第31話 この手を離したくない!
こんにちは! 鷹司タカシです!
ぼくは千祚代ちゃんの秘密を知りました。
本当は、親がまだ生きていて、しかもその親というのは蝶貴妃人の長夫婦だそうです!
よかった。
身寄りのない可哀想な千祚代ちゃんはいないんだね。
でも、親に愛されてないのは可哀想。
もしぼくがカーチャンに愛されてなかったら、すっごくつらいもん。
「ごっごめんなさい……うっ嘘をついて……」
涙をぽろぽろ溢しながら謝る千祚代ちゃん。
ぼくはどんな言葉をかけてあげればいいんだろう。
「うぇ~~~~い。きみを窮屈な世界から解き放してあげちゃうよ、キュートガール☆ ぼくと一緒に遠くへ行こうよ!」
ぼくを後ろから抱き抱える碧が軽い口調で千祚代ちゃんを口説こうとする。
空気を読みなよ!
「ダメダメ。こんなチャラいやつ、信用できたもんじゃない。ぼくん家においでよ!」
「……」
「……」
「……」
空に浮かんだぼく達に沈黙が訪れた。
え?
なんか千祚代ちゃん、迷ってない?
一夜を共にしたぼくを即決できないってことは、じゃあ、こういうチャラいやつがタイプなの!?
「あっありがとうございます。……こっこんな私のことをさっ誘ってくださって……。でっでも、わっ私はただ自由になっなれればいいってわけじゃなくて……」
「千祚代ちゃんはどうしたいの?」
「……わっ私は……」
「正しい人は救われますからねー!」
千祚代ちゃんの母親━━水製都市の長代理の演説がうるさい。
「家のために、家族のために、故郷のために、頑張ってる人が正しいんですよぉぉおおぉぉぉ!!」
「わっ私は愛されたいんです!!!!!!!」
千祚代ちゃんが華奢な体から精一杯の大声を出した。
その気持ちに応えてあげたい。
「きみの治癒魔法を愛してるよ、キュートガール!!」
「一緒にいて楽しい! 羽が綺麗! 千祚代ちゃん、大好き!!!」
「タッタカシさんといっ一緒に行きます!!!」
わぁぁああぁぁぁぁぁあぁぁあぁい!!!!
イケメンアイドルに勝った!
ありがとう、千祚代ちゃん。
これからもよろしく、千祚代ちゃん。
そんな喜びも束の間。
「じゃあ、力ずくで奪っちゃうね」
顔がイケメンなやつは心が醜いに違いない。
碧はぼくをポイ捨てした。
ここ、水の櫓の屋根より高いところだよ!?
あまりの恐怖と落下感覚に、キンタマがきゅんと縮んじゃう。
しかも、碧は群衆に向かって、
「懸賞金つき指名手配犯のお裾分け~ぃ」
当然、人々の注目はぼくに集まった。
やだ、そんなぎらぎらした目で見ないでよ!
千祚代ちゃんはぼくを助けようと動いてくれたけど、呆気なく、碧に抱き止められてしまった。
「きみも利己的な本性を曝け出しちゃいなよ、キュートガール」
落下!
落下!
落下!
ぼくは人生の終わりを覚悟した。
せめて痛くなければ、それでいいや。
一瞬で死ぬとか、柔らかいところに着地するとか、そう、例えばおっp━━
「ぬぉぉぉぉおおぉぉおぉぉ!?」
地上に向かって落下していたぼくの体、今度はいきなり空高くに向かって上昇し始めた。
何これ!?
と思ったけど、おっぱいを寄せて飛んでくるカーチャンと宝百合ちゃんを見たら、一発でわかった。
これは宝百合ちゃんの浮遊魔法!
上昇してすぐ千祚代ちゃんのところまで接近した。
ぼくはどうにか彼女の手を掴もうとしたんだけど、
「子猫ちゃんは渡さないよ」
碧が千祚代ちゃんを抱えたまま逃げる素振りを見せた。
「あんたは逃がさないわよ」
あと一瞬でも遅れてたら、間に合わなかったかもしれない。
すさまじい速度で移動したカーチャンが碧の後ろを取った。
すかさず、こめかみグリグリ攻撃!
「悪いことする子には、お仕置きしなくちゃいけないもの!」
「ぐあぁああぁぁぁあぁあぁぁ!」
碧の力が緩んだ瞬間に、ちょうどぼくと千祚代ちゃんの手が繋がった。
ぼく達はそのまま一緒に、雲ひとつない青空へと舞い上がっていった。
「うっぐぬぅ……キュートガール! 戻っておいで」
「有事に際して、場を乱す行為はお控えください!」
追いついた宝百合ちゃんが吠える。
「これ以上、迷惑を及ぼし続けると仰るのであれば、容赦は致しません」
「あいだだ……どうしてぼくに勝てると……いだっ……思えるんだい?」
「わたくしは皇帝陛下より参勤を許されし宮仕えの魔女! そして、あなたをグリグリしておられる方は予言の戦士なのです!」
浮遊魔法が途切れて、ぼくはまた落下しそうになったものの、さっと千祚代ちゃんがお姫様抱っこしてくれたので助かった。
ぼくを支える柔らかい腕。
ぼくの腕に密着する柔らかいおっぱい。
やっぱり女の子に抱かれるのはいい気分だね。
ところで、そんな柔らかい女の子が震えてるのは、きっと宝百合ちゃん達の会話のせいだ。
「タッタカシさんの母上はよっ予言の戦士なんですか……!? わっ私……そっそんなすごい方にうっ嘘をついてしまって……」
うーん。
あんまり謝られると、ぼくの方が申し訳なくなっちゃう。
だって、
「実は、ぼくも嘘をついてたんだ。ぼくはネアンデルタール人の女の子じゃない……」
ウィッグネットを脱ぎ捨てた。
「ぼくは男で……地上から来た予言の戦士なんだ」
「うっ嘘……」
「本当。ねえねえ、千祚代ちゃん。ぼく達二人とも、嘘がバレないやしないかって、ずっとひやひやしてたんだよ。なんだかバカみたいだね」
「…………ふっ。ふふふふ」
「ふふふ」
「へっ変ですね、ふっ二人して」
「そうだn━━わわわっ!?」
下からの突風。
それもただの風じゃない。
目に見える風がぼく達の体に浴びせられた。
「何なの、これ!? また碧が攻撃してんの??」
「あっ、ちっ違います。こっこれは『文字送りの儀』です。ねっ願い事を文字にしてそっ空に飛ばすと、ねっ願いが叶うって言われてます」
な~るほど。
これも祝祭の一部か。
言われてみれば、確かに、それは文字だった。
ただし、全然見たことない文字。
どれだけ体に当たっても痛くないや。
「千祚代ちゃん、ぼく達もやろうよ」
「えっ? いっいいですけど……なっ何か願いがありますか?」
「ぼくはやっぱりおっp……」
「……」
「千祚代ちゃんには何かないの?」
「わっ私は……あっ愛されたいと……」
「愛されたい? 誰に?」
文字を浴びながら、もじもじしつつ、千祚代ちゃんは、
「だっ誰でもいいんです」
と言った。
親には治癒魔法の才能しか愛してもらえないから、誰かに自分自身を愛してもらいたい、と。
ぼくは首を傾げた。
だって、ぼくにとって、とっくに彼女はかけがえのない友達なんだもん。
いや、ぼくだけじゃないよ。
カーチャンだって、千祚代ちゃんのことを愛しく思ってる。
それは、両親を亡くした可哀想な女の子だって信じてたというのもあるけど、それだけじゃない。
あの人は単純だから、かわいい子供をすぐ好きになっちゃうんだよ。
つまりね、きみのその夢はもう叶ってるよ。
「じゃっじゃあ……わっ私はタカシさんと」
「ぼくは千祚代ちゃんと」
『いつまでも一緒にいられますように』
願いを乗せた文字が空を舞い上がった。
ぼくには読めない文字。
だけど、すごく綺麗だ。
「出ますよ~、水の龍!!!」
水の櫓の屋根の上で、太っちょの長代理がでっかいおっぱいを寄せた。
すると、何もないところから水が現れて、それがどんどん大きくなる。
人々が見守る中、徐々に水が巨大な龍の形を作っていく。
「こっこれが『天つ龍の儀』で、しゅっ祝祭の締めになります」
どうやら、皇帝が心配してたテロは起こらず、平和に祝祭が終わりそう。
強いて異常事態を挙げるなら、碧とかいう変人がうざ絡みしてきただけ。
ぼくが誘拐犯だと誤解してたんだろうけど、それにしても、世界的なアイドルにしちゃ軽率なんじゃないの?
実際、ぼくは冤罪だったんだしさぁ。
ところで……なんだか、さっきから薄暗くなってきたような。
見上げれば、大きな雲が太陽を覆ってる。
いつの間に、こんな大きな雲が流れてきてたんだろう?
「わっ綿」
「ん?」
「わっ綿が……ほっほら、タッタカシさんのほっぺに」
それは、たんぽぽの綿に似てる。
「こんなのいつからくっついてたんだろ?」
「さっさっき下から飛んできましたよ」
……下から?
上に向かって?
上には……雲がある。
雲は……全然動いてるように見えないぞ。
「これ……もしかして……」
「敵襲━━━━━━━━━━━━っ!!!!」
水の櫓から、姐さんが急発進した。
「そいつは魔法の雲だ! 雲の上には当然……『やつ』がいるはず!! 殺戮が始まるから、愚民どもを避難させな!!!」
「姐さんはどこ行くの!?」
すれ違いざま、ぼくは尋ねた。
返事はなかったけど、復讐に決まってるよね。
そんな危険なことはさせたくないし、他人の命を奪わせたくもない。
でも……きっと、その想いは通じない。
今のぼくにできることは避難を呼び掛けること。
「皆ーっ! 危ない人たちがやって来たよーっ!」
「わたくしは宮仕えの魔女です。こちらは予言の戦士達。長夫婦のご令嬢もいらっしゃいます。何より、これは皇帝陛下のご命令なのです。さあ、早く避難を!」
「あんた達、さっさと避難しなきゃお仕置きするわよ!!」
「はっ早く逃げてー」
ぼく、宝百合ちゃん、カーチャン、千祚代ちゃんが声を張り上げた。
結果、ダメだった。
どれだけ口を酸っぱくして言っても、群衆は水の櫓の前から一歩も動かない。
「あっあの人達は、みっ水の龍に触るとびょっ病気が治ると信じてますから……」
「う~ん……そうだ! 宝百合ちゃんの浮遊魔法で全員浮かせて移動すればいいんじゃない!?」
ぼくは千祚代ちゃんに降下してもらいながら、宝百合ちゃんに提案した。
「さすがに、これだけの人数は困難です」
「じゃあ、取りあえず千祚代ちゃんだけでも、ここから離れたらいいよ」
「そうはいっかないんだよねぇ~☆」
カーチャンにぐりぐりの姿勢で捕まったままの状態で、碧はふてぶてしく振る舞う。
「キュートガールを苦しみから救ってあげるのがアイドルの仕事だからね!」
そう言うや否や、碧は雄っぱいを寄せて、大量の煙を噴出した。
前が見えない。
カーチャンの驚く声。
何かが素早く動く感じ。
もうすっかり慣れた感覚━━落下感覚。
「タカシ!」
カーチャンが捕まえてくれなかったら、危うく死ぬところだったよ!
いや、今はそんなことより、
「千祚代ちゃんが碧に拉致されちゃった!」
煙が晴れて、よく見える。
ぼくの大切な友達がイケメンアイドルに拐われる様子が!
やつは雲の上に向かった。
「ごめんなさい。うっかり逃がしちゃったわ」
「避難は宝百合ちゃんとカーチャンに任せた! ぼくは千祚代ちゃんを助けに行く!」
「あんた、飛べもしないくせに何言ってんのよ」
「そうだった」
でも、じゃあ、どうすればいいって言うの!?
カーチャンは余裕をかました様子で、
「ねえ、宝百合ちゃん。あのわからず屋さん達を避難させるの難しいわよねぇ。でも、世界の敵から守るための避難なんだから、そもそも、その世界の敵をやっつけちゃえば済む話じゃないかしら?」
「仰る通りです」
「じゃあ……行くわよ、雲の上!!!」
「ダ・メ・よ」
色っぽい声とともに、頭上からビームが放たれた。
幸い、ビームはカーチャンが当たり前のように蹴り飛ばしてくれた。
ビームって蹴り飛ばせるんだ!
それより、誰がビームを撃ったの?
見上げれば、そこには金髪、赤の全身ラバースーツ、ボインボインおっぱいの女性がいた。
彼女の手には、高級そうなパーティーバッグ!
「久しぶりねぇ、ガキンチョ」
「あの時のお姉さん!!」