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おっぱ異世界  作者: えすくん
第2章 日曜日の祝祭
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第36話 指を咥えたくない!

 こんにちは。鷹司たかつかさタカシです。

 水製都市すいせいとしが崩壊しました。

 たくさんの人々がおぼれたり破裂したりして死んでます。

 そんな光景を見て、地上から来たテロリストどもは笑います。



 ここは地獄だ。

 ぼく達がこうして手をこまねいてる間にも、雲の下ではたくさんの人が亡くなってる。

 それも、病気の回復を願って、わざわざここまで来た人達だ。

 この世界に救いはないの?



 つらい光景だけど、顔を上げる気力もなくって、そのまま雲の穴から地獄を眺めてた。

 そしたら、不思議。

 今でもまだ水の龍が元気に空中を飛んでるじゃないか。

 さっと顔を上げてみれば、おさ代理が奇乳を寄せて、水の龍を魔法で動かしてる。

 その隣では、おさが麻薬植物を欲しがってわめいてる。



「あ゛あ゛あ゛あ゛ん、もう! 早く麻薬植物をくれって言ってるじゃろぉが! 麻薬! 麻薬! 麻薬ぅ!」



 あきれた。

 子供が目の前で人質に取られて、もしかしたらこのまま奪い去られるかもしれないって状況、わかってないの?

 ううん、この人達はきっとそれを理解した上で、自分勝手な振る舞いを続けてるんだろうね。

 麻薬も金儲けも、一度始めたら途中でやめるのは難しいみたい。

 かわいそうな千祚代ちそよちゃん。

 きみの流した涙の意味が、今はよくわかる。



「まずいですね……」



 崩壊する都市を見つめる宝百合たからゆりちゃんの表情が険しい。



「まずいのは見ればわかるよ」

「見た目以上にまずい状況なのです。水製都市すいせいとしは高台にありますから、このままですと、周囲にある他の里にまで水が流れてしまいます」

「床下浸水になっちゃう?」

「その程度では済まないでしょう。ただの水ではなく、汚染水なのですから」

「ってことは……」

「被害が拡大します」



 とんでもないことだ。

 簡単に言ってしまえば、もっともっと死傷者が増えるかもしれないってことだもん。

 この会話を耳にしてもなお平然としているおさ夫婦。

 ぼくは気持ちを抑えられず、二人に詰め寄った。



「どうするのさ! 早く何とかしなきゃいけないの、わかるでしょ!? あなた達はここで一番偉い人達なんだから、教えてよ。どうすれば、これ以上、犠牲者を出さずに済むのかを!」

「…………水製都市すいせいとしは安心安全です。んふっ」

「どこがだよ!? 目の前の現実を直視しなよ!! とんでもないことになってるじゃないか!」

「…………この困難に……ふふ……打ち克ったあかしとして、『日曜日の祝祭』を………………続けます」

「どう打ち克つの!?」

「…………安心安全な祝祭を実行……します。んふふ」



 お話になりゃしないよ!

 壊れたロボットみたいに同じことを何度も何度も繰り返しやがって!

 しかもおさの方は麻薬をくれとすがってくるし。

 どうすれば、こいつらからまともな言葉を引き出せるのか?

 その答えは宝百合たからゆりちゃんが提示してくれた。



「賠償を求められますよ」



 そう告げられた途端、おさ夫婦が慌てふためき始めた。



「どっ、ど、ど、どうすればいい!? 教えて。うん。批判するだけじゃなくって、ちゃんと提案してよ! 宮仕えの魔女でしょ!?」

「まず、そもそも、水製都市すいせいとしが崩壊している原因に心当たりはありますか?」

「えっ、それは、まあ、官僚の方々のお仕事ですね。我が領土では、すべてが水でできてますけど、それは役所に勤める官僚の方々が担当しておられることですから、ま、あの、彼らの勤務態度に問題があr━━」

「官僚達は体が膨張したため、水製都市すいせいとしを維持する魔法を続行できなくなった、ということですね?」

「膨……張……? ああ、そう、非常に迷惑な魔法でねぇ……んふふ……ふ……あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!」



 おさ代理、身体中の脂肪を縦に横に揺らしながら、地団駄じだんだを踏む。

 それでも、しっかりおっぱいを寄せたまま水の龍を操ることを忘れない。



「何なの!? なんで私がする必要のない苦労をしないといけないのぉ!!? 全っっっ然、私、悪くないよね!? ねぇ!? あ゛あ゛あ゛あ゛! そもそも、千祚代ちそよさらわれるのがいけないんでしょ!? あの子が悪い! 私は何っっっにも悪くない!!! 本当に使えない子!」



 見た目も心もみにくいババアめ。

 そんなひどい罵倒を、もし千祚代ちそよちゃんが聞いてたらどうするんだ?

 ちょうど彼女が気絶してるからいいものの……



「ごっごめんなさい、つっ使えない子供で」



 千祚代ちそよちゃん!?

 いつの間に目を覚ましたの!

 って言うか、きみが謝る必要はn━━



「お前が謝る必要はない!!」



 ぼくの台詞せりふをテイラーが奪った。

 カーチャンのたくましい腕の中で、偉そうにふんぞり返ってる。



「そいつらはどうしようもないクズだ! 『利己的な人間はゆるされない罪』で、ぼくが死刑にしてやる。だから、お前はこちら側につけ!」

「……あっありがとうございます……。うっ嬉しいです」



 千祚代ちそよちゃんはあくまで冷静に、



「でっでも、わっ私には親以外に、たっ頼れる方々がいます。だっだから、おっ親のことなんて、わっ割りとどうでもよくなってるんです。……あっあなたにはそういう人がいないんですか?」

「……っ!!」



 あおりじみた返答は意外だったのかな?

 テイラーの目はあちこち泳いで、最後はお仲間の元にゴールした。

 無言のうちに加勢を求めたわけだけど、意外にも、返ってきたのは冷ややかな反応。



「どうする? 治癒魔法のガキは手に入ったし、魔物は膨張させた。あの赤毛のガキはまだ必要なのかい?」

「テイラーを奪還するなら、難敵と戦わなくちゃならないし、そもそも、そこまでして奪い返す戦術的な価値はないんじゃないかな? 彼にはさっき殺されかけたよね? しかも、発動条件が厳しすぎる割に、得られる効果が少ない毒魔法。これって、もう答えが出てるよ」

「うるさい。じゃ、去るわよ」



 あっさりと会議は終了。

 やつらは仲間を見捨てて去ろうとする。

 敵のことだけど、釈然としないぞ。



「待て! 逃げるな!」



 ぼくの抗議に、ただ一人ジュリエットだけが反応した。



「二度とその言葉を私に投げないでちょうだい。あたしは欲深いジュリエット。この世のすべてのロミオがほしいのよ」



 わけわかんない台詞せりふを吐いて、彼女は飛んでいった。

 毒雲の上から、晴れ渡る青空へと。

 愕然とした表情でそれを見送るテイラー。

 ぼく達はえて彼女達を追いはしない。

 今はそれよりも、水製都市すいせいとしの崩壊を如何いかにして食い止めるかが大事だから。



 だけど……あおも動かないね。

 微動だにしない。

 何これ……作戦?



「「「おいおいおーい!!」」」



 飛び去ったテロリスト集団が引き返してくる。



「「「さっさとついてこーい!!!」」」



 やつらは全員であおにツッコミを入れた。

 作戦でも何でもなく、ただぼけーっとしてただけだったのか……。



「うぇ~~~い! おっ断りしま~~~す♪」

「はぁ!? あんた、裏切るの!?」



 ジュリエットがキレる。



「いくらあんたでも殺すわよ」

「裏切るんじゃなくって中立宣言ってとこかな。ぼくはただ皆に水製都市すいせいとしの結末を見届けてほしいだけ☆」

「殺す」



 ジュリエットがパーティーバッグからビーム魔法を放出。

 白人忍者じじいはキラキラ手裏剣を連発。

 金髪黒人お姉さんは筋力を強化して猛突進。

 へらへらおじさんはジュリエットの背中の上でへらへら。

 テロリストvs碧あおのバトルが始まった!



 あおは敵の攻撃を鮮やかにかわしつつ無意味にポーズを決め、緑の縄で攻撃しつつ無意味にポーズを決めた。

 えぇい、無駄にかっこつけるな!



 ド派手な戦いだけど、他人事じゃない。

 地上人テロリストども、どさくさ紛れに、ぼくやカーチャンのいるところに攻撃を落としてくるんだ。

 大混戦、再び。

 ぼくの脳内で、あのトラウマがよみがえった。



「決めました! 水の龍を使います!!」



 脈絡のない提案は宝百合たからゆりちゃんから。



「敵の注意が散漫になっている今こそ好機。水の龍を動かすのです」

「動かしてどうするの?」

「作戦はこうです……」



 彼女の手短な説明によると、水の龍を浮遊魔法で駆使し、洪水こうずいをすべて飲ませようというわけだ。

 おさ代理に確認したところ、確かにそれは技術的に可能であるらしい。



「それでは、おさ代理は水の龍を私と共に操作をお願いします。力石りきいしあねさん、私が魔法に集中している間━━きゃぁっ!」



 ジュリエットのパーティーバッグから放たれたビームが襲いかかったものの、あねさんが難なくね除けた。



「……護衛をお頼みします!!」

「あいよ!」

「ぼくは……ぼくは見守っててあげる!」



 そこへ、テイラーをがっつりつかんだカーチャンがやって来て、



「護衛に協力するわ」



 テイラーに人質としての価値はなくなったようだけど、敵に渡すよりは確保しておいた方がよい。

 そういう判断になった。



「行きます!!!!!!!!」



 宝百合たからゆりちゃんがおっぱいを寄せる。

 紅潮した顔から汗が垂れて、一生懸命な姿もかわいい。

 そんな彼女の実力は大人顔負け。

 蝶貴妃人ちょうきひじんおさ代理が、ついていくのに必死になるくらい。

 屈強な成人女性二人に囲まれて、すっかり安心なぼくは、雲の穴から水の龍の様子をじっくり観察した。



 水の龍が水面ギリギリを飛行しつつ、流れる水をごくごく飲んでる。

 大きなお口を遠慮なく開いて、だけど人々を飲みこんじゃわないように細心の注意を払いながら、水を飲んで、水を飲んで、龍はどんどん大きくなっていった。

 水の龍がどれだけ大きくなろうと、どれだけ荒々しく飛ぼうと、建物が崩れ去った今、龍を邪魔する障害物は何もない。

 苦しみに表情をゆがませてた人々も、地獄に現れた救世主が活躍する姿を見て、勇気づけられたようだ。



 だけど……ぼくには気がかりなことがあった。

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