやらなかったの!?
そう尋ねようと思って姐さんの方を向くと、ぼく達の目が合った。
消えそうな笑顔が視界に入って、
「ありがとう」
という言葉が耳に入った。
そして、甲剛人の長は崩れ落ちた。
「姐さーーーーーーーーん!!!!!」
なんだか頭の中がざわざわする。
嫌な考えを振り払うためには、姐さんの元へ行き、彼女の状態を把握するしかない。
ぼくは駆け出した。
「バカタカシ!! 動き回らないの!!!」
「じっとしてるなんてできないよ!!」
散弾から逃げ惑う敵に、追加攻撃をするカーチャン。
お願いだから、殺人は犯さないでね。
いくら大罪人とは言え、かけがえのない命を持ってる人間なんだから。
ただ相手を戦闘不能にして、裁判にでもかけて、反省させて、罪を償わせればいいだけ。
誰にも人の命を奪う権利なんてありはしない。
「……あたしは欲深いジュリエット……」
ぼくも敵も動きまくった結果、偶然、千祚代ちゃんを傷つけずにぼくを撃てる位置にジュリエットがいた。
ぼくと彼女の視線がぶつかる。
危険な予感……。
ジュリエットは手持ちのパーティーバッグに散弾ビームを片っ端から吸収してたんだけど、そのうちの一発をバッグからブッ放した!
「この世のすべてのロミオがほしいの!!!!!!」
ビームはぼくをめがけて飛んでくる。