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おっぱ異世界  作者: えすくん
第2章 日曜日の祝祭
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第35話 愛を語りたい!

 こんにちは。鷹司たかつかさタカシです。

 毒の雨が降り続く中、ぼくは土下座します。

 あねさんを死刑にするのは勘弁してください、と。



「タカシ……もういい……。あたいとあんたには血のつながりがないんだ。あんたがそこまでする意味はない」

「血は、ね……だけど……」

「……」

「心はつながってる」



 ぼくは力石りきいしあねさんの目を覗きこみながら言った。

 言ってる意味がわかんないね……と彼女の目が語ってた。



「ふっざけるなよ!!!」



 赤毛の少年テロリストが苛立いらだってる。



「罪を犯したくせに、のうのうと生き長らえようとするなんて……そんなのおかしいじゃないか!!!」



 叫びと同時に、足を動かす少年。

 この位置、この角度。

 間違いなく蹴りが入る……ぼくの顔面に!

 やめてやめてそんなの絶対痛いじゃんお願いしまs━━



「テイラー!」



 どこかの誰かの呼び掛けが、少年の足を止めてくれた。

 ぼくの鼻に彼の爪先が触れる直前で。

 危なかった……鼻が死んじゃうところだったよ……。



 いや、安心してばかりもいられない!

 声がした方に目をやれば、地上人テロリスト一同の姿!

 雨に降られて膨張したかと思いきや、全員無事の様子。

 雲のはしから、以前と変わりない姿で、こちらに向かって飛んできた。



「唐突に毒をくっていい戦術だと思うんだけど、でも、仲間のぼく達まで巻きこんじゃうなんて、おかしくない? こういう危険性の高い作戦って、もしやるなら、事前に相談するものだよね? いきなりやられたんじゃ逃げ場もないし、きみだって、ぼくらの助けなしにこれから一人で魔物と戦わなくちゃいけなくなるんだよ? 自軍を有利にすることが戦いの基本。きみのやったことは、サッカーで例えるならオウンゴール。つまり最悪の一手だったってこと」

「うるさい。っていうか、テイラー、あんたの毒魔法で私がデブになったら、どう責任とるつもりなのよ!? 顔に傷があるだけでも憂鬱になってるっていうのに」

「そんなことより、力石りきいしあねさんとバトルさせておくれよ」

「この甲剛人こうごうじんは今すぐ死刑にするんだ!!」



 ぼくとあねさんが狙われるかと思いきや、仲間同士でいざこざが勃発した。

 これは上手いこと行けば、このまま内紛からの自滅ってことになるんじゃない!?

 なんて甘々の期待をしたのも束の間、彼女達はある一点で一致団結を果たした。



「死刑? ああ、殺してやるさ。その役目をあたいにやらせてくれって言ってんだよ」

「それなら、いいよ」



 やつらはあねさんを殺すという方向性でまとまった。



「縄は外さなくっていいぜ。あたいがあこがれた女だ。この程度のピンチ、切り抜けられて当然だよなぁ?」



 甲剛人こうごうじんファッションの黒人金髪お姉さんが問答無用で勝負を仕掛けてきた。

 あねさんは緑の縄で亀甲縛きっこうしばりにされたままの状態。

 ぼくはヒョロガリのクソザコ。



 ぼくに何ができる?

 考えるまでもない。

 できることなんて、何もない!

 だけど、何もしないでいいわけじゃない!



「でえぇーーーーーい!」

「あっ……バカ! やめな!」



 ぼくは身をていして、あねさんをかばった。

 断られても知るもんか。

 来い!

 金髪お姉さんの筋肉が美しくしなる。

 おっぱいが揺れる。

 ぼくごとあねさんをブン殴る勢いだ。

 全然怖くなんかn……やっぱ怖い!



「カーチャン、助けてぇえぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「はい来たぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



 雲からカーチャンが生えてきた!

 え?

 嘘!

 カーチャン、毒の雨に降られてなかったの!?

 目の前にあるバッキバキの筋肉のかたまりは、正真正銘、ぼくのカーチャン!



「っらあ!!!」



 まずは金髪黒人お姉さんを蹴っ飛ばし、その勢いで振り返ると、あねさんの縄をビームで切断。

 続けて、千祚代ちそよちゃんの縄も切断しようとしたけど……俊敏に対応したあおに阻止されてしまう。

 さっさと飛んで逃げるあおは深追いせず、カーチャンは狙いをジュリエット達に切り替える。



 油断と驚きが、テロリスト達に魔法の発動を遅らせる。

 カーチャンは休むことなく攻撃をり出す。

 この筋力!

 この無双!

 れしちゃう!



 夢中になって観戦してる最中、今度は雲から宝百合たからゆりちゃんが飛び出してきた。

 しかも、蝶貴妃人ちょうきひじんおさ夫婦というおまけ付き。



宝百合たからゆりちゃん! 無事だったんd……おっぱい減ってる!」



 魔女っ子のEカップがC……いや、ギリギリDカップになっちゃってる。

 もったいな~い。



「どこを見ているのですか! それより、状況は!?」



 ぼくは雲の上でのできごとを簡単に説明してから、宝百合たからゆりちゃんがどうやって助かったのか尋ねた。



「てっきり雨に降られちゃったのかと思ったけど……」

「すぐに魔法を発動したので自分の身を守ることはできたのです。ただ、あの量の雨を再び空に留めるだけの余裕はありませんでした。ですから、助けられる方だけ助けようと、咄嗟とっさにカーチャンさんとおさ夫婦をお守りしたのです」



 ふぅん……それでその二人がここにいるってわけか。

 だけど、おさ代理はちょっと雨をびちゃったみたい。

 全身がぶよぶよに膨張して……いや、元々デブなだけか。



「どうして、あんた達はどいつもこいつも他人のために命を張れるんだい!?」



 突然、あねさんが大きな声を出した。



「血のつながりのないやつらを守ったところで、自分の遺伝子を未来に残すことにはなりゃしない。どうして、そんな無益なことを平気でやれるんだい!!?」



 真剣な、だけどどこか悲しげな訴えを受けて、ぼくは真面目に理由を考えたんだけど、上手い表現が見つからない。

 仲間だとか、大切な存在とか、心がつながってるとか、そういう言い方ではあねさんには通用しなさそうだもん。

 わかりやすく言ってみようか。

 つまり、



「愛してるからだよ」



 口に出してから照れてしまう。



「あ、ああああ愛とは言っても、家族愛とか隣人愛とかの方だからね! べっべべべべべべべっ別に恋愛感情じゃないんだからね!」

「愛……」

「そう、愛だよ。愛があるから、自然に体が動くの。殺されるかもしれないっていう恐怖よりも、守りたいっていう気持ちが勝つんだ」

「……」

「あっ、でも、さっきはカーチャンが助けに来てくれなかったら、蹴り殺されてたかもしれないよね……? 今になって、足が震えるぅ」



 その説明が功を奏したのか、あねさんの表情は次第に明るくなった。

 微笑を浮かべて、



「あたいが間違ってたんだね……」



 それと同時に、カーチャンの雄叫おたけびが聞こえてきた。

 見れば、カーチャンが赤毛の少年を引っ捕らえてる。



「あんたが毒の魔法を使ってんでしょ!? さあ、早く雨を止めて、ふくらんだ人達を元に戻しなさい!!」

「注目ぅ~~~~~~~~☆」



 年端としはのいかない子供に暴力を振るおうとするカーチャン。

 それを止めたのはあお

 緑の縄で縛った千祚代ちそよちゃんをこれ見よがしに掲げながら、



「そこの大きな子猫ちゃぁん! ぼくと人質交換しちゃわない?」



 イケメンのくせに悪くない提案をする。

 千祚代ちそよちゃんは返ってくるし、このままだとカーチャンは赤毛の子を殺しかねないもんね。

 ところが、一人一人に思惑があって、話がてんでまとまらない。



 ジュリエットは、

「い・や・よ! まだ私の顔の傷を治させてないんだもの」



 金髪黒人のお姉さんは、

「そんなことより、力石りきいしあねさんと戦わせておくれよ!」



 へらへらおじさんは、

「……えへ」



 お仲間からテイラーと呼ばれてる赤毛の少年は、

「『利己的な人間はゆるされない罪』であいつを死刑にしなきゃなんないんだ! 離せ!」



 カーチャンは、

「あぁら、奇遇ね。私もそう思うわぁ。……自分勝手な人間は罪だ……ってね!」



 ぼくは、

「カーチャン、殺しちゃダメだよ! 命は何より大切なんだ!」



 白人忍者は、

「魔物殺しが一番大切な仕事じゃないか。議論の焦点はそこなんだ。つまり、彼女を手放すこと、テイラーを失うこと、どちらがより致命的であるかってこと。その点をよくよく吟味した上で結論を出さないと、これからの魔物狩りが困難になってしまう。わかるね?」



 宝百合たからゆりちゃんは、

「魔物以下の害獣が何をのたまいますか! 死を以て、己が生をつぐないなさい!」



 力石りきいしあねさんは……何かを言いかけたけど、大きな音にき消されちゃった。

 大きな音……。

 雲の上の喧騒は一瞬にして立ち消えた。

 皆が耳を澄ませて、音の正体を考える。

 それはまるでバケツから水を引っくり返したような音。



 ここは水製都市すいせいとし

 水ならいて捨てるほどあるけど、魔法によって壁や家や道や街灯の形に固定されてる。

 決して流れ去るなんてことはないはず……だけど、もしかして……。

 ぼくは雲に掘った穴に再び顔を突っこんだ。



「ああ! やっぱり……!!」



 これが悪夢じゃなくって現実だなんて信じたくないよ。



水製都市すいせいとしが崩壊してる!!」



 ぼくの報告に反応して、各々、雲に穴を掘って「それ」を目撃した。

 水で形成されてた物が、ただの水に溶けてる。

 水は道は川になり、どんどんかさを増す。

 膨張した人々は泳ぐことも立つこともできず、どんぶらこどんぶらこと水に流されて、ある者はおぼれて死に、またある者は植物のトゲに刺さって破裂した。



 地獄だ。

 ここには地獄にあるものが全部揃ってる。

 残酷な死。

 弱者に与えられる制裁。

 徹底的な崩壊。

 人の不幸を笑う人。



「魔物どもの死に祝福を!」



 ジュリエットが空に拳を突き上げた。

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